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明日にも襲う巨大地震。その覚悟、ありますか?

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)
東日本大震災 宮古市を襲った巨大地震(写真:宮古市/ロイター/アフロ)

3月になると、マスコミでは地震関連のトピックスが急に多くなる。もちろんあの3・11のせいだ。「備えなきゃ」と思いを新たにするのだが、まだ闘いの最中にある方々を除けば、すぐに日常に戻って地震のことなど忘れてしまう。人間は生来忘れやすいもののようだ。おまけに、この地球上でも圧倒的に地震が集中する所に暮らすにもかかわらず、「自分は大丈夫だろう」などと根拠の無い安心感を持ちやすい。

まずはっきりさせておく。現状では「地震予知」は不可能である。確かな前兆現象を捉えることができないからだ。巷でよく話題になる地震予知もあるが、科学的根拠の無い、言わば「予言」である。ゆめゆめこんなものに踊らされないように!

地震動予測地図とは

阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)を機に地震予知をほぼ諦めた政府は、2008年から「確率論的地震動発生予測地図」を公表するようになった。

予測方法はこうだ。まず全国の地震断層の過去の活動(周期性)と地震の規模を調べる。これで、ある断層が将来地震を起こす確率を求めることができる。それに地盤の特性、つまり固いか柔いかを考えに入れて、ある地点での揺れ(震度)を予測するのだ。例えば、2016年版の、「今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」(30年地震発生確率)は図のようになる。

地震調査研究推進本部の全国地震動予測地図2016年版を元に作成
地震調査研究推進本部の全国地震動予測地図2016年版を元に作成

地震発生確率が意味すること

この図で目立つのは、関東から四国の太平洋沿いで確率が高い(26%以上)ことだ。もちろんこれは、30年発生確率が70%を超える「南海トラフ巨大地震」と「首都圏直下地震」のせいである。このことはしばしばマスコミでも報道されているので、何となくご存知だろう。一方で、日本列島の広い地域では数%以下の「低い」確率だ。だから、たとえ首都圏に暮らしていても、何気に安心してしまうようだ。典型的な「正常性バイアス」、つまり都合の悪いことを忘れ去るのである。

しかし、地震発生確率1%は99%大丈夫と同じではないことをしっかり覚えておいて頂きたい。これは阪神淡路大震災で「証明」されていることだ。地震発生後に元凶となった六甲・淡路断層帯の調査が進み、その結果を使って大震災前日の1995年1月16日における30年地震発生確率を求めることができる。なんとその値は約1%(0.03〜8%)。こんな一見低い確率だったにもかかわらず、翌日にあの惨劇が起きたのだ。

このことを踏まえてあらためて図を眺めてほしい。日本列島ではいつどこで地震が起きても不思議ではないことが納得できるに違いない。そして、図で毒々しく塗色された所がとんでもない「危険地帯」であることも受け止めて頂けると思う。オリンピックだ万博だと騒ぐのも結構だが、地震大国に暮らしていることは忘れないでほしい。また東京へ人も機能もどんどん集中していることも大いに心配だ。

もう一つ、脳裏に刻んでほしいことがある。幸いにして今日は地震に遭わずに済んだとしても、明日にはその確率が上がることだ。ロシアンルーレットを想像すれば、この理屈はご理解頂けるだろう。

漱石門下の随筆家であり超一流の地球物理学者でもあった寺田寅彦はこう言ったそうだ。天災は忘れた頃に来る

覚悟を持って、備えあるのみ.

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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