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石炭火力よりCO2を排出するバイオマス発電!

田中淳夫森林ジャーナリスト
各地に乱立する木質バイオマス発電所から排出されるCO2は……。(筆者撮影)

 気候変動対策としてのカーボン・ニュートラル。ようするにCO2を始めとする温室効果ガスの排出削減だが、そこで化石燃料の代わりに再生可能エネルギーに期待する声が高まっている。太陽光、風力、そしてバイオマスなどである。

 なかでも最近注目を集めているのは、木質バイオマス発電だ。

 ようは木材を燃料にする火力発電なのだが、木は日々生長する際にCO2を吸収するから、それを燃やしてCO2を排出しても差し引きゼロ、つまりカーボン・ニュートラルだとされる。

 だからバイオマス燃料を使うことで化石燃料の使用を減らせば、その分、CO2の排出を減らしたことになるという考え方だ。しかも日本の山は木々があふれ、飽和状態になっている。それを利用するのだから林業振興となり地域活性化にも役立つ、間伐すれば森林も健全になる、とバラ色の理論がやたら語られる。

 だが、本当に木質バイオマス発電は、カーボン・ニュートラルなのだろうか。

 実は衝撃の数値が出ている。

 イギリスのシンクタンク、王立国際問題研究所(通称・チャタム・ハウス)の出した化石燃料各種と木質バイオマスの燃焼による温室効果ガス排出量の比較だ。これによると、天然ガスや石炭各種(歴青炭、無煙炭、褐炭)と比べて、木材がもっとも排出量が多かったのだ。しかもCO2の約25倍の温室効果があるとされるメタンガスが、ほかの30倍にもなっている。

 この計算式は複雑なので詳しいことは省くが、木材を燃料とするには、まず樹木を伐りだして輸送し、チップに砕くかペレット化するなどの加工が必要だ。それぞれの過程でCO2が発生する。加えて、これまでCO2を吸収していた樹木を伐採するのだから、その分の吸収はなくなり、森林土地改変によって土壌中の有機物の分解が進みCO2発生を促進する。再造林しても、苗木が小さな間のCO2吸収量は少ない……と考えれば理解しやすいだろう。

 木質バイオマス発電は、再生可能エネルギーと言いつつ、実は気候変動を激化させかねない疑いが出てきたのだ。

 しかも、日本の現実は欧米よりも厳しい。

 まず廃熱利用がほとんど行われていない。欧米では、たいてい燃焼時の熱で発電するとともに温水提供や暖房などに熱利用が進められている。発電と熱利用を合わせたら木材の持つエネルギー量の最大8割は利用できるとされる。だが日本の場合は、ほぼ発電だけなのだ。すると効率は25%~38%程度しかない。

 さらに燃料となる木材の調達先は、国内より海外(ベトナムやカナダ、マレーシアなど)が多くて輸送距離は遠大となる。船で運ぶにしても化石燃料が使われCO2を排出するだろう。また熱帯アジアで生産されるアブラヤシを燃料(油脂のほかヤシ殻など)とする場合は、アブラヤシ農園建設のため泥炭地帯の開発が行われることで、莫大なCO2を発生させてしまうことも想定される。

この木材の山も、発電所の数日分の燃料にすぎない(筆者撮影)
この木材の山も、発電所の数日分の燃料にすぎない(筆者撮影)

 気候変動対策は喫緊の課題だ。さもないと人類の未来、いや地球の未来に多大な影響を及ぼす。そのために多少の景観破壊などは我慢して再生可能エネルギーへの切り換えを推進しなくてはいけない面もあるかと思っている。しかし、肝心の脱炭素効果そのものが疑われるのでは本末転倒ではないか。

 なお昨今の円安により、海外からの燃料調達で価格高騰が続く。すでに輸入原料では採算が合わなくなってきた。パームオイルによる発電計画は軒並みストップがかかっている。つまり経済的にも引き合わなくなりそうなのだ。

 国産材を燃料にする場合も、問題は多々ある。たとえば現場では林地残材や端材、あるいは建築廃材だけを燃料にしているのではない。山の木を全部燃料にするため伐っているケースが多いのだ。どんなに太く真っ直ぐで建材向きの丸太でも、仕分けするのが面倒で十把一絡げだし、伐採効率を上げようと全部伐る。結果として山は禿山になる。こうした森林破壊は、生物多様性も劣化させてしまう。もちろん土砂崩れなど災害を引き起こす要因にもなる。

 木質バイオマス発電は、早急に見直すべきだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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