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コロナ対策にGoToで長引く行列-ホテルのチェックインに何分待てますか?

瀧澤信秋ホテル評論家
筆者撮影

年末は“GoToトラベル(以下「GoTo」とする)の約半年間”を振り返る意味合いから、12月中旬以降に3~4本の記事を執筆・掲載する予定で執筆を進めてきた。1本目はメディア相手の仕事をしている自身ならではの視点でマスメディアとGoToをテーマとし、2本目は利用者目線のホテル評論家という従来のスタンスから設定料金等について消費者の視点で取り組んだ。

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3本目となる今回は現場のリアルにフォーカスした内容で、チェックイン時の行列問題を取り上げる(3本いずれも(内容が複雑(長文)になるので)感染症についてのGoTo関連テーマについては基本的に触れていない)。

チェックインの行列

もはや聞き飽きた感もあるGoTo“トラブル”であるが、ゲストと現場のリアルな一例としてホテルのチェックインの待ち問題にフォーカスしつつ振り返ってみたい。

GoToトラベル(以下「GoTo」とする)は事業者、ゲスト双方に様々な損益をもたらしているが、ホテル現場へ与えた負担も計り知れないことは確かだ。そのひとつとして、ホテルによってはチェックイン時の行列問題の深刻さがある。そもそもGoTo以前より規模の大きなシティホテルなどではチェックインが集中する時間帯の行列は問題視されていた。

それに加えGoTo下では説明や手続きに時間を要し、通常の倍以上の時間を要しているという声もある。せっかく来訪していただいたゲストへ過度なストレスと負担を強いていることに嘆く現場の声も耳に入ってくるが果たして実情はどうなのか、多くの人々が訪れているという人気ホテルへ11月はじめにプライベートステイも兼ねて出向いてみた。

とあるホテルの“前と後”

「ヒルトン東京お台場」(東京都港区)は都心の人気観光スポットに立地、全室にバルコニーが設けられ風が吹き抜けるような(実際吹き抜ける)客室は“停滞しない空気”というイメージとあいまってか、Go To下でかなりの人気を博するホテルのひとつだ。チェックイン時刻の15時頃訪れてみると、やはりというか目に入ったのはチェックイン待ちの長い行列だった。このホテルに限らずある種見慣れた光景ではあるが、やはりGoToのゲストが多くを占めている様子だ。

筆者撮影
筆者撮影

規模の大きなホテルはチェックイン手続きひとつとってみても大変だ。客室数や付帯施設も多い高級ホテルともなれば館内の説明等に相応の時間を要す。ビジネスホテルで見かけるような自動チェックイン機とはいかない。さらに外資系ホテルとなればそれなりの難しさもある。会員か非会員かで手続きが異なることや、会員の中にも上級会員など種別があり対応が異なるからだ。

さらにコロナ禍では感染症対策(検温やチェックシートなど)に加えGoToの各種説明も必須で「平均して通常の倍以上の時間がかかってしまっている」と同ホテルのスタッフは平身低頭だ。そんなロビーでは、何とかチェックイン待ちの時間を減らそうと限られたスタッフの中でひとりひとりがその場に応じて様々な役割を横断的に担っていた。

一方で時に混乱も生じていた。何よりスタッフ同士の連携が取れていないように感じた。かれこれ15分以上チェックインを待っている筆者から見ても不効率さや無駄な動きも見え隠れしていて気になる。無駄はさらなる無駄を誘発するが「もっとこうすればいいのに」という思いもあってか待ち時間がより長く感じられた。チェックインで並んでいるゲストは時間を持て余しているだけにスタッフの動きはより目に入るのは当然か。

そんなホテルが気になっていたこともあり、12月に入り再び同ホテルを訪れてみると前回からの変化に驚いた。慣れてきたこともあるのだろうか、それぞれのスタッフがそれぞれに明確な役割を持ってテキパキ仕事をこなしているように感じた。行列は変わらなかったが見ていて動きが“キレイ”なのだ。歩き方もどことなく変わった(少なくとも走るスタッフは見かけなくなった)。

改善へのトライは続く

また、もう少しでチェックイン手続きという筆者の目の前で印象的なシーンがあった。列の先頭から2番目のゲストへ何かの用事で話し始めたスタッフに対し、先に並んでいる女性ゲストから「チェックインはコッチが先じゃないの!」と苦情めいた問いかけがあった。

すかさずスタッフはその女性の元へ駆け寄ると、丁重なお詫び共に女性が珍しい名字?だったらしくスタッフがその話題を女性へ投げかける。「そうなのよ~よく言われる!」と一瞬にしてスタッフと女性の会話は見事に談笑へ変わっていく。機転やアドリブはおもてなし原理主義にとって重要なファクターと改めて感じた瞬間だった。

飛沫防止で設置されているフロントのアクリル板も前回と違い常にピカピカに保たれていたが、そうしたポイントにも目が行き届くのは、まさに“チーム”として現場が機能している証左でありやはり見ていて気持ちが良い。そんな光景を眺めていたら待ち時間も短く感じられた。

同ホテルへ取材を申し込み筆者の印象を話した。関係者から話を聞いてみると、特にGoTo下において「すぐに待ち時間を短縮させることは難しいかもしれないが、待ち時間を短く感じられよう、また少しでもストレス軽減できるよう何かできないか試行錯誤している途上」という。

何度も何度も改善へのトライをしているというが、時間短縮を目指すあまり「お客様と話せる時間が短くなってしまうことで、おもてなしの心やサービスとの間で忸怩たる思いもある」と話す。以上、ひとつのホテルについての前と後的に訪れた定点観測的な筆者の個人的な印象を述べたが、いずれにせよ現場の壮絶な努力を知るに頭が下がる思いであった。

チェックインが集中するTDL周辺ホテル

チェックイン待ちといえば、GoTo&クリスマスシーズンでTDL(東京ディズニーランド)周辺ホテルのチェックインはどのような様子なのか気になり「オリエンタルホテル東京ベイ」(浦安市)を訪れた。同ホテルは、TDLのゲストが多く訪れるということで、子連れファミリーのゲストが目立つホテルだ。他のホテルと同様15時くらいのチェックインに加え閉園後21時頃にもピークを迎えるのが特徴的。

筆者撮影
筆者撮影

そんなホテルでの印象的な光景が、ロビーに面して設置された大きなプロジェクションマッピングだ。前に立つと自分がそこへ入っているかのように映像が動く。もちろん子どもたちは大喜びでチェックインの待ち時間も苦にならない様子だった。またチェックインの受付に際して銀行で見るような押しボタン(受付票発券機)を導入しているのにも驚いた。

さもすればそれなりの高級ホテルにして“事務的な装置”という印象を与えるシステムであるが、あと何番待てばといいのかわかるというのは有り難いし何となく“公平感”も感じる。担当者に話しを聞いたところ「ボタンひとつにもまめな消毒、プロジェクションマッピングも密にならない工夫や管理などに気遣う」と話す。

実はプロジェクションマッピングや押しボタンは、GoToやコロナ対策というよりも、以前からチェックイン待ち対策のため導入されていたものだという。こうした努力を重ねてきたホテルの工夫が、結果としてコロナ→GoToという大きな環境の変化にあって功を奏しているのもまた事実である。このような例のように、以前から注力してきた様々な改善がこのご時世で思わず効果を発揮したという例は非常に多い。

あなたは何分待てますか?

チェックインの待ち時間についていくつかのホテルへ聞いてみた。列ができるような時間帯だとこれまでは平均15分待ちだったところ、コロナ・GoTo下で30分を超えてしまっているというケースが多く聞かれた(中にはGoTo前後にかかわらず60分・90分という例もあった)。

レセプションのスペースを拡大する、レセプショニストを増やす、ルームアサインをフルアサインからズラすなど様々な対応は考えられるが、果たして効率的且つ即効性のある対策はあるのだろうか。「ラッシュやピークを基準にしたスケールをもとに投資し常に対応を続けるのは難しい」と本音を吐露する関係者もいた。

これら問題は確かに待ち時間何分という時間軸の話であり、時間そのものを短縮させることは課題であるが、一方で短く感じられるような工夫に注力するホテルも今回は印象に残った。

若い頃に比べて時間が経つのが早く感じられるというのはよく聞く話だが、ヒトは置かれた場面や気分により感じる時間の長さにも差異があるのだろう。心理的な理由等について筆者は専門外であるが、チェックインの行列というストレスフルな時間を少しでも短く感じて貰えるか、そんなシーンをどう演出するのかもまたホテルの力量と感じた。

ホテルのチェックイン行列、あなたは何分待てますか?

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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