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それって本当にお得なのか? GoToトラベルで“信頼できたホテル”と“懐疑心抱いたホテル”

瀧澤信秋ホテル評論家
基本的に料金変動させないホテルの一例(ホテル グランビュー高崎/筆者撮影)

料金をずっと変動させてこなかったホテルへの信頼感

ホテルへ宿泊することがそもそも仕事=ビジネスという筆者にとって、約半年間のGoToトラベル(以下「GoTo」とする)とはあまり縁の無い日々を過ごしてきた。のちに「ビジネス利用はNG」というルールは新設されたものの、そもそも仕事としてGoToを利用することに違和感を抱いていたからだ。取材仕事でホテルを予約しようとした際、宿泊予約サイトで最後に「GoTo使いますか?」という問いに対してはクリックしなかったことがほとんどだった。

一方、仕事以外のプライベート利用としては、期間中にGoToトラベル経由の予約は計3回あった。利用者目線のホテル評論家としては、GoToの実質的なお得感の体験はやはり気になるところだ。少々長くなってしまい恐縮であるが例示したい。

1回目は、家族の誕生日の際に利用。以前からよく訪れていたホテルのダイニングレストランのディナー付き宿泊プランをGoTo利用した。平日や休前日などの料金設定を定点観測的にチェックをしていたプランだったので、GoTo適用前と後の料金差も気になっていた。結果(ホテル側の真意はわからないが)GoTo後は2割ほど高い設定になっていて、差し引きで少しお得だなぁというくらいの印象だった。一方、“地域共通クーポン”がホテル内でも使用できたこともあり、普段なら躊躇してグラスオーダー止まりのワインをエイヤッ!とボトルで注文、特別な日の特別感にクーポンを充当することができた。やはりGoTo有り難きかなぁと思った。

2回目は、関西へのプライベート旅で旅行会社の新幹線&ホテルパッケージプランをGoTo利用した。ホテルのインルームダイニング付きというのもありがたかった。新幹線や飛行機も含めて割り引かれるのはパッケージならではで相当安い印象だった。GoTo関係なくてもそもそも旅行会社のパッケージは安い。様々な制約はあるものの(予約可能日やキャンセル規定など)正規で新幹線やホテルをそれぞれ予約するのと比べ30~40パーセント安いケースも珍しくない。さらに今回はGoToで35パーセント引きとあって、新幹線の通常料金やGoTo前からチェックしていた予約ホテルの通常料金が明確に計算できたこともあり、トータルで(クーポンも加えれば)正規料金の67パーセント引きと判明、かなりインパクトがあった。

3回目は、親族の用事でビジネスホテルを利用した。そのビジネスホテルはお気に入りで通算30回以上は訪れており、調べなくても料金がわかるくらいのホテルだった。「うん、確かに35パーセント安くなっていた」と確証を持って言えるのは“このホテルならでは”だと思った。というのも、一般的にホテルの料金は繁閑等で変動するのが常識であるが(ダイナミックプライシング)、このホテルは開業以来基本的に料金変動させないことをポリシーとしてきたホテルだからだ。たとえば、ずっと1万円の設定だったホテルがGoToで6500円になったというのはとてもわかりやすく、GoToの有り難さを実感できると共にホテルへの信頼感も増した。

写真:アフロ

時に懐疑心を抱くことも-あれ?高いなぁという違和感

今回筆者がGoToを利用した上記3つのケースは、ホテルでいえば定点観測的に料金チェックしてきた施設であり、新幹線であれば(安く利用する細かな方法はあるものの)基本的に正規料金は定額に決まっているので、GoTo利用後のお得感比較は容易だった。

筆者はコストパフォーマンスを重視する評論がスタンスということもあり、変動するホテルの料金には人一倍敏感だ。仕事柄各地にリピートするホテルがあり、過去の経験から閑散期には○○円・繁忙期には××円と料金設定を固定して認識している施設・客室がいくつかあるが、先述した料金変動させないホテルと並び、言い換えるとその認識はホテルへの信頼感でもある。

GoToで気になったケースとしては、都内の某ホテルのある客室へはこれまで30回以上はリピートしてきたが、超繁忙期を除いて高くても1万円の設定で安い時で8~9000円と1万円を超えることはなかった。それがGoTo下で平日毎日1万4000円の設定になっているのを見た時は???となったものだ。また、格安がウリの多店舗展開チェーンは1泊2食1万円でお釣りが来ることで知られ、以前はそうしたコマーシャルを流していた記憶がある。ここも1万4~5千円ほどの設定になっていた。

いずれも初めて利用する人はお得と感じて予約するのだろうが、いつも知っているゲストからすると(皮肉も込めて)見事としかいいようがないと思うことだろう。他にも同様の例はいくつかあった。

写真:show999/イメージマート

事業者救済のキャンペーンゆえそれも当然か

多くのホテル料金でみられるダイナミックプライシングという手法からいえば、基本的には予約が増えるとホテルの料金は上がる。GoToによる予約増により結果として料金が上昇し単に高くなっただけなのか、当初からGoToありきで便乗的に高く設定したのかはそれぞれであろうが、いずれにしても上記で例示したホテルでは、GoToキャンペーンのタイミングと合致して結果としてこれまで見ないような4割増しの設定がされていたのは事実である。

夏前に各地で見られたGoToキャンペーン前の各自治体による旅行喚起キャンペーンについて、かようなキャンペーンがあくまでも事業者救済を目的としたものであり何ら消費者の利益を約束したものではないという前提を確認した上で、便乗的値上げの実態についても記事を執筆したが、至極個人的には相も変わらず懐疑的な思いは続く。

GoToは高額の宿に恩恵を与えたといわれている。一定の割引率という制度設計においても、制限内であれば料金が高いほど実質的な利得が高いことは事実であるし、予約が増加する傾向も理解出来る。GoTo下において“憧れの宿”“35パーセント”というキャッチーなワードが刺さる中、これまでならとても手が出ないような宿泊施設を利用する絶好のチャンスと旅行気分も当然に盛り上がる。

一方、そもそもその料金設定はどのような根拠でなされているのか、果たしてコロナ禍というご時世でGoToがなかったら(閑散としていたら)どのくらいの料金設定だったのかまでは容易に確認出来ないしなかなか思いも及ばないだろう。特に高額な宿は“そもそも高額”という先入観もあるだろうから、35パーセント割り引かれる前の“とても高い料金設定”が消費者にはある種の憧れの象徴のようにも映る。

時に朝三暮四というワードも頭をよぎる

ダイナミックプライシングという名の下でのホテル料金設定手法は、一般消費者が理解するのには大変複雑であるが、果たしてGoToで設定されている料金は何を意味しているのか・・・時に朝三暮四というワードも頭をよぎるのは筆者だけであろうか。せっかくのキャンペーンに水を差すような無粋なことを書いてきたが、無論消費者心理にとっては現に割引を受けたことの事実とお得感は肝要であるし、こうしたキャンペーンでお得感をゲットするテクニック的な楽しみを感じる方もいるだろう。

もちろんGoToにより、過去に類を見ないような料金で予約出来るホテルや旅館も多くあることは言わずもがな。事実、筆者も冒頭で紹介したようにお得感が充足できる機会も多かった。そもそもGoToがなければ旅行ムードが盛り上っていなかっただろうことは推測に難くない。

他方、感染拡大の報道が拡散、年末年始のキャンペーンが全国的に中止となりキャンセルも続出している。事業者救済を目的として盛り上がってきたキャンペーンも暖簾に腕押しのような状態になっているのが現状だ。GoToにより感染拡大したという主張GoToと感染拡大は関係ないという主張がSNS等で拮抗しているのも実情としてある。

年明けにはまた再開される予定となっており(これもまたどうなることやら)、消費者にとってはクールダウンの機会ともとれる年末年始のGoTo中止であるが、GoTo下のホテル選びに際し個々人の実質的な利得という視座から、

  • 大変お得に利用できる宿
  • 実はそれほどでもない宿
  • GoToゆえに高くなっている宿 

という視点と共に

  • 絶対いまGoTo利用すべき宿 
  • 実はGoTo後でも変わらなそうな宿
  • GoToを利用しない方がよさそうな宿

というそれぞれの見地について(実際の見極めは難しい点もあるが)今後のトラベルへのGoToを検討する際に、ほんの少しだけでも思い描いていただければ幸いである。

延長も含め、もはやGoToが東京オリンピックの予行練習?という側面は否めなくもないが、GoTo活況はコロナ禍におけるペントアップ・デマンドの先取り的な動きでもある。延期によりうまくオリンピックに繋がればという期待感の一方その反動が業界では危惧されている。すなわちGoTo終了後に反動で低稼働に陥ることへの恐れた。

そうした点でも、GoToありきの宿泊施設探しと共に、お得に出向けるタイミングや考えも含め多様に分散されていくような“年末年始クールダウン”になるのか、引き続き注視していきたい。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

ホテル評論家の辛口取材裏現場

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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