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Apple、スマートフォン向けアプリ配信のApp Storeで400億ダウンロード突破

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
出先でもすぐにダウンロードでき、アプリはスマートフォンの顔となった。

App Storeを提供するAppleが、米国時間1月7日、スマートフォン向けアプリ配信で400億本を突破したと発表しました。その半数が2012年中のダウンロード。急速に伸びるアプリ市場の牽引役は健在です。競合となるGoogle Playと、今後どのような戦いを展開するのでしょうか。

Appleによると、現在App Storeには77万5000本のアプリが登録されており、再ダウンロードをカウントせず、400億本のダウンロードを達成したとのこと。200億本が2012年中にダウンロードされ、ダウンロードや購読モデルなどの課金システムを通じて、Appleが開発者に支払ったのは総額70億ドル以上としています。

アプリ経済圏を作り上げたAppleは、155カ国、5億人を超えるアクティブなアカウントを擁しており、アプリをApp Storeに公開することで、この5億人に対してビジネスをすることができるようになります。

低い参入障壁と飽和

App StoreはiPhoneが登場して2年目の2008年に、iPhone 3GSとともに発表されました。開発者がAppleに登録すると、Appleのレビューを経て有料・無料アプリを公開することができる仕組みです。ソフトウエア企業はもちろんですが、個人の開発者やスタートアップ企業もアプリを配信・販売可能になり、「モバイルアプリ」がビジネスの領域として成立しました。

これまでソフトウエアの販売にはCDやDVDのメディアや箱、説明書などを用意し流通に乗せる必要がありました。例えば国内であれば、家電量販店やPCショップで棚においてもらう必要がありました。いわゆるフリーウエアやシェアウェアという名称でアプリのダウンロード販売もありましたが、難しかったこと、決済など、問題も大きかったのです。そして、ソフトウエア企業は、新バージョンに「買い換えてもらう」というスタイルで継続的な収益の獲得をしていました。

しかしApp Storeはソフトウエア流通とビジネスを一変させます。増え続けるiPhone・iPadユーザーにたいして、App Storeを経由してダウンロードしてもらうだけで、アプリに触れてもらえるようになります。流通と決済をAppleが受け持ってくれて、しかも手数料は販売額の30%、無料アプリの場合は費用なしで配信ができます。個人や新興企業にとって、願ってもないプラットホームとなりましたし、既存のソフトウエア企業もこれまでのノウハウをスマートフォンやタブレットに導入してヒットアプリを作り出しています。

一方で、市場の飽和の問題にも直面しています。この参入障壁の低さも助けて、App Storeには70万本を越えるアプリが登録されており、お世辞にもApp Storeの検索や「Genius」と呼ばれるレコメンド機能が優れているとは言えません。つまりユーザーは、アプリを見つけにくくなってしまったという状況が作り出されたのです。

日本では、アプリ紹介サイトが活発で、新しいアプリ情報入手の手段として有効です。また、友人が使っていて教えてもらう、といったリアルな口コミ、ソーシャルメディアでの口コミも、取り込んでいく必要があるでしょう。またアプリ開発者も、App Store上での検索最適化や、それ以外でのプロモーションを行う必要があることはいうまでもありません。

なぜApp Storeは優位なのか?:デバイスとOSの低い分断化

Googleも、Android向けアプリストア「Google Play」を導入しています。販売台数や市場支配の面でGoogleがAppleを圧倒した1年でしたが、急速な発展故に、Androidのバージョンが依然として旧バージョンが半数残っていること、メーカーやキャリアごとに微妙に異なるインターフェイスや操作性、そして画面サイズの問題で、開発者はこれらにフレキシブルに対応するアプリを提供する必要があります。つまり、最大公約数的なデザインをせざるを得ません。

一方Appleは、OSとデバイスを1社で提供しています。成長スピードはAndroidに劣りますが、iPhone登場以来iPhone 4Sまで維持した画面の縦横比や、iPhone 4で導入したRetinaディスプレイ、iPhone 5で変更された画面サイズなどにも、できるだけアプリはそのままで対応する仕組みを用意し、開発者とユーザー体験に配慮したプラットホームの管理を行ってきました。

こうした理由もあり、シリコンバレーでは「iPhoneファースト」という言葉があります。資金力の少ないスタートアップ企業がアプリ体験を作ったり、アピールする目的で、まずiPhone向けアプリに開発を集中させるいう流れです。Androidユーザーの方が世界的にもユーザー数は巨大ですが、iPhone向けに開発して流行れば、十分効果的、という意味です。

例えば写真共有アプリでFacebookに買収されたInstagramは、ユーザー数がiPhone向けだけで3000万人を越えるまで、Android版はリリースしませんでした。その後Facebookに買収されていますが、iPhoneで完璧な体験を作り出せば、十分成功できることの身近な例と言えるでしょう。

今後の課題は?

Appleは経済圏の礎となる開発者、デバイス、そしてOSについて、慎重に上手く取り扱ってきたと言えるでしょう。毎年デバイスとOSをアップデートし、例年6月に開かれるWWDCやウェブを通じて開発者とコミュニケーションを取り、最新のデバイスやOSの機能をフルに生かしたアプリを開発してもらうよう努めていくことになります。

Appleが今後取り組むべき点は、コンテンツ配信、O2O、プライバシーとこどもへの対策の3点です。

App Storeには「Newsstand」と呼ばれる雑誌などの定期購読型コンテンツを配信するアプリのコーナーがあります。日本の雑誌もこれに参加しており、毎月自動的に最新のコンテンツが読み込まれ、課金ができる仕組みを提供しています。こうした持続的な課金を増やしていくことは、電子書籍とは別のコンテンツ配信の市場を作ることができるようになると考えられます。

2つ目のO2O(Online to Offline)は、Apple StoreアプリやAppleがiOS 6から導入したバーコードのクーポンやチケットに対応するPassbookのように、決済に関連するアプリを扱った上で、Apple IDアカウント経由での課金やチャージを行えるようにする点です。Apple IDがよりアクティブになることが期待される一方で、既存の開発者70%:Apple 30%という収益配分では、プリペイドカードとして成立しません。ここに新たな基準を作る必要があります。

3年目はプライバシーやこどもを守るという問題。2012年はモバイルアプリとプライバシー、セキュリティについて議論が進んだ1年でもありました。アプリがユーザーの断りなしに端末内の情報を収集したり、ソーシャルメディアの情報と統合し、予期せぬ情報が公開されたり利用されると言ったことを防ぐことが求められます。2012年2月に、カリフォルニア州はAppleやGoogleなど6社と、アプリがどんな情報を収集するのか、事前にユーザーに告知を義務づけることで合意しています。

また、スマートフォンやタブレットの普及で、こどもがこれらのツールを活用する場面も増えてきました。教育アプリも充実している反面、親が子どもに見せたくないアプリヤコンテンツを以下に防ぐか、といった対処もより求められます。

2013年中に、App Storeは100万本目のアプリが登録されたことを発表するでしょう。皆さんのアプリ活用も進んでいきます。新しい、驚くアプリを使うことはスマートフォンやタブレットを使う上での1つの楽しみにもなりました。あるいは皆さんが、アプリを公開してビジネスを始める日も、遠くないのかも知れません。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

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