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これでは植物虐待だ! 残念な都市の緑化木

田中淳夫森林ジャーナリスト
支柱を飲み込む樹木(提供・伊藤操子氏)

夏も盛り。炎天下歩いている時に木陰があると、ホッとする。近年は街のなかでもよく緑を目にするようになった。公園や街路樹、緑地も増えた。それにビルの屋上や壁面も緑に覆われるようになってきた。

2014年度末の全国の都市公園等の面積は約12万2839ヘクタール、数は10万5744箇所に達する。人口1人当たりの公園面積は、40年前の4倍にも増えた。街路樹では、高木の数は2012年は675万本。中低木は2012年で1億4016万本だ。また屋上緑化空間は約383ヘクタール、壁面緑化空間は約62ヘクタール(2000年から13年までの累計施工面積)となっている。

しかし、それらの緑をよく見ていると、ギョッとするシーンも少なくない。

街中の緑は、どうしても人の手をかけないといけないことがあるが、ちょっと酷い、これは植物虐待ではないか……と思ってしまうことがあるのだ。

街路樹は、枝が広がると道路標識が見えなくなるとか、落葉が邪魔などの理由で常に剪定される。

しかし、ほとんど枝を全部切り取ってしまって、1本の丸太のようにしてしまったり、幹に沿って枝を切り落とす「フラッシュカット」をよく見かける。これでは切り口から病原菌が入りやすく腐朽の元だ。樹木を枯らしてしまいかねない。

あふれる根
あふれる根
アスファルトで埋められた根元
アスファルトで埋められた根元

さらに、根張りの土壌空間が狭すぎて土がいくらもないところに植えて、根がはみ出した現場などを見ると痛々しい。ほかにも樹木に野放図に針金やワイヤーを巻いたり、囲い(支柱)をつけたため、樹木が生長すると幹が針金を包み込んでしまうことも多い。

ワイヤーが食い込んだまま放置
ワイヤーが食い込んだまま放置
丸太棒のような街路樹
丸太棒のような街路樹

なかには、この環境でよくぞ育った! と喝采したくなるケースもあるが、植物にとっては決して望ましいことではあるまい。

コンクリートの隙間から生える大木
コンクリートの隙間から生える大木
側溝から育ったサクラ
側溝から育ったサクラ

街路樹として植えられた木々の寿命は、イチョウやケヤキなどは数百年あるのに、50年経たずに枯れてしまう「街路樹の50年問題」が囁かれている。強度の剪定を繰り返しために樹勢が弱まり、幹に空洞ができたり、ベッコウダケなど菌類に感染するからのようだ。

そのため環境保全や景観上の問題に発展しかねない。

なぜ、植物を「虐待」してしまうのだろうか。

一つには維持管理費を抑えるため、ていねいな作業ができずに作業回数を減らして強度に行うことがある。

しかし、私が憂慮するのは、担当者に植物や緑地の専門知識が欠けているように思えることだ。

貧栄養土壌を好むマツの樹下に花壇をつくって肥料をたっぷり与えている現場を見たことがあるが、ほどなくマツは枯れた。

密生した森を間伐する作業で、太い木を残して細い木、低木ばかりを伐採しているケースもあった。大木が上を覆っているから林内は暗いままだ。しかも後継樹がなくなったので、森の少子高齢化を招いてしまった。老木が枯れた後に、どんな森になってしまうだろうか。

十分に植物生理や森林生態やを知らないまま管理をしている証拠だろう。何より「生物は生長する」のに、植えてから太くなったり高く伸びることを想定していないように思える。

街路樹の「ど根性」は、あまり見たくない。それを目にしたら癒されるどころか痛々しい気分になるではないか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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