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猛暑に弱かった蚊。秋こそ蚊の季節だった

田中淳夫森林ジャーナリスト
蚊はメスが産卵するために動物の血を吸う。(写真:ロイター/アフロ)

 今頃(9月下旬)、蚊とり線香を出した。実は今年になって初めてである。

 我が家は山も近いし草木の繁った庭もあるので、比較的蚊の発生は多いと思う。だから夏は蚊とり線香が欠かせない。しかし、今夏は使わなかったのである。そもそも蚊が出たという記憶がない。まったく蚊に刺されることがなかったと言えば嘘になるが、ほとんど気にならなかった。(代わりに?野良猫の持ち込んだネコノミに泣かされた。)

 ともあれ、今夏はまれに見るほど蚊が発生しなかったのである。

 どうやらそれは猛暑のせいらしい。

 あまりに暑くて、蚊もまいっていたようだ。いや、その前に発生しにくかったようである。

 なぜなら、蚊が卵からボウフラに孵り、サナギ(オニボウフラ)を経て成虫になるまでに、早くても10日はかかる。しかし、猛暑で水たまりが干上がったり、水がお湯になってしまったりすると、ボウフラも生きていられないだろう。

 実は私も、たまに庭やベランダにある植木鉢の受け皿や雨水のたまったバケツをのぞいていたのだが、たまった水が熱いほどの温度になっていた。ボウフラはいても、冷たい底に沈んでじっとしていた。あれでは羽化できないだろう。おもわずニンマリしていたのであった。(もちろん、その後で水を流して干上がらせてやった。)

 ごく簡単に蚊の基礎知識を記すと、日本に蚊は約110種くらいいると言われるが、よく目にする(刺される)蚊は、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ(ヤブ蚊)の3種だろう。これらの蚊の活動時期は、一般に最低気温が10度以上になる4月~10月(地域差はある)とされる。ただ成虫が吸血活動をするのは、20度以上らしい。オスの蚊は草の汁などを餌としており、吸血するのはメスの蚊だ。栄養をつけて産卵するためだ。つまり20度以上の季節になると、爆発的に蚊は増えるのだ。

 ただし30度を超えると、活動は鈍くなるという報告がある。さらに35度以上になると、ほとんど動かないという。猛暑の昼間に続いて熱帯夜(30度以上)だったら、活動する時がなくなる。実は熱帯地方では、昼はともかく夜は気温が30度以下になるところが多い。熱帯のジャングルの夜は過ごしよかったりする(その代わり虫がいっぱい出てくる)が、今年の日本の夏はそれ以上だったのか。

 

 これは蚊など昆虫に限らず、植物でもいえることだ。真昼の日射の強いときは光合成に向いているように思えるが、実は逆でもっとも暑い時間帯は気孔を閉めて光合成を中止する。温度が高すぎるとCO2を吸収できず光合成に向かないのだ。光合成は曇天のときか朝夕の方が盛んである。晴天時の昼間は光合成を休むから酸素も出さないことになる。

 ちなみに人間の体温はその温度を少し超えた36度を平熱とするのは絶妙だ。病気になると熱を出して体温を37度以上にするのも、病原菌を増えなくするためだろうか。(思いつき仮説です。)

 脱線したが、今夏の猛暑では、日本列島が軒並み最低気温30度以上になっていたから、蚊の発生が少なかったのかもしれない。梅雨が短かったり、雨が少なくて水たまりができにくかったことも影響している可能性もあるだろう。

 ともあれ、ようやく暑さが和らいだ秋の今こそ、蚊は失われた夏を取り戻すべく、活動を活発化させ出したようだ。大いに血を吸って産卵して大発生するのではないか。

 秋とはいえ、最低気温が10度を切る地方はまだ少なく、昼間は20度以上あるところが多い。つまり現在の日本列島は、蚊にとって絶好の季節というわけだ。今年は蚊に悩まされる秋になるかもしれない。秋に産卵した蚊は、気温が下がると冬眠して冬を越すから要注意だ。暖房の効いた冬の屋内でブンブン飛び回ることもあり得る。

 ようやくネコノミの痒さが収まったのに、次は蚊かと思うとたまらんのであった。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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