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野党結集の邪魔者?「連合」と共産の「リアルパワー」。迫る総選挙に向けて数字で考えてみた

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
野党が多すぎる!(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 7月4日に投開票された東京都議会議員選挙について立憲民主党・安住淳国対委員長の発言が注目されました。同党と日本共産党が進めた候補者調整の成果を強調する一方で、共闘に反対した「連合」の東京組織の実力に疑問符をつけたのです。「リアルパワーは何なのか」とも。

 国政与党は自民・公明。「是々非々」を旨とする日本維新の会を除く立憲、共産、国民民主党、社民党らは本来一致結束して政権を獲りにいくべきです。ところが主敵の自民への陣構えの段階で相変わらずゴタゴタ。常に出てくるワードが「連合」。いったい何ものでしょうか。

 なお本稿では「連合」と共産党の間にあるイデオロギー(主義主張)対立の歴史は重要と認識しつつ最小限に止め、ここでは数字いじりを主に展開します。

組合員数700万人

 連合の正式名称は「日本労働組合総連合会」。労働組合の全国中央組織です。労働組合とは働く者を組合員として雇用を守り、環境改善のため賃上げを求めるといった目的を持ち、主として経営者と法に基づく交渉などを行う団体。連合の組合員数は約700万人です。

 大企業経営者らで作る経団連(日本経済団体連合会)などが自民を支持しているため、連合は立憲・国民両党を支援します。いわば応援団。

 終戦直後の「労働組合ブーム」の頃から共産主義革命を目指す団体と嫌悪するグループがさまざまな形で対立してきました。「連合」を構成するはおおむね反共。だから立憲が共産党へ接近すると露骨に嫌がるのです。

 ただ現有勢力で連合は共産を支持する中央組織「全労連」の9倍以上と圧していて「数の取り合い」は問題となりません。

「立・国」支持は約35%。自民支持が約21%も

 連合の大きな特長は「大企業・団体の正規雇用者組合」である点(最大勢力の「UAゼンセン」のみ異なる)。700万人といっても日本の雇用者数約5660万人の12.5%。有権者約1億660万人で比較するとたった6.5%に過ぎないのです。

 現在の連合が応援する立憲・国民の多くが民進党として1つにまとまっていた2016年参院選の比例区獲得票は約1175万。700万票が占める割合は約6割ですから、確かに得がたい支持母体ではあります。

 ただこの計算は組合員が執行部が打ち出した支持政党へ皆投票しているとの仮定に基づきます。19年に連合自身が行ったアンケート調査によると支持政党は「なし」が36.0%と最も多く、推奨される「立憲民主党+国民民主党」は34.9%に過ぎません。対して自民党が20.8%もいるのです。また棄権者は15%ほどいます。

 全有権者の「無党派層」が投票した先は16年参院比例区で自民と民進が各々約25%。連合組合員だから思い切って支持政党なしの得票先を倍の5割と推測すると18%。棄権者を除く分母は700万×(1-0.15)=595万人。ここに「立憲民主党+国民民主党」34.9%と18%を足した52.9%をかけると約315万票。このあたりが連合票の「リアルパワー」(安住氏)かと。他方、自民には約124万票がわたっています

●単純計算では共産票が連合票に勝る

 一方の共産党。16年参院選比例では約601万6000票を獲得。党員は約28万人なので圧倒的に非党員が選択しているのがわかります。同年の公明党は約757万3000票。最大の支持母体たる創価学会の公称の会員は約827万世帯ですから公明票を十分まかなえます。公共2党は拒否率(支持率の対置語)も高い政党として知られていますが、共産は意外と選挙になるとコア層(=党員)外の1票が集まっているのです。

 ここで単純比較すると連合票は約315万で共産票は近年の国政選挙から推定すると約400~600万。

小選挙区をわずかに譲れば約500万票が立憲へ

 もちろんこれは単純比較に過ぎません。比例区では共産もライバルなので野党が1つの政党(ないしは統一名簿)にならない限り600万票は「共産の票」ですから。

 しかし衆議院の小選挙区はどうでしょうか。共産党が単独で立てても野党統一がならない限り1人も勝てません。17年総選挙では維新を除く野党が立てなかった沖縄1区のみ議席を得ています。

 自公も同じ理屈で両党が同一選挙区に立てたら公明の勝ち目はゼロ。ゆえに8選挙区ほどで自民が立候補を見送って公明を勝たせているのです。立憲も真似をして3・4選挙区は共産公認候補を応援する形にすれば他の小選挙区で600万とはいわないまでも400~500万票の「見返り」を得られそう。

 この数だと連合票と大して変わらないと思うかも知れません。しかし共産票は雨が降っても槍が降っても投票所に足を運び間違っても自公には入らないのです。さらに民主集中制の党ですから一度「そうする!」と大号令がかかればバラけません。会長が支持を明言しても思うようにいかない連合票より頼りになりましょう。

上位産別が「原発ゼロ」へ反発する事情

 連合傘下の産業別労働組合(産別)を組合員数順に並べると次の通り

1)UAゼンセン(繊維・化学・スーパーなど流通、外食など)約176万人→国民支持

2)自動車総連(トヨタが約半数)約78万人→国民支持

2)自治労(地方公務員)約78万人→立憲・社民支持

4)電機連合(日立・東芝・パナソニックなど)約57万人→国民支持

 連合全体としては立憲支持が多いのですが、大きなところが国民を支持しているため国会議員数では圧倒的に少ない国民を執行部はソデにできません。国民支持の大産別が共産を嫌う以上「共産との連合政権などもっての外」と言わざるを得ないのです。

 では何で厭うのかというと前世紀から続くイデオロギー的いがみ合いが最大の理由です。しかし今回は除外。今日的な理由を探すと立憲が掲げ、共産も同調する「原発ゼロ政策」への反発があります。電機連合は原発事業に関わるため電力総連(約21万人。大手電力など)とともに反対。

 自動車総連はやや複雑です。世界的な脱炭素社会に向けて否応なく電動車へとシフトしなければならない環境下、電源構成が化石燃料から再生可能エネルギーへシフトしていくのはいいとして温室効果ガスを排出しない原発を「なくす」だけでは無責任と受け止めます。いくら電動車に切り替えても電源に化石燃料が相当量残っていたら売れない恐れが高いですから。立共が原発ゼロの代替案を具体的に示せるかがカギとなるでしょう。

 国民支持の産別も「これでいいのか」という悩みはあります。産別が国会で発言権を得る手法の代表は参院比例区に擁立した組織内候補者の当選。しかし前回の参院選では電機連合の候補が落選してしまいました。再編を経た現在の国民はさらに小さくなったので他の産別候補すら落選危機です。なお立憲は電機連合よりずっと少ない私鉄総連(約11万6000人)でも当選させています。「武士は食わねど」が貫けるでしょうか。

 といって安住氏のように「リアルパワーはどっちだ」と迫ると国民支持の産別は悲しい思いをするだけ。何か妙案はないでしょうか。

国民が立候補する8選挙区を共産が勝手に支援したら

 立憲と連合は「共有する『理念』について」という政策協定を結んでいます。5項目のうち4まではきっと共産も賛同しそう。問題なのは残り1つに「左右の全体主義を排し」「中道の精神を重んじ」るとしている点。共産党は「左」の「全体主義」だからダメというわけです。今の共産がそうかどうかはイデオロギーなので今回は除外。

 ただ国民や支持する産別も共産が勝手に投票してくれるのは構わないでしょう。そこで国民の次期衆院選候補者21人をみると立憲とは棲み分けが済んでいます。さらに自民現職が非常に強い8選挙区と国民現職が共産の動向に関わらず当選しそうな5選挙区を除くと残り8選挙区。いずれも「勝ち目あり」なのです。うち現時点で共産候補が出るのが3選挙区。まず残り5選挙区で「うちは出さない」と宣言し、3選挙区で引っ込めるだけでも当選の確率は高まります。さらに共産が「自民打倒のため今回は野党(=暗に国民)を勝手に支持する」と宣言すれば国民も恩義を感じましょう。誰の1票でも清き1票ですから。

 国民の衆院における現有議席は6(うち1人は比例選出)。ここに8とはいわずとも3~4人が共産の勝手協力で加わったら表向きしかめっ面でも本心は大喜びするはずです。

 共産としてさすがにそれはできないといつもの石頭ぶりを発揮するのであれば、せめて国民の強い5選挙区で引っ込めるのはどうか。「共産支持者は入れてくれるな」と公言しそうなのは前原誠司氏ぐらいです。

迫る総選挙を面白くするために

 後は立憲。さっさと共産との棲み分けを決めるべきです。前述のように3・4の小選挙区で「共産をやる」とすればパッとまとまりましょう。後はお互い何も言わなくても投票行動は見通せます。

 連合がああだこうだとくちばしを入れてきたら枝野幸男代表もあまりヘイコラせず「支援団体ののりを超えるな」と釘を刺すべきです(後でコッソリ謝っておく)。かつての野党第1党であった日本社会党は結局、労組依存から抜け出せず滅亡寸前。連合をよく思っていない労働者もたくさんいます。

 意外と頼りにならない連合に振り回され、反対に共産へは「票だけ寄こせ」と要求するのは都合が良すぎ。実はわずかな歩み寄りで野党結集は可能。総選挙を面白くするためにも一芝居打って……失礼、もう一段階努力してもらいたいものです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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