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テレビのワイドショーで煽り煽られ疲弊したGoToホテル現場の悲鳴

瀧澤信秋ホテル評論家
メディア露出は細心の注意を要する(筆者のコメント収録の様子/スタッフ撮影)

異常な盛り上がりをみせたワイドショーのGoToトラベルネタ

GoTo?そんなの関係ねぇという者からも(そうでない者からも)「ふざけるな!」という声が続出しているGoToトラベル(以下「GoTo」とする)関連のニュースであるが、相も変わらず巷間を賑わしている。一方、GoToでお得に旅をした旅行者は多く「助かった、命拾いした」という事業者のリアルな声が強いのも事実であることは言わずもがな。他方、筆者はメディアウォッチを仕事にする者ではないものの、宿とメディアを繋ぐことが仕事の主たるものであるが、今回はそうした視点から筆者が目の当たりにしたGoToならではの特殊性をあらわすケースとして、“メディアとGoToホテルのトラブル”にフォーカスしたい。  

GoToの施策が政府より発表された4月を思い出してみると、感染収束のフェーズでスタートさせることを国民へ約したキャンペーンだったと記憶している。その後、様々なデータやエビデンスなど示される中でGoToと感染の関連性について、経済を回すことの重要性や関連性はないという声が強い一方、当初の約束はどこ吹く風、そもそも人の移動を促すのは問題などというような意見もあり世論は拮抗している。いずれにしても、改変・ドタバタ続きのキャンペーンであったことは誰もが感じているところだろう。世の状況に応じて何かがコロコロ変わることは世にゴロゴロあるわけだが、国民に身近な施策としてこれほど“朝令暮改”という言葉が似合う事業者&利用者が翻弄されたキャンペーンも他に思い浮かばない。

コロっと変わったといえばメディアも同様。テレビでいえば10月中旬~下旬あたりまで大々的に“GoToトラベルはこんなにお得!”と煽り煽ったワイドショーも一転、第三波といわれる状況が指摘される中で、ポジティブ報道からすっかりネガティブ報道へ切り替わっている。市民にとって身近な話題だけに、GoToゴリ推しの情報拡散をしてきた同一番組の変わり身に違和感(不信感)を覚えるという視聴者の声も多い。速報性という点からテレビ番組にはもちろんそういう側面があるし、断続的・集中的に取り上げることもまた情報発信の一面であることはここで言うまでもない。

とはいえ、何ごとにもほどほど(度を超えない程度)というものがある。

写真:hiroyuki_nakai/イメージマート

責任を持った対応ができないGoToネタの異常性

振り返ってみても煽りつつも時にブレーキをかけていた番組はあっただろうか?サッとは思い浮かばない。ブレーキ以前に朝令暮改・改変続きのGoToにあって情報は錯綜、時に間違った情報が平然と伝えられているメディアも散見された。何ごともアクセルを踏み続けていると事態が急変した時の説得力が欠けることになる。こんなことを書いているうちに、また状況が変わっていく可能性があるのもGoToであり、急遽前倒しされた7月のスタートに始まり次々その姿を変幻させてきたGoToというある種“妖怪”の掴み所の無さでもある。

ところで、筆者は利用者目線のホテル評論家という立場だが、ニューストピックを取材して直ちに報じるというよりも、起こったことを事後的に評価するという性格が評論には強くある。そのようなスタンスゆえ、政治的な要素も強く含まれているGoToトラベルについては、ホテルジャーナルとして正確な批評が困難であると当初から判断、責任持った発言ができないことからGoTo関連のテレビ等からのオファーは7月末以降固辞してきた。

そのきっかけとなったのはある週刊誌の仕事だった。7月に入り某誌でGo To トラベルの利用法についての取材オファーがあり、ある程度の概要は発表されていたことからそれら情報をもとに推測できる内容で対応をした。編集者から原稿の最終確認があり返信・校了したが、その翌日に突然前倒しの記者発表があった。いまとなれば急転直下の事態も容易に想定出来るが、当時推測には遠く及ばず何とまさかのスタート前倒し。内容もいくつか変更された。週刊誌はそのまま発売、結果として間違った解説を世に流してしまったが、場当たり的な変更はまだまだ続く可能性をひしひしと感じた。

直ちに修正出来るウェブ媒体ならまだしも(それでも拡散されてしまうが)、企画・取材から発売まで時差のある紙媒体にとってコロコロ変わるGoToは特に厳しいものがあっただろう。無論、GoTo下においても、ウェブをはじめテレビや雑誌でもおすすめホテルといったアプローチのガイド的企画には筆者も多数協力してきたが、マイクロツーリズムという観点も鑑み地方局の企画を中心に、GoToありきのお得感イチオシや裏技を紹介するようなアプローチではなく、ホテルガイドありきといった企画の中で、慎重を期すべく最後に“GoToを利用すればお得になることもある”というスタイルで番組や誌面構成を条件に請けた。

同時に、非常識なプランの創出や事業者救済のキャンペーンという性格の中で、消費者としては何が本当にお得なのかを見極めつつ、サービスとは有償であり宿とゲストが共創していくものであるという問いも続けてきた。筆者の言い訳がましい話が続き恐縮であるが、メディアによるGoTo煽りの実害は意外にも事業者であるホテルへも及んだ。通常テレビで紹介されることについてはホテルから大きく歓迎される。ホテルの情報拡散によって周知性が高められ、ゲストが増えることに繋がればという期待は当然だ。テレビのGoToネタが機会で予約殺到という嬉しい悲鳴の宿も枚挙に暇が無い※。しかし、時にそれが度を超えた場合や、拡散された情報と事実のミスマッチがあれば損害へ直結するのがまた怖いところだ。

何ごとにもいい按配というものがあるということだ。

※経営・マネージメント層と現場スタッフそれぞれのGoToに対する思いや気持ちの乖離については別稿にて取り上げる予定

写真:アフロ

朝のワイドショーに煽られたGoToホテルの実害

GoTo下のポジティブなテレビ報道で実害の生じたいくつかの具体的ケースがある。ホテル名が推測出来るような内容の詳述は避けるが、複数のキャンペーンを組み合わせ、さらにホテル内(レストラン等)で使える高額クーポン等の利用により実質タダどころか、さらに利得を得られる仕組みのプランを出したホテルがあった。このプランがテレビの全国放送で紹介されたこともあり予約殺到、ホテル内で使えるはずのクーポンがレストランも満席で使えないという事態に陥った。そもそもGoToでは、換金性の高い金券類やポイントが付くプランは支援の対象外としていた。

このトラブルは行政でも問題視され、こうした高額クレジット付きのプランはGoToキャンペーンの支援対象外とされるに至った。ホテル側にどこまでの認識があったのかという点を邪推すれば、対応が出来ない程の予約流入は想定していなかっただろうから(予測しつつ販売していたとしたら救いようがない)、ある程度話題になってくれればという思いがあったのかもしれない。全国放送のパワーを良い意味でも悪い意味でも身をもって体験した出来事だったのだろう。

次もGoTo下でメディアに翻弄されたホテルの話であるが、こちらは摺り合わせ不足にミスマッチというケース。筆者はホテルへのアドバイザリーとして様々な相談を受ける機会も多いが、GoToとメディアにかかわる相談事のひとつが某都内のホテルからあった。バックオフィスではまだ準備の整っていないお得感の高いプランが朝のワイドショーで放映され問い合わせが殺到、準備ができていないこともあり情報案内を停止したことから苦情も殺到、口コミの低評価へ繋がったという話だ。

ディレクターからは、ホテルを紹介したいとは連絡があったものの、細かいプランまでのことまで放送される話はなかったという嘆きの声であった。ホテルとメディアという点でいえば、ホテル評論家という仕事上長きにわたり数多くの多様なメディアそして宿泊施設との繋がりをもってきた。イメージを重視する業態だけにメディア露出は実に難しい部分がある。時間の無い中でもメディア露出の際の摺り合わせはどこまでも慎重でなければならない。勢いで紹介して怪我をするのを数多くの番組や現場でみてきたが、改変続きのGoToとあってはより深刻だったろうことは想像に難くない。メディアとホテルについて深く考えさせられたGoTo、そして2020年後半であった。

*   *   *

いい加減という言葉あるが、いい加減なキャンペーンにとってメディアにとってもゲストにとっても肝要なのは良い加減というバランス感だ。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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