フィリピン・タール火山の噴火:深刻な被害をもたらす「火山の冬」は到来するのか

(写真:ロイター/アフロ)

 1月12日にフィリピンのルソン島南部にあるタール火山が噴火した。噴煙は1万5000メートルにも達し、この火山から60キロメートルの距離にあるマニラでも降灰があった。周辺地域では農作物にも甚大な被害が出ている。ただ最近は噴火も小康状態で火山性地震の数も減少している。しかしまだ噴火の終息を宣言できる状況ではなく、現在でも10万人以上が避難を余儀なくされている。

タール火山の噴火史

 20以上の活火山(1万年前以降に活動した火山)が密集するフィリピンでも、タール火山は、マヨン火山、ピナツボ火山とともに最も活動的な火山で、20世紀以降に限っても10回以上の爆発的な噴火を繰り返している。中でも1965年の噴火では、マグマが地表水と触れて「マグマ水蒸気爆発」を起こし、立ち上がった噴煙柱から横殴りの噴煙(希薄な火砕流)が発生して直接的な被害につながった。この噴火による噴出物の総量は数千万トンと見積もられている。タール火山の活動の中でも最大級のものは今から5500年ほど前に起きた大規模噴火(噴出量は数百億トン規模)で、この噴火に伴ってカルデラ陥没が起きて現在のタール湖ができたと考えられている。

 今回の噴火は未だに継続中で一連の噴火による噴出量を求めることは困難であるが、これまでのところは1965年とおおよそ同程度の噴出量である。一方で、今回の噴火に伴って活発な地殻変動が認められる。日本の地球観測衛星「だいち2号」の観測によると、昨年の11月と比較して1月21日までに1メートルを超える変動が見られるという。したがって、今後も大規模な噴火が発生する可能性は残っている。

火山噴火が引き起こす寒冷化:火山の冬

 火山の大規模な噴火は降灰や火砕流・溶岩流などにより周辺地域に甚大な被害を及ぼすだけでなく、さらに広範囲に影響を及ぼす可能性がある。その一つが「火山の冬」と呼ばれる寒冷化だ。例えば、1783年にアイスランド・ラキ火山が噴火し北半球で平年より気温が1度低下した。また、インドネシア・タンボラ火山の1815年噴火の翌年は北米各地で6月に降雪があり「夏のない年」と呼ばれた。さらには、火山の冬によって、人類の存続が危機に晒されたこともある。アフリカで誕生した人類は、環境適応能力を高めながら世界各地へ広がって人口を増やしていったのだが、温暖期の終焉によって苦難を強いられていた。そんな状況に追い打ちをかけたのが、7万4000年前、インドネシア・スマトラ島で起きたトバ火山の超巨大噴火だった。この過去100万年間の地球上で最大規模の噴火により、世界的に平均気温は約10度下がり、この異常低温状態は10年あまりも続いた。気候変動と火山の冬による寒冷化の影響で、50万人を超えた人類も、1万人以下にまで減少したと言われている。

 かつて火山の冬は、大気中に撒き散らされた火山灰粒子がエアロゾル(空気中に浮遊する固体や液体の粒子)として太陽光を遮蔽することが原因だと考えられていた。

 しかしこのような細粒の火山灰も、火山灰同士そして氷滴や水滴と合体して成長することで落下してしまう(図)。したがって浮遊火山灰粒子の遮蔽効果だけでは火山の冬のような長期寒冷化を説明することは難しい。

「火山の冬」のメカニズム(著者原図)
「火山の冬」のメカニズム(著者原図)

 それに代わって今では、火山ガスに含まれる硫黄が火山の冬を引き起こす最大の原因だと考えられている。硫黄は大気中で酸化して酸化硫黄(SO2など)を作るが、1立方キロメートルのマグマが噴出すると、おおよそ1000万トンもの酸化硫黄が大気中に形成されるという。この酸化硫黄はさらに水分と反応して硫酸(H2SO4)となる(図)。エアロゾルとして存在する硫酸の多くは硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)で、低密度かつミクロンサイズ以下の微粒子なので、火山灰よりずっと長期間にわたって大気中に滞留する。そしてこの硫酸エアロゾルが太陽光を散乱する性質があるために、地表へ到達する太陽エネルギーが減少し寒冷化が進むのだ(図)。逆に成層圏では、エアロゾルが地表から放射される赤外線を吸収するので、温度上昇が起きることが予想される。地表付近の寒冷化と成層圏での温度上昇は、1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火以降2年間程度の期間で観測されている。