菅総理が、今年のサミット前に2030年までに二酸化炭素排出削減46%(2013年度比)をめざすと宣言した。

 すると何が起こるか。排出削減を進めないといけないが、日本の場合はエネルギー(発電)の割合が高い。そこで石炭石油などの化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換を増やすことが至上課題となる。

 さっそく各省庁が動き出したようだ。とくにターゲットになるのが、森林だ。なぜならバイオマス発電に太陽光発電、風力発電、それに地熱発電など、いずれも立地や燃料調達を考えると森林地帯が被さってくるからだ。

再生可能エネルギー推進に邪魔な保安林制度

 そこで引っかかるのが、保安林である。これは、水源の涵養、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全・形成などの公益的目的のため、農林水産大臣および道府県知事によって指定された、立木の伐採や土地の形質の変更などが規制された森林のことだ。

 保安林の指定面積は、1200万ヘクタールを超えている。日本の森林(約2500万ヘクタール)の半分近くが指定されているわけだ。種類はいくつもあるが、7割以上が水源涵養保安林で、2割が土砂流出防備保安林である。

 保安林では、指定用途以外への転換は規制されている。安易に木を伐採してソーラーパネルを設置したり、燃料にするため木を伐ったりできない。もちろん風車を建てるのも、地熱探索でボーリングする再にも厳しい条件がつく。

 これでは再生可能エネルギーを推進しづらい。そこで保安林指定解除をより進めやすくするため、林野庁では解除のためのマニュアルづくりが始まったそうだ。

 必要な手続きを明確化し、必要書類を明示して指定解除のための審査を迅速化するためだとか。また申請前の事前相談(事業者と都道府県や森林管理局)もこれまでは1年近くかかることもあったのを早める意向だ。なお解除しなくてもできる伐採などもあるので、整理してマニュアルに記すという。

 しかし……これって、保安林指定を早く解除できるよう後押しを、林野庁がするということではないのか。マニュアルをつくるだけ、審査は適正に、というのは言い訳っぽい。

 保安林指定そのものは、国立公園法とか自然環境保全法など森林保全に関する法律の中では緩いものである。皆伐でなければ(手続きを踏んで)伐採もできる。敷地内に建築も可能だ。それでも目的があって指定したのだから、再生可能エネルギーを増やすためとはいえ、安易に解除すべきものではないだろう。

二酸化炭素を削減しない再生可能エネルギー

 原点にもどって考えてほしい。再生可能エネルギーとは二酸化炭素の排出がない(少ない)うえに、枯渇することのないエネルギーとされている。しかし、本当にバイオマスや太陽光発電が、二酸化炭素排出を削減しているだろうか。

 メガソーラーはどんどん規模を拡大している。最近では500ヘクタール規模(宮城県白石市)の計画まであるが、それだけの面積の森林を切り開いてソーラーパネルを並べることのどこが二酸化炭素削減か。

 バイオマス発電は、山の木を丸ごと伐採して木材は全部燃料にしてしまっている。あるいは海外から化石燃料を使う船に積み込んで輸入している。

 風力も、森林地帯に設置する場合は、だいたい1基設置するのに1ヘクタールは必要で、さらに管理道路なども建設されるため、結構な森林を削る。これが森林地帯に100基規模で並ぶこともある。

 森林を伐採すれば、二酸化炭素は吸収されなくなる。木を燃やしてもカーボンニュートラルで、木はまた生えてくるからプラスマイナスゼロだと主張するが、樹木が元の太さまで生長するには、50年以上かかるだろう。9年後の2030年の時点では、排出量は増加したままだ。そもそも伐採した面積と同規模の森林を再びつくるという保証もない。

 すでにEUでは、バイオマス発電を再生可能エネルギーの区分から外そう、もっと基準を厳しくしようという動きが進んでいる。燃料確保の名目で、森林破壊が著しいからだ。

 太陽光発電も、ドイツでは、森林を伐採してつくると6倍の面積を植林しなければならないなど、規制が厳しい。その点、日本には何もない。

 何より森林破壊は、気候変動と並んで国際的なテーマである生物多様性を破壊するのは間違いない。そして水源涵養、土砂流出防止機能も奪ってしまう

 結局、目先の数値目標(再生可能エネルギーの拡大)しか眼を向けず、本来の目的である二酸化炭素排出削減には何ら寄与しない(どころか排出を増やす)政策を唯々諾々と進めているのではないか。

 まさに手段を目的化している。そして森林行政は、最低限の保全規定である保安林制度も形骸化させつつあるのだ。