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『さよならテレビ』は映画を観た私たちがつぶやく言葉!?

田代真人編集執筆者
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

業界関係者を中心に話題になっている東海テレビ制作のドキュメンタリー映画『さよならテレビ』。過去にテレビ放映されたものに新たな映像を加えて映画化されたものだ。2020年、年明け早々の公開だったが、開場前から並ぶ客も多く、評判を呼んでいるのがよくわかる。

さて、この映画を観終わって思った。この映画はだれに向けて、なにを伝えたいのか? もちろん公開されているわけだから一般大衆に向けているのであろう。ただテレビとは異なり、無料で放送されているわけではないので、このようなドキュメンタリーにお金を払ってまで観たい、と思う観客に限られる。となると、少なくとも漫然とテレビを消費している生活者ではなく、仕事であろうが趣味であろうがなにかしらテレビに興味をもち関わっている人たちなのだろう。

この映画は、いつも“局外”に向けてカメラを構えていた“局内”の人が、“局内”つまり自分たちを取材対象として取材したものである。しかしそれは非常に自虐的なものとなっている。とくに業界内の古びた体質、旧態依然とした業界をあからさまに映し出したのは、知ってはいたが開局60周年の2018年にいたっても同様であったのが笑えない。

その頃、ある雑誌の編集を担当していたが、テレビ業界で活躍する某放送作家との仕事で、年下の彼から「連絡は電話に決まっているでしょ! なんでLINEでしてくるんだよ、うるさい!」と怒られたことを思いだした。LINEのIDを交換したくらいだから、それで連絡してくれという意図だと思っていたが、そうではなかったらしい。2018年に「連絡は電話に決まっているでしょ!」という人と仕事をするとは思わなかったので苦笑した。そのときに感じた想いが、この映画を観てよみがえってきた。映画中に出てくるバレンタインデーの日の様子もそうだ。“20世紀かっ!”と思うような男性中心の社会を如実に映し出していた。

この映画、最初は局内スタッフに反対されて一時中断、2か月後に撮影が再開された様子が冒頭に出てくる。その再開は次の3つを「取り決め」として認められたという。○マイクは机に置かない。○打ち合わせ撮影は許可を取る。○放送前に試写を行う。つまり、この映画はこれらの条件をクリアして、テレビ番組として放映され、映画化、公開されたわけだ。であれば、当然、制作者やテレビ局が意図して「編集」している。それはときに「演出」とも言える効果を生み出してもいる。

最後の場面がそうだ。ここでは詳しく説明しないが、あれを最後にもってきて流したのは明らかに演出であろう。この演出は私たち視聴者に「すべては『演出』されてますよ」と気付かせてくれた。これはもはや視聴者を楽しませるドキュメンタリー、つまりはドキュメンタテインメントだ。

ーーテレビとはそういうもの。ユーチューブ全盛の2020年のいまでも旧態依然とした環境で、数多くのスタッフが関わってコストをかけて制作してるんですよ。それをわかってね。ーー

制作者はそういうことを伝えたくてこのドキュメンタリーを制作したのではないかと思えてくる……。そう、タイトルの「さよならテレビ」は制作者が発した言葉ではなく、この映画を観終わった私たちが発する言葉だったのだ。旧態依然とした環境でスポンサーや会社組織に縛られて視聴率に一喜一憂して制作されるテレビというものに、いま、私たちは「さよならテレビ」とつぶやき、そしてネットを見るという時代なのだ。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にてWebマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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