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納得できる?森林環境税の使い道は、林業関連ばかり

田中淳夫森林ジャーナリスト
森林が多くても林業が基幹産業とは限らない。林業家がゼロの村もある(写真:イメージマート)

 来年より、いよいよ森林環境税が課税される。

 ご存じない方のために簡単に説明すると、森林環境税とは住民税に上乗せで一人当たり一律1000円徴収する税金。その税収は年間約600億円だが、それを市区町村、都道府県に配るのが森林環境譲与税。使い道としては、森林や林業関係や木材利用などに限るように限定されている。

 その徴収の仕方からわかる通り、税金を多く納める地域は、大部分が人口の多い都市部だ。そして使われるのは森林が多い地域が中心となる。

 現在の配分基準は、森林面積50%、人口30%、林業就業者数20%となっている。しかし、森はほとんどないのに大都市は人口が多いからわりと多額の配分がされるため、このほど人口割合を20%に下げ、森林面積を60%に引き上げる案が検討されている。

 これって税収の大半を担う都市住民からすれば、ただ金を毟られているだけに思えるのではなかろうか。

 そこで、どんな使い道がされているか、少し紹介しよう。すでに4年間は別財源による森林環境譲与税を設けて全国の自治体に森林関連に使える財源が配分され、その取組事例が林野庁のホームページに紹介されている。

 もっとも多いのが「森林整備」とする間伐や再造林。そして里山林や竹林の鳥獣害・病害虫対策。さらに森林境界線など森林情報の整備。

 次に「人材育成」関係として、林業就業者や事業体への支援や研修の実施となっている。そして公共施設の木造化や木製品の製造・配布などの「木材利用」。なお「普及啓発」の名の元に森林関係のイベントを開く場合もある。

 そこで気付くのは「森林環境」と名のつく税なのに、使い道の大半は林業関係であることだ。いわば一部の産業振興である。里山林関係は、多少「森林環境」と言えなくもないが、普及啓発イベントも林業に対する理解を深める……などという文言が目につく。森林も少なく林業もやっていない都市が行えそうな取組は、大半が木材利用になってしまうが、これも林業関連だろう。

 つまり都市は、配分の変更によって、いよいよ税金を取られるだけになる。税金を支払っても、今まで以上に還元されない。身の回りに使われることは少なく、何に使われるのかもわかりにくい。

 いや森林地域の自治体にとっても、ちょっとヘンなのだ。なぜなら、最近は山村でも林業従事者は少なくなり、製材業なども消えつつある。林業従事者がほぼゼロの山村もあるし、製材工場は町に建設された大規模工場に移っている。

 山村の基幹産業を調べると、公務員と土木建設、ところによっては観光となる。

林業関係に分類されるキノコ栽培もあるが、実際のところ森林とあまり関係ない。林業が潤えば住民全体に寄与したとも言い難いのである。

 また木材利用と言っても、その価格は安価のまま据え置いており、たいして利益は出ない。それどころか木材増産の掛け声とともにはげ山を増やしかねない。木造建築物を建てたら森林への理解が高まるとか、山村の経済に寄与するというのは、かなりの牽強付会だと思う。

 森林環境税は、配分基準を変えれば上手く機能するのだろうか?

 むしろ使い道に疑問があるのでは?と思わせるのだ。

 林業一択ではなく、森林環境に寄与する使い道。そして住民の生活に寄与する使い道を考えられないか。林業もその中に含まれはするが、単に木を伐ったり木の苗を植えたりしたらOKというのとは違うはずだ。

 都会に配分された分も、使い道として木材利用しかないという発想は貧弱だ。

 たとえば都会で森林環境をよくする人材とか、地域起こしを担える人材、さらには森と木材によって生活を豊かにする人材を育成するという発想もあってよいだろう。そのうえで育てた人材を森林地域の自治体に派遣してもよい。都市住民にとって喜ばしい森林と暮らしをつくるために。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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