Yahoo!ニュース

女子バレー宮部藍梨の特別な場所。「“誰やこの子”の無名な私でも『こうなりたい』と思う場に立てた」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
地元兵庫で日本代表紅白戦に臨んだ宮部藍梨(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 世界選手権の開幕まで40日を切った8月20日、ヴィクトリーナ・ウインク体育館。

 先週13、14日にジップアリーナ岡山で行われた2戦に続き、姫路で行われた女子バレー日本代表紅白戦。世界選手権を終えれば、まさにこの場所をホームアリーナとするヴィクトリーナ姫路の一員となる宮部藍梨は、格別の思いを抱き、姫路のコートに立った。

 有観客のもと、日本で開催される数少ない試合。しかも日の丸を胸につけた日本代表での試合ということに加え、この場所は、宮部藍にとって特別な体育館だった。

 試合を終えた直後のコートインタビューで、マイクを手にした宮部は嬉しそうに語った。

「私は地元兵庫の出身で、小学生の頃、この体育館で行われた県大会に出場しました」

 サインボールを客席に投げ込みながらコートを一周した後、サブアリーナに設けられた記者会見場に現れた宮部に当時のことを尋ねると、笑顔を見せた。

「小学生からバレーを始めて、私が入ったチームは全然強いチームではありませんでしたが、この体育館が初めて県大会に出場した時に試合をした場所。しかも、弱いチームは1回戦でサブアリーナで試合をするので、まさに会場がここ(サブアリーナ)でした。最初は自分たちより強い相手に勝つことができたけれど、私たちの代で優勝したチームと当たって負けてしまいました。当時は無名で、誰も知らない、“誰やこの子?”みたいな私でも、今は日の丸をつけていろんな人に見てもらえる、素晴らしい機会をいただけて、いろんな人が『こうなりたい』と思っているところに立たせてもらっている。置かれた環境に感謝して、応援してくれる方や両親、今までかかわってくれたすべての人たちに感謝を持ってプレーしたいです」

妹の藍芽世(あめぜ 写真右)と共に日本代表へ選出され、岡山、姫路の紅白戦では同じコートに立ってプレーした
妹の藍芽世(あめぜ 写真右)と共に日本代表へ選出され、岡山、姫路の紅白戦では同じコートに立ってプレーした写真:YUTAKA/アフロスポーツ

感謝を胸に小学生以来のサブアリーナで誓う決意

 開幕から8連勝を飾ったネーションズリーグを5位で終え、間もなく始まる世界選手権に向け、今はまさにレギュラー争い、メンバー争いの最中だ。同時に、女子バレー日本代表が世界に対してどう戦うか。何を武器とすべく、それぞれがどんな役割を果たしていくのか。紅白戦とはいえ、随所でチャレンジの姿勢が見られた。

 詳しくはまた別の機に記すが、岡山での2試合、姫路での1試合を見て、日本代表がオフェンス面のポイントとしているのがスピードだ。セッターにはトスの目安が明確に数字で示され、なおかつスパイカーの打点も活かす。

 やみくもに速ければいいというわけではなく、特にチーム内のアウトサイドヒッターでは最も最高到達点が高い(309センチ)宮部藍の高さをどれだけ活かせるか。ネーションズリーグを終えてから薩摩川内、岡山、姫路で行われた合宿中もセッターの松井珠己、関菜々巳、籾井あきとその都度会話しながら、トスを上げる位置や入り方、互いに「トスの高さをもう少しこうしてほしい」「もっと入るのを速く」と会話を重ねてコミュニケーションを深める。まさに今はその過程でもある。

 紅白戦では、互いに練習し合っている選手同士が戦う。それぞれのクセや傾向も知り尽くしており、簡単に1本で攻撃が切れる場面は少なく、ラリーが続くのも当たり前。後衛時には「バックアタックを呼べず、ここ1点欲しいというところで決めきれなかった」と反省の弁を述べたが、高い打点から放つ宮部藍のスパイクに会場が沸く場面が何度もあった。

 夏休みということもあり、紅白戦の会場は家族連れも多く、小学生であろう子供たちの姿も多く見られた。

 国の代表として戦うトップ選手たちの姿は、幼い子供たちにとってまぎれもなく憧れの象徴だ。

 会場にいた子どもたちの中から何年後、同じように「小学生の時に見た日本代表に憧れた」と目を輝かせる代表選手が出てくるかもしれない。思わずそんな期待と、妄想を抱く。

 無名だった、という少女時代。サブアリーナで試合をして、結果的に優勝したチームに負けたという当時の宮部藍に伝えたい。

 10何年後、ここでプレーするよ。しかも日本代表のユニフォームで、大きな拍手の中にいるよ、と。

 世界選手権まであと34日。残り1試合となった紅白戦も楽しみだ。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事