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『ViVi』+自民党で鍛えられるメディア・リテラシー

田代真人編集執筆者
『ViVi』+自民党のPRサイトより

 遅きに失した感もあるが、炎上している"『ViVi』+自民党のタイアップキャンペーン"について、ファッション女性誌編集者の経験者でもある筆者が感じることもあるのでここでも取り上げておこう。

 本件、さすがにネットの時代らしいバズり方だ。とくにSNSが当たり前になった現在、いわゆるマスコミは読者、いやターゲット読者でもない一般の人々の視線からも逃れられることなく、常に記事をチェックされている。多くのブロガーからも指摘されているようだが、本件も直接ターゲット読者から非難されたものでもないようだ。出版社や媒体側からすれば、ターゲットでもない人たちから騒がれてしまって迷惑千万といったところか……。ターゲット以外のおっさんたちには黙っていてもらいたいのが本音だろう。

 ただ、この傾向は私たち生活者にとっては非常に良い傾向だともいえる。そもそも紙のファッション誌におけるタイアップ記事は、普通に取材した記事と区別できる状態で出されていない。「PR」という文字すら書かれていないのが普通だ。ビジネス誌などは「PR」と書かれているが、ファッション誌ではそれがないのだ。

 ではどうやって判断するか? タイアップ記事かどうかを見極めるにはそのタイアップ記事ページの最後に「問い合わせ先」が表記されていたり、ロゴマークが入っていたりするので、丹念に見ていけばタイアップかそうでないかはわかる。しかし、それは一般読者には知らされていないので、読者は、例えば、時計の取材記事に続いてスムーズにつなげられた時計会社のタイアップ記事を読まされることになる。多くのタイアップ記事は編集部の編集者が制作するので、記事のテイストもその媒体のテイストになる。より自然に取材記事になじんだタイアップ記事が掲載されることになるわけだ。

 それが媒体の戦略でもあるし、そういう方法で広告だと意識されずに多くの人に読んでもらいたいのがクライアントの意向なので、ある意味両者Win-Winの関係とも言える。読者も嫌みなく違和感なく受け入れるので、Win-Win-Winの関係とも言える。媒体は媒体でそうやってビジネスをしているわけだ。これは別に"読者への裏切り"と騒ぐことのほどでもないだろう。

 ましてやモデルたちも"お仕事"しているだけであり、政治的なことだと認識していようがいまいが、まさかクライアントを隠してお仕事の依頼をしたわけでもないだろうから責められることでもなかろう。

 それに比べて、今回はネットでの展開でもあり、ちゃんと「PR」と表記され、ハッシュタグまで付けられているぶん、質が良いともいえる。明らかに広告だとわかるからである。広告とわかれば、それに感化されるかされないかは自分で判断すれば良いことである。少なくとも『ViVi』の読者は大人であろう。

 明らかに広告だとわかるものをどうして世間はそんなに騒ぐのか? もちろん、資金力のある企業や団体が、お金の力であちらこちらで露出させれば、いわゆるザイアンス効果、繰り返し接触すると好感度が高まってくるという、この効果が効いてくるという心理的な影響はあるだろう。ただ今回ほどに騒がれれば、自民党好きな人はそのまま好感度をもって受け入れるし、嫌いな人は弾くだけである。

 むしろ今回のことが「こんなに騒がれることなんだ」という印象をターゲット読者に植え付けたのは良かったのではなかろうか。こと政治に関心がないと言われる年代の、しかも女性が意識して、政治を"自分ごと"にとらえてくれるのであればそれはそれで良いことだと思う。

 また、こうやって政治的なこともメディアを使ってお金の力で広告されているんだという認識が得られたことでもあろう。つまり、メディアにはこのような広告を広く伝える力があるということが理解できるわけである。これは、メディア・リテラシーの強化にもつながることではなかろうか。

 小中高校のあいだに教えられないのは、マネー・リテラシーとメディア・リテラシーだとずいぶん長い間言われてきた。しかし、こういったことが炎上することによって、ターゲット読者にも認識され、メディア・リテラシーが鍛えられるのであれば、それも悪いことではない。

編集執筆者

1963年福岡県出身。86年九州大学工学部卒業後、朝日新聞社入社。その後、学習研究社にてファッション女性誌編集者、ダイヤモンド社にてWebマスター、雑誌編集長、書籍編集などを経て、2007年メディア・ナレッジ設立。代表に就任。出版&電子出版、Webプロデューサー、PRコンサルタントとして活動。現在は、駒沢女子大学教授、桜美林大学非常勤講師を務める。専門は「コミュニケーション」「編集論」。

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