「山体崩壊」、大噴火だけではない富士山の脅威

写真出典:米国地質調査所(USGS)

富士山はバリバリの活火山であるにもかかわらず、江戸時代の「宝永大噴火(宝永4年、1707年)」の後300年以上も沈黙を守っている。このこと自体が既に危険信号なのだが、さらにあの3・11巨大地震の影響で地盤が引き伸ばされて、いつマグマが活動的になってもおかしくない状態にある。つまり、近い将来富士山は必ず噴火する。もはや、ある種の期待感を持って無邪気に心配している場合ではない。覚悟して大噴火に備えるべきだ。

「噴火のデパート」と言われる富士山では、実に多様な火山活動が起きている。宝永噴火では1万メートル以上の高さまで火山灰を噴き上げたが、西暦864年に始まった貞観噴火では数キロメートルに及ぶ割れ目から大量の溶岩を流した。マグマと火山ガスなどが渾然一体となって山腹を流れ下る火砕流を噴き出したこともある。さらにこの山は、時にはその優美な姿からはとても想像できないような凄まじい振る舞いをする。それが「山体崩壊」だ。

2900年前に起きた山体崩壊

そもそも火山では、数十万年を超えるその一生の中で山が崩壊することは珍しくない。例えば磐梯山は1888年の水蒸気噴火で大きく崩れ、発生した「岩屑(がんせつ)なだれ」は477人を飲み込んだ。また1980年には、米国西海岸のセントヘレンズ山が崩壊する様子が記録された。

岩屑なだれには、火山体を作っていた溶岩や火山灰、それに地表にあった土壌などが含まれる。また河川の流れる谷へなだれが浸入すると水を多量に含み、いわゆる土石流の様相を呈する。

富士山でもこのような堆積物がその東麓に広く分布し、「御殿場岩屑なだれ堆積物」と呼ばれる。厚さは御殿場駅周辺で10メートル、もう少し山に近い自衛隊滝ヶ原駐屯地付近では40メートルにも達する。その分布や周辺の地層との関係、それに含まれる溶岩の特徴などを総合すると、この山体崩壊は約2900年前に発生したようだ。破壊された山体の体積はなんと2立方キロメートル、黒部ダム10杯分にもなる。当時の富士山には山頂に加えてその東側にも古い山体が顔を出し、いわば「ふたこぶ」の形をしていた。その1つが山体崩壊で消え去ったのだ。

なぜこの大崩落は起きたのか? 磐梯山やセントヘレンズ山ではマグマの活動、つまり噴火が引き金となった。しかし富士山ではこの時期に顕著な噴火活動は認められない。一方でこの活火山の直下には、南海トラフ巨大地震の元凶となるプレート境界や付随する活断層が潜んでいる。この活断層帯が動けば直下型地震が富士山を強烈に揺さぶり、この巨大な構造物、特に熱水やガスで軟弱化した部分が崩壊する可能性がある。

過去3万年で少なくとも6回起きた山体崩壊

近年、産業総合研究所などの調査によって富士山の詳細な活動史が明らかにされつつある。その結果2900年前と同程度、あるいはそれをしのぐ規模の山体崩壊が、過去3万年に限っても少なくとも6回は起きたようだ。統計学的に言うと、今後100年間に富士山で山体崩壊が発生する確率は約2%である。これと同じくらい「低い」確率だったにもかかわらず阪神淡路大震災や熊本地震は起きた。つまり、富士山の山体崩壊は明日起きても不思議ではない

このような富士山崩壊は巨大な岩屑なだれや土石流を引き起こす。過去の例でも周辺地域はもちろんのこと、はるかに離れた今の神奈川県県央から湘南地域まで土石流が到達したことがある。静岡大学の小山教授の試算によると、このような場合には最悪40万人が巻き込まれる。この被災者数は、現在想定されている富士山の大噴火と比べると圧倒的に大きい。

富士山大噴火と山体崩壊のハザードマップ:内閣府と静岡大学小山教授のデータに基づく
富士山大噴火と山体崩壊のハザードマップ:内閣府と静岡大学小山教授のデータに基づく

山体崩壊は大噴火に比べて発生の確率や頻度が低いので、ハザードマップはまだ整備されていない。しかし富士山ではこのような山体崩壊がいずれ必ず起きることを、行政も私たちもしっかりと認識すべきだ。