知られざる林業危機を支えたネットの力

雪の降る中、新旧のトラック走行試験が行われた。

年が明けてすぐの1月13日、奈良県吉野郡川上村の林業現場で、ちょっと不思議なトラックの走行検討会が行われた。新旧7台もの2トントラックが、作業道(林道より簡易につくられた林内の道)で丸太を積載して走行する実験である。結果としては、旧式トラックの方が安定・安全な走行が行えることを確認できたのだが……。

参加者は約50人。東京から駆けつけた日野自動車の開発陣と、多くの林業関係者である。

なぜ、こんな実験が行われたのか。それは昨年10月、ある林業家の記したブログに遡る。

『吉野の杣人奮闘記』

タイトルは「何とかしないと!死活問題なんです!!」とあり、林業現場で使用する2トントラック(ダンプ)が生産中止になり、今後の木材搬出が難しくなる、という内容だ。

この話、林業界の現場に精通していないとピンと来ないだろう。トラックはいくらでも生産されているだろうに……。

だが、違うのだ。最近のトラックは、四駆でも林業現場の走行に向いていないのである。林業用には、悪路走破性の高い高床・低速ギアタイプが求められる。丸太を満載して地道の急坂を登らねば仕事にならないし、凸凹が多いから高床でないと走れない。作業道の規格の関係で2トン車であることも重要となる。

ところが新型のトラックは、四駆は(常時、全輪駆動ではない)ビスカス式で、低床・高速ギア仕様へ切り替わっている。排気量を落とし、ターボで出力を上げる方式だ。これだと高速・雪道走行などはよいが、悪路の走破力は劣る。

作業道を原木を積んで走るには、相当の走破力が必要。
作業道を原木を積んで走るには、相当の走破力が必要。

詳しくは、ブログの説明に目を通していただきたいが、各トラックメーカーは低速・走破力のあるダンプの製造を中止してしまった。林業用の需要など微々たるものであるうえ、年々排ガス規制が厳しくなっているからだろう。

そのため多くの林業家は、全国で中古の旧式トラックを探しているが、払底しつつある。このままでは低コストのトラック搬出はできなくなり、それで林業を諦めることになりかねない……。

そんな悲痛な声をブログに記したのである。そしてトラックを製造するメーカーへ、救いの手を差し伸べてほしいと呼びかけたのだ。

正直、マニアックな話題だ。林業の従事者自体が全国で5万人を切る有り様だから、こんなニッチな分野の話題に共感する人が何人いるだろうか……。

ところが、その後の反響はすさまじかった。

ツイッター、フェイスブックなどSNSを通じて拡散されたからだ。フェイスブックのシェア数は3.3万回を越している。さらにウェブニュースサイトが取り上げ、実はYahoo!ニュースでもそれを転載する形で紹介されている。

林業界だけでなく、自動車関連に詳しい人からも多くのアドバイスが届けられると同時に、メーカーへの働きかけも行われた。またブログ主もメーカー・ディーラーを訪問して相談した。

その結果、現行モデルの改造などいろいろな手が考えられたのだが、完全に満足の行くものではなかった。一方、メーカーは過去の車種を再生産することや新開発には否定的だった……。

ただ、旧式車両は海外で人気で、中古がどんどん輸出されていることもわかってきた。発展途上国などでは、悪路走破力に重きを置いた車両の需要があったわけである。それが中古車市場を逼迫させていたのだが……。ならば、メーカーとしても見過ごせないのではないか。

そして、とうとうメーカーも動き出す。冒頭のとおり、日野自動車の開発担当者が吉野まで足を運んで新旧のトラックの違いを比べた。何が問題か、どんな工夫で林業向きになるのか検討したわけである。

その後、試作車両を製造してみるという連絡が来た。旧式のままではなく、現代版の悪路走行可能なトラックを考えてみようというわけだ。さすがヒノノニトンだけあって、トントン拍子である。

ブログに書き込んで、わずか2カ月。ここまで事態が動いたのは、何と言ってもネットの力だろう。マニアックな問題でも、全国に広がれば同じ悩みを持つ人や賛同者が結集し、大きな声につながる。

ただネット上の声だけで社会が動いたわけではないと思う。多くの人がメーカーに働きかけるなど現実に動いた。また行政も裏で後押しをしたようである。ネットは、それを下支えする力となった。相乗効果というべきか。

企業も、そんな声があったら呼応する(こともある)。もしかしたら、潜在的な需要を掘り起こすことにもつながるかもしれない。

ブログ主は「メーカーにコツコツ働きかけて行こうと思っていたけど、こんなスピードで進むとは思わなかった……」。

もちろん、試作車がすぐに使える性能になるかどうかはわからないし、市販に至る道筋もまだ先の話だ。しかし、知られざる林業危機に薄日が射したのかもしれない。