クレーム=苦情じゃない? その言葉、合っていますか

苦情の処理にはとても神経を使う(アフロ)(写真:アフロ)

ホテルにまつわる話題として時々関係者と話題になるのがゲストからの苦情だ。前回の記事(テレビ盗難!? 100万円踏み倒しにモンスター客・・・ホテルトラブルあれこれ)では実際のトラブルを紹介したが、サービス業の最たるものといわれるホテルだけに苦情も多種多様。

かようにホテルとゲストのトラブルは注目されるようで、筆者へ度々あるオファーが「ホテルのクレームについて取り上げたい」というテレビや雑誌の企画だ。いわゆるモンスター客からの不平・不満のあれこれを「クレーム特集」として紹介したいという。

不平や不満というならば「それは正確にはクレームではないのでは?」と返答すると担当者は???となるのだが、確かにクレームとは不平、不満や苦情を指すのが一般的な理解かもしれない。

ただ、英語本来の「クレーム(claim)」とは主張や権利行使(法に抵触するケース)のことを指し、不平、不満や感情的な苦情は「コンプレイン(complain)」といわれ、ホテル業界ではコンプレと略称されている。

かくいう筆者もこの仕事をはじめる前は、クレーム=不平や不満、苦情の表現行為という理解をしていた。ホテル評論家となり業界関係者と会話する機会が増え「コンプレ」というワードを頻繁に耳にするようになり知ったことである。ホテル業界ではクレームとコンプレは使い分けられているようだ。

話は逸れるがホテルでは特別な賓客等に対し、敬意を表する意味で宿泊や飲食などの料金を全額無料にすることがある。これを「コンプリメンタリー(Complimentary)」といい“コンプ”と略称されることがある。コンプレとコンプ、似て非なる略称である。

話を戻して整理してみると、クレーム(claim)=法的に被った損害の主張・直接的な損害を被った場合の請求、コンプレ(complain)=感情的な不平や不満の苦情、といったところだろうか。すなわちクレームには法律的な根拠があり要求(請求)する内容も法的なもの、コンプレは単なる苦情や不平、不満が本来の意味と解することができる。

他方、日本ではクレームというワードについて、英語の意味としてではなくクレーマーなどというように不平や不満、苦情の表現行為を指す和製英語として派生、認知されてきた側面がありそうした理解が一般化しているようだ。claimではなく日本語としてのクレームが独立した意味を持つようになった。

“言葉の意味も時代と共に変わる”などといわれる一方、言葉の乱れを憂慮する声もあるが、本来の意味と異なる理解がされている言葉は枚挙に暇がない。誤用とされる代表例としてホテルやサービスを執筆フィールドにする筆者の場合こだわり敷居が高い等のワードも難しいと感じることが間々ある。

たとえば“こだわり”は、本来「気にしなくてもいいことを気にする」「細かいことにとらわれる」という否定的な意味であるが、良い意味で用いられるワードとして定着しつつある感が。代替表現としては“ポリシー”や“信念”といったものであろうか。筆者も代替表現に悩むことがある。

クレームもこだわりも、共に本来の意味ではない用い方の方が解説や説明の際、相手の理解に資するケースもあるのは事実。いずれにせよ、基本や由来を理解しつつもシーンに応じたフレキシブルかつ謙虚な姿勢が求められるのは、多様な情報が溢れるいまの時代を生きるテーマかもしれない。ホテルとゲストの関係においてもさもありなんである。