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国産材家具の普及を拒むもの

田中淳夫森林ジャーナリスト
国産のコナラでつくられたイス。(筆者撮影)

 近年、国産材を使おう、という気運が高まっている。正確に言えば、政府が音頭をとって木づかい、とくに国産材づかいを推進している。だが木材の主要消費先である住宅着工件数は減るばかり。一方で、ここ数年で伸びてきたのは木製家具だ。

 そこで調べてみると、木製家具の木材消費量は、推定72万立方メートル(2015年)だったが、そのうち国産材は6万立方メートルである。現在の木製家具は、たいていが外材製なのだ。これは国内向けなので、韓国やベトナムなど海外向けも加えたら、家具用の原木(輸出は丸太で行われている)はもう少し増えるかもしれないが、量的にはたいしたことない。

 とはいえ家具用の木材は、建築用より通常は高値だから経済効果は悪くないだろう。

 ところが外国産広葉樹の輸入が非常に難しくなってきている。東南アジアなどでは伐採規制が広がっているし、欧米でも合法木材化が進むことで価格が上がってきた。とくに日本は市場が小さいので売り手市場だ。なかなか思うように輸入できない。そこで輸入材より国産材で家具をつくる気運が高まってきたのだ。

「来年には100%家具材を国産材にする」と言っている家具メーカーのワイス・ワイスは、もともと2008年にフェアウッド(合法木材)による家具づくりを掲げたのだが、その中に岩手のクリ材による家具を加えたら、あきらかに国産材家具の方がよく売れたそうだ。そこで順次フェアウッドだけでなく国産材へと切り替えを進めている。たとえば宮崎などのコナラ材(どんぐり材と呼んでいる)や、宮城県のスギ材による国産材家具などラインナップを増やしてきた。今ではフェアウッド100%に国産材80%である。それをさらに進め両方を100%にするというのだ。

 ほかにも国産材を使う家具メーカーは増えている。

 とはいえ、国産材家具を増やすにはいくつか壁がある。

 まず国産広葉樹材は流通ルートが整備されていずに、あまり出回っていないこと。しかも大木は少なくて、大きな無垢板が取れない。

 一方でスギやヒノキなど豊富にある針葉樹材でつくるには柔らかさの克服やデザインが課題となる。圧縮木材(表面をプレスして硬くした針葉樹材)という手もあるが、価格は高くなる。輸出も原木で行っていたら、山元へ還元できるだけの利益は出ない。

 だが、最大の壁は、作り手の意識かもしれない。

 まず作家的な家具職人は広葉樹材の無垢板で家具をつくりたがる。しかしそんな材料は量も出ないし、価格が跳ね上がる。

 一方で針葉樹材は柔らかいから傷が付きやすくてクレームが多いと恐れる。また強度が落ちる分をカバーしようと太い材を使うなどすると、デザインが制約されると嫌がる。

 だが考えてみると、無垢板を使用せずに細い材でも張り合わせることで新たなデザインを生み出すこともできるし、強度を保ちつつよいデザインに仕上げるのも腕の見せ所だろう。また生活者が自分の付けた傷にクレームを付けることはあまりなく、むしろ針葉樹材の柔らかさは触感のよさや温かみを感じるはず。汚れやすいともいうが、むしろ木肌の経過年変化を味があると喜ぶ人が多いように思う。

 何より身近な山から出された国産材にはストーリーが付けやすい。今後の販売に重要な点だ。

これまでにも梱包材でつくる家具なども紹介してきた。劣等材扱いのパレットの木を合わせることでオシャレな家具がつくれるように、アイデアとデザイン感覚次第である。

廃パレットから家具!木材の使い道はアイデア次第

 これは住宅業界の話だが、施主は木造、できれば国産材の家を建てたいという希望が高いのだが、ビルダーやハウスメーカーが嫌がるケースが多い。木は腐る、木は傷が付きやすい、木は割れる・反る・曲がる……と文句をつけて、できる限り木を使いたがらない、あるいは狂わない逸品だけを使いたがる傾向にあるそうだ。

その点は、以前木育関係の記事でも指摘した。

 家具職人、木工職人もよく似たことをやっていないだろうか。木の家具はこうでなければならぬ、という勝手な思い込みが家具づくりの幅を狭めているかもしれない。

 もっと自由に、もっと気軽に使える木製家具を提供してほしい。

 家具は、身近にあってすぐ目に止まるし、触ることもできる。ある意味、木を好きになるようにする最重要アイテムである。

 家具から木を好きになる人を増やしていくことが、回り回って林業振興、森林再生にもつながるのかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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