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男子バレーVリーグ。サントリー柳田将洋が見せた「存在意義」を示した1本

田中夕子スポーツライター、フリーライター
1月30日のJT戦で躍動した柳田将洋。首位決戦に挑む(写真/V.LEAGUE)

柳田が魅せた「1本」

 ノーブロックで放ったスパイクが、鮮やかに突き刺さる。

 1月30日、東京・大田区総合体育館で行われたバレーボールのVリーグ男子、サントリーサンバーズ対JTサンダーズ。場面は、第2セットの中盤だった。

 前日の対戦は逆転の末にフルセットでサントリーが制し、この日も第1セットは25点では決着がつかず、ジュースの末に27対25でサントリーが先取。勝てば首位浮上が近づくサントリーに対し、敗れれば連敗が続くJT。互いに後半戦を見据えれば、上位に入りファイナル3、さらには決勝、優勝を見据えれば負けられない一戦であることに代わりはない。

 JTはサントリーの得点源であるオポジットのドミトリー・ムセルスキーの攻撃に対するディフェンスを固め、前日同様に効果を発していたが、ムセルスキー1人の攻撃力ではなく、チーム全体のオフェンス力で上回った。

 見る者にそう強く印象付けたのが、第2セット10対7とサントリーが3点をリードした場面で放たれた、柳田のスパイクだった。

大宅の技量と柳田の準備が生み出したスパイク

 藤中謙也のサーブから、JTのセッター、金子聖輝はミドルブロッカーの小野寺太志を選択。しかしこの攻撃に、ミドルブロッカーの小野遥輝とヘルプに入ったムセルスキーが2枚で対応し、そのままブロック得点になるか、というボールをJTのリベロ、井上航がワンハンドで好レシーブ。つないだボールをトーマス・エドガーが打って返すもサントリーは藤中がつなぎ、ライト側のネットに近い位置へ上がったボールを、セッターの大宅真樹はすぐ後ろにいたムセルスキーではなく、あえて遠い逆サイドの柳田に上げた。

 ネットに近い返球であること、ニアサイドにムセルスキーがいることを考慮し、JTのブロックはサントリーのライトサイドと、ミドルの攻撃に備える。だがその裏をかかれてファーサイドを選んだ大宅のトスに、攻撃準備をしていた柳田もドンピシャのタイミングで入り、ノーブロックから振り抜いた柳田のスパイクが決まり11対7。すかさずJTがタイムアウトを要求するも、その後も連続得点で引き離したサントリーがストレートで快勝を収めた。

 まずあの状況で冷静に、さらにネットに近い難しいボールをジャンプトスで高さも出し、正確にファーサイドへ上げた大宅の技量と判断力に感服し、躊躇せず入る柳田が見せた圧巻のスパイク。

 試合後、柳田はその1本を、こう振り返った。

「あれを頑張ってファーに上げられる。大宅だからできるスキルかもしれないですけど、トランジションフェーズでは僕らもエリアを絞ってブロックを跳びに行くケースもあるので、その逆を突くような攻撃ができると、トランジションでもディマ(ムセルスキー)、ディマ、ではなくて、コミュニケーションを取りながらコンビネーションが組めるんだったらよりいいかな、と。大宅がどのシチュエーションでどこに上げたいかというのももちろんですが、それによってディマがどれだけ助かるか、というところまで加味して(トスを)呼べると、効果的に攻撃ができると思います」

昨季から主将を務める大宅。難しい状況から正確にファーサイドへ飛ばす技術、判断力の高さがノーブロックでのスパイク得点につながった(写真は18年の天皇杯)
昨季から主将を務める大宅。難しい状況から正確にファーサイドへ飛ばす技術、判断力の高さがノーブロックでのスパイク得点につながった(写真は18年の天皇杯)写真:YUTAKA/アフロスポーツ

勝利のために「どれだけ活きるか」

 混戦のV1男子、サントリーのムセルスキーだけでなく、上位につける東レはパダル・クリスティアン、堺にはシャロン・バーノン・エバンズと打数、決定本数で圧倒的な力を誇るオポジットがいる。

 彼らが叩き出す得点だけを見れば「攻撃力のある外国人選手がいいから勝っている」と安易な見方をする人がいるかもしれないが、裏を返せば、それだけ得点力があり、高さもある外国人オポジットに点を取らせないようにいかに守るか。さらにはその前からどれだけ攻撃を決めることができるか。対峙するレフトサイドのアウトサイドヒッターがどれだけ活きるか、というのも大きなポイントだ。

 他ならぬ柳田自身も、まさにそれこそが「自分の存在意義」と示す。トスが上がる、上がらないに関わらず、試合の中でもミドルのクイックと絡めて展開できるよう前衛から入り、後衛時も中央からバックアタックの助走に入り、攻撃枚数が常に複数あることを相手に警戒させる。加えて「自分の中ではある程度自信を持っている」というのが、ラリー中にセッターの体勢が少々崩れた時や、セッターがレシーブした後に他の選手が上げるハイセットからの攻撃。やみくもに打ちつけるのではなく、落下地点に入りながら相手のブロック、レシーブを視野に入れどこへ打つのか効果的かを考えて打つ。

 勝負所で当たり前のようにベストサーブでエースを取るジャンプサーブはもちろん、崩れた状況や、要所の勝負強さは柳田が持つ比類ない武器であり、ノーブロックのあの1本は、まさにその技術と準備が組み合わされた会心の1本でもあった。

30日のJT戦で高い決定率を見せた柳田。終盤に向け、攻撃のバリエーションがどれだけ増えるかも楽しみの1つだ(写真/V.LEAGUE)
30日のJT戦で高い決定率を見せた柳田。終盤に向け、攻撃のバリエーションがどれだけ増えるかも楽しみの1つだ(写真/V.LEAGUE)

バレーボールの楽しさを伝える柳田のコメント力

 30日の試合に勝利したサントリーは、勝利数で東レ、堺を上回り首位浮上。2月5、6日は仙台で2位の東レと首位決戦に臨む。

 後半戦を見据え、言葉を選びながらも各チームの外国人選手のブロックパターンに触れ、「去年の(JT)武智(洸史)選手が見せた攻撃が参考になった」と述べ、「あれぐらいアグレッシブに立ち向かってもいい」と意気込む。シーズン中であるため、柳田が述べた細かな攻撃パターンを書き記すのを今は控えるが、経験や理論、バレーボール用語を散りばめながらの説明は実に具体的でわかりやすく、そのイメージがどれだけ形になっていくのか、と考え、それがあの1本だったのか、と答え合わせする楽しみが生まれる。高校生の頃から数えきれないほどに感じさせられてきたが、試合後の柳田のコメント力はまさに圧巻だ。

 2月に入り、レギュラーラウンドも残すところふた月を残すのみ。柳田はどれだけ“存在意義”を見せつけることができるか。思わずうなった、あの1本を上回る場面は訪れるのか。来るとすればどんな時か。想像するだけで胸躍る。

 やはり、バレーボールは面白い。

 そう教えてくれることも柳田の“存在意義”であることは、言うまでもない。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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