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山の道を通る時はのり面を見るべし

田中淳夫森林ジャーナリスト
完工後1ヶ月で崩れだした山中の道 

 私は、山の中を伸びている道を通る時は、できるだけ法(のり)面を観察することにしている。道の上下に当たる斜面を削り取ったり盛り土した急斜面の部分である。

 九州の某地方の山に行った。森を見るためだが、そこで案内されたところに、地元の自治体がつくった新しい林道があった。

 そこまでうねうねと狭い道を走ってきたのだが、そこから急に広くなる。路面もセメントまじりの土で固めてある。ずいぶん金をかけた道だな、と思わせる。

 だが、やばいぞ。山を削ってできた法面の高さが、垂直5メートルを越えていたのだ。そこが硬い岩ならまだしも、見たところ破砕帯なのかボロボロの石ばかり。

 案の定、少し歩くと落石だらけだった。聞けば開通したのが今年3月末。つまり1ヶ月あまりで早くも崩壊が始まっているというわけだ。さらに歩くと、完全に崖が崩れて上部の切株が落ちてきているところもあった。さらに道の下方は土石をそのまま放り込んだままで土留めもしていない。

ボロボロの石で崩れやすい法面
ボロボロの石で崩れやすい法面
早くも落石が多発し、切株も落ちていた。
早くも落石が多発し、切株も落ちていた。

 

「これ、今年の梅雨時(つまり1ヶ月後)を乗り切れないんじゃないか」

 それが素直な感想だ。

  

 山には国道・県道など自治体の道、そして林道と作業道(林道から分かれる林業用の簡易な道)などがある。私はそれらの道を通るときは、つい法面に眼を向けてしまう。とくに法面の高さに注目だ。

 山に道を入れようとしたら、たいてい斜面上部を削り、その土を斜面下に盛って道の路面をつくることになるが、そうして誕生した法面は、当然崩れやすい。だから国道などなら緑化したりコンクリートで補強などを行うことが多い。しかし林道や作業道では、多くが剥き出しのままだ。

 だが地肌の法面は、一般に高さ1・5メートルを越えたら崩れると言われている。

 山の中にどんなルートで道を入れるか。いくつも条件はあるが、路面の斜度と法面の高さは最重要だ。今は馬力のある重機を使えば、少々硬い岩も砕いて削れるが、そこで安易に高い法面をつくってしまうと、その道は危険になる。水の処理も難しい。沢を越える場所は相当選び排水方法を考えねば危険だし、降水だけでなく湧水も気をつけねばならない。水が路面を流れれば水を集めて川のようになり、流れ落ちる斜面を崩す。

 そんな眼で見ると、いかに危険な道が多いことか。むしろ「これなら大丈夫」と言える道の方が少ないのではないか。

 山の地形や地質は複雑だ。気象条件も厳しい。そんなところでルートを選定し土木工事をする場合は、専門的な知識・技術と細心の注意が欠かせない。しかし実際に施工する土木業者で、それを身につけている人々はどれだけいるだろうか。仮に工事担当者に見識があっても、予算や工期の都合上ていねいにできない場合もある。

 道が崩れれば、単に通行できなくなるだけでなく、崩れた土砂が沢や川の流路を埋めてしまう。すると下流にも被害を拡大するだろう。しかも、崩れた道や山腹の補修費は莫大だ。さらに道は山腹を大きく崩壊させるきっかけになる。最近多発する山崩れも、道を入れたところから崩れることが多い。

 ちなみに冒頭に記した林道は、10トントラックも入れると誇っていたが、肝心の接合する道は細く急カーブが多くて10トントラックは通れないそうだ。その挙げ句に、いつ崩れてもおかしくない施工とは……。税金の使い道としても首をかしげざるを得ない。

(写真はすべて筆者撮影)

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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