三菱自動車や東芝の不正騒動から学ぶべき、大企業病の恐ろしさ

なぜ三菱自動車のような大企業で、不正が繰り返されてしまうのでしょうか(写真:ロイター/アフロ)

三菱自動車の燃費不正が、大きな話題になっています。

現在の不正の発端は1991年から始まっていたということですので、なんと25年以上もの長きにわたって実施されていたことになります。

補償などの負担額は1000億円は優に超えるとみられており、早くも会長と社長の辞任も取りざたされているようです。

参考:三菱自動車は25年も不正試験を継続していた

私自身も、自分が最初に就職した会社で、新入社員時代に三菱自動車さんをちょっとだけ担当させて頂いていたこともあり、個人的にも様々な思い入れがある会社なのですが、今回の報道を見る限り私が社会人になる前から不正が始まっていたと言うことで、とにかく残念としか言いようがありません。

時を同じくして、排ガス不正問題で大きくブランドイメージを落としたフォルクスワーゲンの不正も、2006年11月から組織的に実施されていたものだったと言う報道がされましたが、三菱自動車の不正は期間だけいえば、今世紀最大の自動車会社の不祥事と呼ばれることもあったフォルクスワーゲンの不正の倍以上の期間実施されていたことになります。

参考:VW不正、組織関与の疑い=開発部門が違法ソフト承認

なぜ立派な大企業が不正に走ってしまうのか

昨年は東芝が不正会計で同様に話題になりましたが、東芝の不正会計騒動にしても、今回の三菱自動車の不正騒動にしても、学生が就職できれば親が諸手を挙げて喜ぶような会社だったはずの大企業が、なぜこのような不正に組織ぐるみで走ってしまうのか。

不思議に思う人も少なくないのではないでしょうか。

実際、不正のニュースだけ見ると、企業全体のブランドイメージがかなり悪くなってしまっている面は強いと思いますが、実際の現場の担当者の方々はどちらの企業も真面目に働いている方々が多く、およそこうした不正とはかけはなれた会社というのが率直な印象です。

そういう意味で、今回の騒動で改めて明らかになったのが、「大企業病」という目に見えない病気が、いかに恐ろしい病気かということだと思います。

大企業病自体は人によって様々な定義がありますし、その症状も様々ですが、特に象徴的なチェックポイントは下記の3つでしょう。

■顧客中心ではなく自社中心

■自社らしさ重視よりも競合比較重視

■長期ビジョン達成より短期数値目標達成必須

一つずつ説明します。

■顧客中心ではなく自社中心

本来、1企業というのは、社会における多数の存在の中の一つの存在でしかないはずですが、大企業病にかかった会社においては、自らの会社自体が世界の中心のような価値観になりがちです。

企業自体が大きいために、会社の外が見えにくくなってしまうのが一番の要因でしょう。

地動説と天動説の違いと考えて頂いた方が分かりやすいでしょうか。

今回の三菱自動車に関連して象徴的なのが、物議を醸しているこちらの記事でしょう。

参考:「燃費なんて誰も気にしていない」“三菱グループの天皇”が放言 不正問題への取材で

この発言自体は三菱自動車の方の発言ではなく、あくまで三菱重工相談役の発言のようですが、今回の騒動の原因を考える上で、実に象徴的な発言であると言えると思います。

こうした、天動説型の、自社の価値観を世の中の中心として考えがちな大企業で象徴的なのは、議論の中心に「顧客」が登場してこないことでしょう。

本来は、企業にとって一番重要なのは顧客のはずですが、天動説的な大企業においては、議論が顧客中心ではなく自社中心になりがちです。

そうすると価値観や判断基準が企業の内部のヒエラルキーによって決まりますので、どうしても上司や組織の論理が強くなります。

今回のような組織ぐるみの不正においては、社会的な常識で考えれば許されない「不正」と考えられることであっても、上司が良いと言っているから良い、とか、社内ルールにおいては許容範囲であって不正ではない、という自社中心の価値基準で判断しがちなのです。

そのような組織の空気の中で、同じ組織の社員が「不正」に対して問題提起するのは、天動説の時代に地動説を唱えて処刑になりそうになったガリレオと同じ非常に難しい状況になることは容易に想像できます。

ある意味、真面目であれば真面目な人ほど、真面目に組織の論理にしたがってしまうという状況になりがちな構造と言えます。

■自社らしさ重視よりも競合比較重視

次に大企業病にかかった企業が陥りがちなのが、類似の競合他社を意識しすぎることです。

もちろん、企業同士の競争はどんな業態によっても大なり小なり存在しますから、競合を意識するのは当然の行為とは言えます。

ただ、大企業病にかかった際に問題になるのが、自社らしさから乖離したレベルで競合比較を優先してしまうことが多い点です。

実際にフォルクスワーゲンの不正においても、ライバルであるトヨタのプリウスに対するライバル意識が不正のきっかけになっていたのではないかという考察がされていました。

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参考:フォルクスワーゲン「排ガス不正問題」  背景にトヨタ「プリウス」に対する過剰なライバル意識

三菱自動車においても、本来は三菱自動車らしい三菱自動車でしか開発できない自動車を開発する、というのが自動車会社として理想的な目標だと思いますが、記事を拝見する限り「燃費」という他社と比較した分かりやすい点だけを達成することだけに集中してしまっていた構造が垣間見えます。

おそらく、軽自動車においては燃費が一番の選択要因になりがちという話だとは思うのですが、本来自動車の選択する際の要因には燃費だけではなく、デザインやサイズ、走り心地など様々な要因があるはずです。

そういう意味では、三菱自動車も何も他社と同様の低燃費競争にいくのではなく、違う三菱自動車らしさの追及をすれば、違うシナリオがあったはずです。

マツダや富士重工業は自社らしさへの集中で成功

一般論に聞こえるかもしれませんが、自動車業界には実は多々成功事例があります。

例えば、マツダは一昔前、競合を意識した拡大路線にはしって倒産してもおかしくないほどの危機に直面していますが、最終的にマツダらしさを全社一丸で再定義し直すことで見事な復活を遂げました。

直近では販売台数で過去最高を更新したそうで、丁度今月発表された今年の日本マーケティング大賞に選ばれたほどです。

参考:マツダ、営業利益11.8%増 16年3月期 販売台数は過去最高の153万台超え

参考:マツダ「クルマ市場活性化」が2015年の日本マーケティング大賞に

富士重工業も、元々は三菱自動車同様、軽自動車部門がありましたが、2008年に軽自動車の自社生産・開発の終了を宣言。得意な分野に特化することで事業を拡大、今年は初の世界生産100万台も視野に入っているほど、好調に業績を伸ばしています。

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参考:富士重、20年度の世界生産を120万台に設定

実は、こうしたマツダや富士重工業のように、直接的な競合企業をベンチマークに他社と同じ土俵で戦うのではなく、自らの強みに特化した方が結果的に他社との差別化が図れて業績が拡大するという成功事例は数多くあります。

ただ、大企業病にかかると、どうしても分かりやすい競合と同じ軸での比較に意識が行き、他社と同じ軸での不毛な競争に注力してしまいがちになるわけです。

■長期ビジョン達成より短期数値目標達成必須

さらに大企業病の症状として、分かりやすい症状と言えるのが、部署毎の目標設定が短期的な数値目標のみになってしまうことが多い点です。

本来は大きな企業なら大きな企業ほど、一つの長期的な大きなビジョンに対して全社が一致団結して進んでいく方が、世の中に対して大きなインパクトをおこせる事業活動がでいるはずです。

ただ、大企業病にかかると、縦割り組織で組織毎の個別目標が組織の必達目標として設定されがちのため、その短期目標だけを見るようになりがちです。

特に怖いのは、組織内でその短期数値目標を達成することだけが目標になると、その目標の達成だけが社内的「正義」となって一人歩きし、それによって長期的にはネガティブな結果を招く可能性があっても無視されがちになる点です。

東芝における「チャレンジ」が分かりやすい例でしょう。

東芝の不正会計の分析記事を見る限り、東芝社内においては短期目標を達成することが「正義」という雰囲気があったようにみえます。

参考:東芝現役社員が録音していた「無間地獄」

その姿勢は取引先にまで広がっていたと言いますから、東芝の関係者の一部の方々は長期的な東芝ブランドの価値を失念してしまっていたのは明らかでしょう。

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参考:東芝、取引先にも「チャレンジ」要求

三菱自動車の燃費目標においても、将来的に三菱自動車がどういうビジョンを達成するのかの議論を置き去りに、燃費目標の達成だけが「正義」としての目標になっていた印象を強く受けます。

そもそも、三菱自動車の研究開発費は、ホンダやスズキ、ダイハツといった軽自動車のライバル企業に比べて半分ほどの金額であった可能性が高いそうです。

参考:やり切れない三菱自動車の燃費偽装

そういう意味では単純な低燃費競争で他社に勝てる可能性は、最初から限りなく低かったということが言えてしまうわけで、シェアも研究開発費もライバルに比べて低い三菱自動車が選択する戦略としては単純な低燃費競争は最初から分が悪い選択だったように思えます。

大企業病にかかった組織におけるこの短期数値目標が怖いのは、達成するのが当然の目標として設定されて、達成できないということ自体が許されない空気が組織内に醸成されてしまうことです。

こうなると太平洋戦争の時の日本軍同様、敗北しているにもかかわらず大本営発表で偽の勝利を流し続けるという悪いスパイラルにはまってしまうことになります。

大企業病という名前ではありますが、この病気で勘違いして欲しくないのは、必ずしも従業員が数万人規模の「大企業」のみで発生する病気ではなく、小規模の組織でも容易に発生しうる病気という点です。

特に難しいのは、悪人が集まっているから発生する病気なのではなく、どちらかというと生真面目な人達が集まっていることによる同調圧力から発生することの方が多いという点でしょう。

それこそが今回のような不正の温床になるというのは実に皮肉な話ではありますし、不正の発覚によって不正を知らずに現場で真面目にはたらいていた人達が一番辛い思いをするわけですから、そういう不正に発展しないようにいかに早く大企業病を断ち切るか、というのは重要なテーマだと思います。

ただ、この病気に対する処方箋は実にシンプル。

企業の論理中心ではなく、顧客の視点で考えるということです。

今回の不正騒動を他人事と軽く受け流すのではなく、是非自社の大企業病のきざしを早めにチェックされ、手当をされることを強くお勧めしたいと思います。