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高市大臣の地元で外資メガソーラーが森を奪う

田中淳夫森林ジャーナリスト
多くのメガソーラーは森林を切り開いて設置する(筆者撮影)

 奈良県平群町のメガソーラー計画、またまたデタラメが発覚した。

 これまで業者が、必要書類を揃えずに申請したことや、計算式で降雨対象面積の単位を間違え、100分の1にしていたこと、そして奈良県は、それでも問題ないとして受理し承認していたことを伝えたが、さらに重大な誤りが発見された。

 敷地内に作られる調整池の貯水容量がおかしいのである。降雨の際に該当地から流れ出る水があふれないように溜めておく池だが、県の定めた基準に足りないのだ。4つの池を合わせると、概算で4000立方メートル以上足りない。50年の間に降る確率の高い最大雨量の場合は水が池からあふれ出し、下流の住宅地を襲う可能性大だ。これは「平群のメガソーラーを考える会」と奥西一夫京都大学防災研究所名誉教授が公表されている申請書から計算したことで発覚した。

 林野庁の治山課に伝えると、その指摘は妥当なものとし、調整池の容量が足りない点を認めている。ところが県は、申請書の再審査を行わないと回答した。

メガソーラー、デタラメ申請を通す奈良県の不可解

 大きな誤りだけで3度目である。最初は放水路の勾配がデタラメだったことが指摘されて、2年前に荒井正吾知事が工事を差し止めた。次に業者が昨夏に出された開発変更申請書に、冒頭に触れた通りの書類不備に面積誤認があった。そして今回の調整池だ。

 ところが、2度目3度目は県が止めるどころか業者を擁護しているのである。森林審議会も了承し、知事は静観している。

調整池の容量不足を示すグラフ(考える会提供)
調整池の容量不足を示すグラフ(考える会提供)

 当初平群のメガソーラー計画は森林破壊として問題になっていたが、もはや防災問題になっている。このままだと、近年増えているレベルの豪雨が降れば計画地のすぐ下流にあるニュータウンを土石流が襲いかねない。

 それにしても、ここまで間違いだらけの申請書を出してくる業者は何者なのか。ちょっと異常ではないか。そこで原点にもどって事業体について調べてみた。

世界最大のファンドが乗り出す

 まず事業主体は共栄ソーラーステーション合同会社だが、これは資本金10万円のペーパーカンパニーである。事業実態もない。大本はアメリカの投資会社「エバーストリーム・キャピタルマネジメント」で、その子会社のパシフィックソーラーのさらに子会社が共栄ソーラーという位置づけだ。ちなみに工事は村本建設。

 エバーストリーム・キャピタルマネジメントは、資産運用会社ブラックロックグループと今回の事業に共同出資している。そして世界中で再生可能エネルギーのメガソーラーや風力などの巨大プロジェクトを展開する。アメリカ国内はもちろん、チリやインド、イタリア、フィリピンでメガソーラーや風力発電のプロジェクトを行ってきた。さらに廃棄物処理関係の事業も始めている。

 ちなみにブラックロックの預かり資産は10兆ドルを超えて、日本のGDPの2倍相当にもなる世界最大のファンドだ。

 エバーストリームは、日本でメガソーラー事業に力を入れていて、稼働中の3つの大規模太陽光発電所と、現在建設中の5つの大規模太陽光発電プロジェクトがある。そこに平群も含まれる。ただし、どこでもトラブルを起こしているようだ。

 宮城県の丸森町の計画は115ヘクタールの規模で森林を切り開いて設置する計画だが、3つの会社に分けて環境アセスメント逃れを行って問題となった。

 青森市新城山田に建設中のメガソーラー事業地では、昨年8月に大規模な災害を引き起こしている。沈砂池が崩壊して水田などを土砂で埋めてしまったのだ。しかし、今のところ補償は何もされていない。

 さて、奈良県平群町の計画は、生駒山麓の48ヘクタールを買収して、そこに5万枚を超えるパネルを設置するメガソーラーだ。

 ちなみに最初の計画は2012年以前に提出されているため、電力買取価格はFIT(固定価格買取制度)によって40円/kWhという破格値である。ところが昨年から「設備認定失効制度」が始まり、今年度中に計画が承認されないと失効する。23年度以降に申請し直すと、価格は10円/kWhに下げられる。

 おそらく大急ぎで変更申請をしようとしたために、辻褄合わせのようなデタラメな数字が並ぶのだろう。

統一地方選挙でどう動く

 問題は、県がそれをよしとする点だ。いや、積極的に業者を後押ししていると言ってもよい。業者の計画書を十分にチェックしたのかどうか疑わしい。(すでに3度も騙されたことになるが、まだ信じているらしい。)

 2月3日には、住民団体が起こした工事差し止め裁判の第7回口頭弁論が開かれたが、調整池の容量問題で、業者側は反論の準備書面が用意できず、3月末までの提出を約束して閉廷した。

 このまま県がこのまま計画を認めた場合は、住民団体は認可の取り消しを求めて、今度は県を相手取って行政訴訟を行う方針を明らかにしている。

 なお奈良県内では,もう一つ山添村にも81ヘクタール規模の巨大メガソーラー計画が進行中だ。こちらでも反対運動が広がっている。

 メガソーラーは、再生可能エネルギーの一つでCO2を排出せず環境に優しいエネルギー源とされている。しかし、現場を見れば森林破壊して生物多様性を奪うほか、CO2排出削減になっていない。そこに災害発生可能性を高めているとなれば、本当に推進してよいのか。しかも日本の国富を流出させてしまうと問題山積だ。

 ところで、ちょっと気になる点がある。平群町や山添村を選挙区とする衆議院議員は、高市早苗経済安全保障担当大臣であることだ。

 この役職は、外国によって国民生活や社会経済活動が乱されないようにすることを目的とする。高市議員自身も、常日頃から外国に日本の森林や水資源、そして知的財産などが奪われていることへの憂慮を口にしてきた。外資の森林買収を規制する法案づくりに動いたこともある。

 メガソーラーには広大な面積が必要だが、そこで外資は日本の森を買い取っている。その面積は概算で全国で6万ヘクタールにも及ぶとされる。さらにFITによって高額の「再エネ促進賦課金」が電力料金に課せられている。その額は今や年間2兆円近いが、そのうちの何割が海外へ流出しているのか。

 平群町の場合はアメリカだが、ほかにもフランス、イギリス、スペイン、シンガポールなど外資が再生可能エネルギー市場に怒濤のように流れ込んでいる。また世界のソーラーパネルの8割は中国製である。

 そもそもエネルギー資本が外資に握られることは、経済安保にふさわしいように思えないのだ。しかし高市大臣は、地元のメガソーラー問題については何も発言していない。大臣という立場からは軽々に発言できない面もあるかと思うが、県の態度に対して意見表明はあってもよいのではないか。

 今年4月には、奈良県でも知事選、県議選などの統一地方選挙が控えている。知事選では現職と高市議員の推す候補がぶつかる。どちらの候補も(そして県議選候補も)、そろそろメガソーラーに対して旗色を鮮明にしてほしい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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