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Microsoftのクリップアート廃止、経験したクリエイティブのOffice化の思い出

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
Officeのクリップアートでおなじみだった「人」。彼とはそろそろお別れに?

Microsoftが、Officeから利用できるクリップアートを廃止しました。利用が減っているという9万点以上のイラストたち。私がWindowsでOfficeを使い始めたころ、ワードアートともに面白がって使っていたのは懐かしい思い出です。

これまで、Office 2013から呼び出すことができたクリップアートは、段階的にBingイメージ検索へと移行し、ライセンスによってフィルタリング可能な画像リストから、画像を文書に入れることになります。

90年代的なパソコンの1つの風景が、また1つなくなっていくことになりますが、確かにフロッピーディスクやCD-R、ダイヤル式の電話なんかを見せられても伝わらない世代も増えてきていることですし。どうも無機質なオフィス用のデスクや書類は、まだオフィス内でも見かける気もするのですが。

SFCで経験した「クリエイティブのOffice化」

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で学生をしていた2000年頃でしょうか。キャンパス内でOfficeのクリップアートが急に増えたタイミングがあったように記憶しています。

ポスター、張り紙、プレゼンテーション、様々なところで、上のような黒くてボディランゲージ豊かな人が登場したり、薄いパステル色の下敷きの上に描かれた線の太いイラストが登場したり。ゼミの中で、これを「クリエイティブのOffice化」なんて呼んで話していたことがありました。

ちょうど、2000年前後は、1人1台利用しているノートパソコンの性能が上がってきて、ポスター作りなどは、コンピューター室や図書館のパワフルなマシンでなくてもこなせるようになってきました。

学校備え付けのパソコンにはAdobe PhotoshopやIllustratorなどが入っていましたが、手元のパソコンに入っているのはOffice。わざわざ図書館に行かずに、手元のパソコンで仕上げようとすると、WordやPowerPointで済ませようという傾向が強まったのではないか、と思います。中には学校のUNIXのホストにつないでGIMP、という人はいましたが。

Officeは生産性のソフトウェアです。手早く見栄えのするドキュメントを仕上げることにかけては専門的。

その流れでポスターを作ると、「MS ゴシック」で文字を入れ、空いたスペースにクリップアート、となります。場合によっては、PowerPointの見慣れたテンプレートでポスターを作っているパターンもありました。

必ずしもソフトがすべてを決めるわけではありません。しかし、まっさらな状態からIllustratorで仕上げたポスターと、パワポらしいテンプレートを使ったポスターでは、やはり出来が違ってきます。

善し悪しの問題ではなく、ついつい見慣れたテンプレートに目が行って落ち着いてしまい、内容へのインパクトが薄れる印象を受けるのです。

その意味で、Officeが90年代的なクリップアートと決別することは、例えBing画像検索で同じようなクリップアートを使い続ける人がいたとしても、できあがりのドキュメントが変化しはじめる点で、非常に興味深い決定だと思いました。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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