Yahoo!ニュース

【世界バレー】今夜ベルギー戦。ミドルブロッカー起用の宮部藍梨がアメリカで変化した「ブロックの意識」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
1次ラウンド最終戦のアルゼンチン戦でミドルブロッカーとして途中出場した宮部藍梨(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

出場直後に見せたブロック

 突如出番は訪れた。

 10月2日、対アルゼンチン。日本が2セットを連取した第3セット、7対7の場面で宮部藍梨が投入された。

 ミドルブロッカーの横田真未との交代直後、山田二千華のサービスエースや相手のブロックにうまく当てて出す石川真佑の軟打で9対7と日本が2点をリードした状況で、宮部藍が見せた。

 アルゼンチンの攻撃に対し、1本目はミドルブロッカーのセッター後方からの速攻を、2本目はレフトからのスパイクを続けてワンタッチを取ってつなぎ、3本目はライトからの攻撃をシャットアウトし、日本が10点目を得た。

 もともとはアウトサイドヒッターで、ミドルブロッカーを専門とするわけではない。だが眞鍋政義監督は、宮部藍の高さとブロック力を評価し、ネーションズリーグを終えてから本格的にミドルブロッカーでの練習を重ね、7月の紅白戦でもワンポイントではあったがミドルブロッカーのポジションに入るケースが見られた。

 紅白戦時、ミドルブロッカーの経験について問うと「初めてではないけれど経験は浅い」と笑いながら、どんな意識で臨んでいるかをこう述べた。

「普通のミドルに比べたらこの前始めた、みたいな感じなのでうまくいかないし、完璧に2枚揃えるのも難しい。とにかく流れず、相手の正面に跳ぶということを意識しています」

 高さと腕の長さを活かし、相手の正面でコースを塞ぐ。まさに有言実行、期待通りの活躍を見せたシーンではあったが、実はその1本前、石川の攻撃で9点目をもぎ取った場面でも、宮部藍のブロック力は確実に発揮されていた。

「抜かせて」「打たせる」絶妙なブロック

 サーバーは山田。前述の通り、その直前にサービスエースを獲り、この試合でも何本もブレイクにつながるサーブを打った。

 たいていの場合、ミドルブロッカーはサーブを打った後、後衛時はリベロと交代するのだが、自身がサーブを打ったローテーションでは、相手に得点されるまではサーブを打ち続けるためレシーブに入る。サーブレシーブを担うアウトサイドヒッターや、セットだけでなくレシーブ力にも長けたセッターがいるコースよりも、攻撃する側からすれば「守備は不得手」と考えられがちなミドルブロッカーがレシーブに入るコースを狙うことが多い。

 アルゼンチンも、まさにそのセオリー通り、とばかりに山田のサーブから1本目のトスはレフトに上がり、山田が入るクロス方向を狙った。

 最初はコート中央で構えていた宮部藍も、トスがレフトに上がったことを見て素早く移動し、スパイクコースを塞ぐ。目の前に並ぶ2枚の壁、ブロックを避け、クロス方向へ放つも、その打球はほぼ正面で「チャンス!」とばかりに山田がレシーブでつないだ。

 何気ない1本、1ラリーではあるが、ミドルブロッカーがサーブ時にどれだけ得点が入るか。言い方を変えれば、ミドルブロッカーの構える真正面でレシーブさせるべく、どれだけ相手をそこに「打たせて」いるか。そのポイントを見れば、実はブロックがどれほど効果を発しているかもわかる。

 もちろんアタッカーの技量や高さで上回れば、ブロックとレシーバーのコースを外して打ってくることもあるし、上から叩きつけることもある。だが、ボールが落ちれば1点が加わるバレーボールで、いかにボールをつなぐか。その確率を高めるために、アタッカーとブロッカーのマッチアップだけでなく、後ろのレシーバーがどの位置にいて、リベロがどの場所にいるか。コート全体を見れば1つ1つの配置も細かな駆け引きと綿密な戦術が組まれている。

 宮部藍がブロックに跳び、山田がつないだ1本は、次のブロック得点にもつながる、まさに会心の一本だった。

日本代表に初選出された15年。木村沙織さん(写真右)、古賀紗理那(写真左)と共にワールドグランプリに出場した
日本代表に初選出された15年。木村沙織さん(写真右)、古賀紗理那(写真左)と共にワールドグランプリに出場した写真:YUTAKA/アフロスポーツ

ブロックは「止めるだけじゃなくつなぐ」意識

 金蘭会高2年時の15年、日本代表に初選出された。現在のネーションズリーグの前身であるワールドグランプリでデビューを果たしたが、日本では武器となる高さも海外相手には通用せず、「うまくなりたい」と宮部藍は海を渡り、アメリカへ留学。英語やコミュニケーション、強豪と呼ばれるバレーボール部に属するトップ選手ならば勉強も免除されがちな日本の大学とは異なり、勉強とバレーボールの両立が当たり前とされる地で、精神面も語学力も大きな変化を遂げた。

 もちろんバレーボールも同様だ。サーブ、スパイク、パス、1つ1つの技術や考え方を学ぶ中、特に変化したのがブロックだった。

 世界選手権に向けた渡欧直前、8月に行われたオンラインでの取材時にもブロックについて尋ねると、画面を通したやり取りながらも正面から横へ身体の向きを変え、身振り手振りを交えながらアメリカで得た変化を丁寧に説明してくれた。

「まず1つ、意識するのはただ真っすぐ手を出すだけじゃなく、ネットよりも前に出すこと。高さはもちろん必要なんですけど、出すだけだと相手に使われて、当てられて飛ばされると後ろのレシーブはカバーできないので、前に出した手に当てることで、チャンスボールを相手に持ってこさせるように意識しています。トータル的なところで言えば、自分からレシーバーに『ここは絶対シャットできる、と思う時は行くから』と伝えるし、その時どこへレシーブに入ってほしい、と言うこともあれば、逆もある。クロスを抑えるか、ストレートを締めるか、戦術にプラスして、レシーバーがボールを獲るのが得意な位置へボールが跳んでいくように、どこでどんなふうに跳んでほしいかを直接聞きます。(渡米前は)どれだけブロックできるか、シャットできるかしか考えていませんでしたが、いかに抜かせてレシーバーに拾いやすいところで拾ってもらえるか、というのも意識するようになりました」

 6年ぶりに、妹の愛芽世と共に日本代表のユニフォームを着て、地元兵庫、小学生の時にプレーした姫路の体育館で行われた紅白戦時には「まさにここで試合をした」と目を輝かせ、最終14名に選出され、自身初の世界選手権でも重ねた経験の証をプレーで見せる。

 1次ラウンドを4勝1敗で終え、2次ラウンドへ。16チームが2つのグループに分かれ、決勝トーナメントへ進出するのはそれぞれの上位4チームのみ。まず目標とするベスト8をかけ、対するはベルギー、イタリア、プエルトリコ、そして開催国のオランダ。高さと組織力を誇る相手にどんな攻撃を仕掛けられるか、守備力から粘りのバレーが展開できるか。見どころや勝敗を分けるポイントはいくつもあるが、そこに加わる「楽しみ」の1つが、宮部藍がこれからどれだけの出番を得て、どんなプレーを見せるか、でもある。

 アメリカ仕込みのブロックと、スピードばかりを意識して小さくなるのではなく、距離を確保した助走から跳び、大きくのびやかに放つ攻撃も、世界に通ずる日本の武器となるはずだ。

 コートを明るく盛り上げる宮部藍のプレーと笑顔を、1つでも多く見たい。そう願うばかりだ。

初選出の妹・愛芽世と共に、世界選手権を戦う
初選出の妹・愛芽世と共に、世界選手権を戦う写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事