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外国人新小学1年生と保護者に笑顔の学校生活をー広がる入学前支援と日本人保護者ができること

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
外国人保護者にとって、「日本の小学校へ我が子が入学する」ことの不安は大きい(写真:アフロ)

わが子が小学校へ・・・日本人保護者以上に「わからなくて、不安」

毎年1月下旬から2月中旬には多くの小学校で、4月から入学する新1年生の保護者を対象とした入学説明会が行われます。この入学説明会で、学校生活の流れや用意する物、注意事項などを確認し、それぞれの保護者は4月に向けて準備をすることになります。

日本人保護者でさえ、わからないことが多い小学校での生活。日本語が苦手な、日本の小学校に通った経験の無い外国人保護者がさらなる不安を抱える、という状況は想像に難くはありません。

「学校用語」は難しい

日本人保護者であれば、役所や学校から出された「おたより」を読み、いつに何があるのか、子どもはどう動くのか、何を持って行き、何は持っていかないのかと言った情報を得ることができますが、外国人保護者の多くにとってはそうではありません。

「ふでばこ」「うわばき」「きゅうしょくぶくろ」「がっきゅうかつどう」「しゅうだんげこう」

これらの学校でしか使わない言葉の多くは、なかなか日常生活で耳にする機会がありません。こうした言葉が並んだ日本語のお手紙を理解する、というのは、日本での生活が長い外国人保護者であっても一筋縄ではいかない高いハードルです。

「おたより」が読めないことで、子どもに大きな影響が・・・

子どもが一定の年齢を超え日本語がわかるような状況であれば、おたよりを翻訳して保護者に必要なものを伝えることができますが、小学校低学年くらいの子どもには、いくらその子が日本語と母語ができたところで、学校からのお便りを読み、母語へ翻訳し、親に伝えるという作業は困難です。

おたよりが読めないことで、子どもの学校生活に影響が及び、外国人保護者の中には子育てへの自信を失ってしまうケースもあります。たとえば、

  • おたよりが読めず、必要なものを期日までに用意することができない(子どもは「忘れ物」をすることに)
  • 保護者が参加するPTA行事の日程がわからない(その子だけ「親が来ていない」状況に)
  • 学校の宿題を見てあげられない(子どもは「宿題をしてこない児童」に)

こうした状況が積み重なると、「外国人保護者は教育に無関心」と思われてしまったり、子どもが学校の中で「困った子ども」と誤って認識されてしまうことにもつながり、それがさらなる誤解や偏見、不利な状況を生み出すことともなるため、早い段階からの支援が必要です。

愛知県のモデル事業を皮切りに、広がる就学前支援

現在、こうした外国にルーツを持つ子どもと外国人保護者に対し、入学前の日本語学習や情報提供などを通して、スムーズな小学校生活のスタートを応援しようとする取り組みが、広がりつつあります。

平成18年に愛知県が実施したモデル事業、「プレスクール(就学前の外国人の子どもへの初期の日本語指導・学校生活指導)」が下地となり、平成21年にはモデル事業の成果が「プレスクール実施マニュアル」としてまとめられたことは、支援者の間でも大きな話題となりました。

その後、取り組みは徐々に広がり、現在までの間に全国の、少なくとも15の地域で実施されてきました。(インターネット上で実施が確認できたもののみ)

内容は、2~3回の「ガイダンス」や「体験」を中心としたものから、中には全50回の手厚いプログラムで幼児の日本語の力を育み、小学校入学までを支えるものまで幅広く、まだ手探りの段階ではあるものの、小学校入学を控えた外国にルーツを持つ親子にとって大きな支えとなっています。

日本人保護者が外国人保護者へできること

一方で、こうした就学前のサポートはまだまだ実施している団体も地域も一部に限られているのが現状です。学校の先生が対応できる範囲にも限りがあり、保護者自身による取り組みにも期待をしたいところです。

外国語がわからなくても、簡単にできるサポートの例を2つ挙げますので、ぜひPTA活動の一環などで取り組んでみてはいかがでしょうか。

1)インターネット上の多言語翻訳資料を手渡す

インターネット上には外国人保護者にプリントして手渡すだけで役に立つ、多言語の学校生活案内が公開されています。そのうちの一つが、「愛知教育大学 外国人児童生徒支援リソースルーム」の「小学校ガイドブック」です。ポルトガル語・スペイン語・中国語・タガログ語・英語の5言語で、PDF版と電子本版もあり、日本の学校生活に必要な事柄が網羅されています。 (保育園・幼稚園版も) 

こちら以外にも様々な資料が多言語化され、インターネット上に
こちら以外にも様々な資料が多言語化され、インターネット上に

実は、このようなインターネット上で公開されている多言語の資料はたくさんあり、その資料がダウンロードできるページは日本語で書かれていることも少なくなく、日本語がわからない外国人保護者自身が外国語で検索をしてもなかなか発見できない、という状況です。

せっかく予算をかけて翻訳した資料も、今のところは周囲の日本語が分かる誰かが、情報を見つけて必要としている外国人へ届ける必要があります。こうした「眠っている翻訳資料の掘り起こし」作業は、インターネット環境があればいつでも、どこでも気軽に取り組むことができる重要なサポートで、外国人保護者にとっても学校にとっても、有意義な活動です。

2)日本語から日本語へ”通訳”するーやさしい日本語通訳で保護者会をサポート

日本人の保護者ができることは、多言語資料を渡すことだけではありません。たとえば、外国人保護者の方が「日本語の会話はできるけれど、ひらがなや漢字などの読み書きができない」という場合は、学校から出されるおたよりの必要な個所に、ローマ字でルビを振ることで理解がぐっと深まります。(読み書きができない外国人の方は、ひらがなも読めないという場合が多いので、ルビはローマ字がおすすめです)

たとえば「Addruby」というウェブサイトでは、ルビを振りたいホームページのURLやテキストデータを入力するだけで、自動的にひらがなやローマ字のルビを振ってくれるサービスです。学校のおたよりのデータさえあれば、コピーアンドペーストのみで、一括してルビつき文書となります。

また、保護者会などで日本語の会話についていけない(でも、日常会話はある程度わかる)という外国人保護者がいるときは、担任の先生の話す日本語を、「やさしい日本語」へ”通訳”することだけでも、要点を伝えることができます。

(やさしい日本語ってなに?という方は過去記事を。具体的なやさしい日本語の使い方については、愛知県が作成した「やさしい日本語の手引き」などが参考になります)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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