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マスクしない客を注意しろ!ブッフェが定食へ→料金変わらず「高くね?」ホテル朝食の壮絶現場と工夫

瀧澤信秋ホテル評論家
某ビジネスホテルのブッフェ時と変わらない1300円の“定食”(筆者撮影)

好きなものを思う存分

ブッフェの魅力は好きなものを思う存分ピックアップできることといえる。お代わり自由とも換言できるが(“食べ放題”という表現もあるがホテル側は嫌がることがある)、一方でマナーの悪さが指摘されることも。取るだけ取って大量に残すのはマナー違反であるし、最近ではインスタ映えなどといって盛るだけ盛って写真を撮ったら残すという不届き者も。

話を戻して、ブッフェは食べる量にかかわらず料金は一定だ。食べる方からすると気ままに好きなメニューを何度も食べられるというお得感は魅力。ホテルからしても人手もそれほど必要なく効率的な提供ができことから、ある種の相互利益的な部分もありホテルでブッフェが広まった理由がよくわかる。 

 

コロナ禍でブッフェから定食へ

朝からつい欲張って盛ってしまうブッフェ(筆者撮影)
朝からつい欲張って盛ってしまうブッフェ(筆者撮影)

そんなホテルブッフェであるが、多くの人にとって馴染み深いのが朝食ブッフェだろう。慌ただしい朝でもゆったりした朝でも、自分のペースでピックアップできるのも魅力だ。高級ホテルからビジネスホテルまでブッフェ形式の朝食はスタンダードになっていたが、コロナショックがホテルに様々な変化をもたらす中で朝食の提供方式も変化している。

ゲスト各々がピックアップする形態は問題があるということで、定食形式に変更するホテルが相次いだのだ。定食とはいえご飯や汁椀はお代わりできるケースが多い中で、定食だけにおかず類は1回だけの提供というケースが多い。

一方で、料金はブッフェ時と同じというホテルも多く、おかずを何回もお代わりできるブッフェ形式ならお得感もあるが、おかず1回ポッキリで「ブッフェと同じ料金とはなんとなく納得いかない」というゲストの声も何度か耳にした。まぁ気持ちはわからなくもない。

あの客マスクしてないぞ!注意しろ!!

コロナ禍のホテル朝食トラブルといえば、先日とあるビジネスホテルでマスクをしないで来場したゲストをスタッフが見過ごしていたところ、他のゲストがスタッフへ向けて「何で注意しないんだ!」と怒鳴っているシーンを目撃した。朝から何だか重い気分なったが、いずれにせよこれまでのホテルブッフェ朝食という常識が通用しない現場だけに、ホテル側の苦労は耐えない。

ブッフェと定食、ホテル側としては実際にかかるコストはどうなのだろう。違いはあるのだろうか。そもそもビジネスホテルの朝食に関して言えば専門の業者へ委託しているホテルは多く、その場合ホテル側は委託料ほかを負担、一定の単価で食数保証の内約があるケースも。いずれにせよコロナ禍でホテル側には様々な負担が増えている。

これについて某ホテルの担当者は「定食の方がコストや手間がかかるのは承知しているが、これ以上稼働が悪化すれば委託料の交渉もしなくてはならない」と話す。受託業者側としては、食器への盛り付けや各ゲストへ運ぶ手間もかかるだろうし、こちらもこれまでの常識が通用しない事態となっているようだ。 

 

少しずつ盛られた料理に美味しさを感じる

ホテルフォルツァ金沢で提供された定食朝食(筆者撮影)
ホテルフォルツァ金沢で提供された定食朝食(筆者撮影)

個人的な話で恐縮であるが、今回のブッフェ→定食の変更については、食事を見直すきっかけにもなった。若い頃だったらブッフェで何回もお代わりしていたが、年齢的な部分もありそれほど多く食べられなくなっている前提はあるにせよ、それ以上に少しずつ盛られて提供されると料理が美味しく感じるシーンがあった。

自分で盛り付けるとつい雑になりがちだが・・・(筆者撮影)
自分で盛り付けるとつい雑になりがちだが・・・(筆者撮影)

ホテルフォルツァ金沢(金沢市)での朝食時のこと。何度か出向いているホテルでブッフェ朝食も体験済みだった。このホテルでも定食へ変更されていたが※、よくよく見るとブッフェ時に提供されていた記憶にある料理。それらが小皿や小鉢へ綺麗に盛り付けられていた。もちろんブッフェ時でも美味しいという印象だったが、少しずつ小皿や小鉢へ丁寧に盛られた料理が格別に美味しく感じた。

ホテルフォルツァ金沢の朝食が提供されるラウンジ(筆者撮影)
ホテルフォルツァ金沢の朝食が提供されるラウンジ(筆者撮影)

自分で盛り付けたらお皿にたっぷりと欲張って盛ってしまうだろうし、見た目も含めてこうはいかない。何より料理の味そのものが変わって感じるだろう。「ご自由にどうぞ」よりも「あなたのために」と整えられた光景には何となくヒューマンを感じる。ブッフェが復活して自分で盛り付けるようになったとしても、欲張らずキレイに盛り付けることを心がけようと思った。

ホテルホテルツァは各店共に朝食に定評があるビジネスホテルブランドだ。朝食へのプライドを感じると共に、コロナ禍の定食とはいえどこまで美味しく提供ができるのかを試行錯誤する現場の姿を想像する。

※現在ではメニュー数を限定した詰め合わせ弁当を提供し客室で食べるスタイルに変更

 

ブッフェ再開!?

レフ熊本 by ベッセルホテルズの朝食ブッフェ(筆者撮影)
レフ熊本 by ベッセルホテルズの朝食ブッフェ(筆者撮影)

コロナ禍で各ホテル様々な対応をする中で、特色あるスタイルも登場している。最近、ホテル評論家として注目しているホテルチェーンのひとつがベッセルホテルズ。様々なスタイルのホテルを運営しているが、ビジネスホテルでも朝食のクオリティはかなり高い。朝食についてはグループ27ホテルのうち1店舗を除いて全て直営だ。

自分で作るハンバーガー(筆者撮影)
自分で作るハンバーガー(筆者撮影)

たとえば最近開業したレフ熊本 by ベッセルホテルズ(熊本市)では、熊本県産あか牛を用いたハンバーグを自らプレートで加熱、好みの具を入れて作るハンバーガーなど地産食材を用いた印象的なものだった。なんと朝から焼酎までフリーフローとは・・・

さすがに朝から焼酎は・・・でもホテルの心意気を感じる(筆者撮影)
さすがに朝から焼酎は・・・でもホテルの心意気を感じる(筆者撮影)

さらに印象的だったのがブッフェボード。特に宿泊特化型のホテルでは(に限らず)、限られたスペースの朝食会場にしてブッフェボードのサイズも限られた寸法であることも多く、手に持ったトレイを一時的に置くようなスペースがないケースも散見する。こちらでは、開業にあたり相当な試行錯誤がなされブッフェボード全体にわたりトレイを置くスペースが確保されたという。

久々に見た朝食ブッフェ!? ベッセルイン栄駅前(筆者撮影)
久々に見た朝食ブッフェ!? ベッセルイン栄駅前(筆者撮影)

もちろん、レフ熊本 by ベッセルホテルズも含め全施設で現在は以前のようなブッフェによる提供方法ではないが、先日宿泊したベッセルイン栄駅前(名古屋市)の朝食時のこと、なんとブッフェボードに料理が並んでいるではないか。朝食ブッフェが復活したのか?それにしても大丈夫なのか?と心配になってよくよく見ると、小皿や鉢に盛られた料理に全てラップをかけて並べられているのだ。

ピックアップ時はマスクとビニール手袋の着用(筆者撮影)
ピックアップ時はマスクとビニール手袋の着用(筆者撮影)

ある意味でブッフェだが、手指消毒は当然としてもピックアップ時用のビニール手袋が配布されていた。久々にブッフェの雰囲気を楽しめたが、お代わり自由というブッフェの特色を生かしつつも、コロナ禍への対応について何でも工夫だなぁと感心した。

直営ということでブッフェと定食のゲストひとりあたり原価を聞いてみたが、ホテルによると「それほど変わらない」とのこと。ただし稼働率8~9割の時のブッフェと1~2割の時の定食を比較した数字なので、稼働率が低い時にブッフェにすると廃棄するロスは多くなり、当然一人あたりの原価は相当上がるという。

一方、定食の手間とコストもかなり大変であり、スタッフに相当の負担をかけているというが、仮に稼働率が高いときに定食提供となれば、待たせる時間やスタッフの増員など運営側の負担もかなり重くなるといい、朝食提供ひとつとってもコロナ禍のホテル運営における苦労は絶えない。

*  *  *

1日も早く気兼ねなくブッフェを楽しめる日が戻ってくることを願いつつ、このような時だからこそホテルの実力があらわれるのかもしれないと改めて思った。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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