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「お前は勘当だ!」~法的にダメ息子の縁を切ることはできるのか

竹内豊行政書士
ダメ息子との親子の縁はどうしたら切ることができるのでしょうか。(提供:イメージマート)

子どものせいで謝罪・賠償・借金返済の繰り返し

山下昭一さん(仮名・78歳)の長男・太郎さん(仮名・32歳)は、中学に入学してから不良仲間と連日夜遊びをするようになり警察に度々補導されていました。せっかく入学した高校もほとんど通うことなく退学してしまいました。

成人になっても仕事は長続きせず、挙句の果てに飲酒運転で歩行者に大けがを負わせてしまい、莫大な損害賠償を昭一さんに肩代わりさせました。

昭一さんは、「さすがにこれで改心するだろう」と期待をしましたが、今度は知人から借金して踏み倒し、またまた昭一さんが尻ぬぐいすることになってしまいました。このように昭一さんは、太郎さんのせいで謝罪・賠償・借金の返済などをし続けてきたのです。

堪忍袋の緒が切れる

先日のお盆休みに、太郎さんがひょっこり実家に戻ってきて、「オヤジ、今度こそ真面目にやり直すよ。実は、ダチと新規ビジネスをすることになったんだ。だから、開業資金に1千万円貸してくれよ」と言ってきました。

昭一さんは、さすがに堪忍袋の緒が切れて「お前に今までいくら金を注ぎ込んできたと思っているんだ!お前とは親子の縁を切る。勘当だ!」と怒鳴ったところ、太郎さんは逆切れして「親が子どもに金を出すのは当たりまえだろう!」と言い放って昭一さんを殴り家を出て行ってしまいました。

昭一さんは、唇から出ている血をぬぐいながら「もうアイツとは親子の縁をきる。勘当だ!」と叫んだのでした。

「勘当」とは、一般に、親子の縁を切るということを意味します。そこで、今回は、「勘当」を法的観点から見てみたいと思います。

2つの親子関係

親子関係の始まりは、一般的に子の出生による血縁に基づく実子と人為的に親子関係をつくる養子縁組の2つがあります。

養子縁組を解消する場合、養親と養子の両者の合意によって解消することができます(民法811条1項)。

民法811条1項

縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。

一方、血縁関係の親子の縁を切る、いわゆる「勘当」は法制度としては存在しません。ただし、相続資格を剥奪する廃除という制度はあります。そこで、廃除について見てみることにしましょう。

相続人の「廃除」とは

廃除とは、被相続人(相続される立場の人)からみて自己の財産を相続させるのが妥当でないと思われるような非行や被相続人に対する虐待・侮辱などがある場合に、被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格を剝奪する制度です。

民法892条(推定相続人の廃除)

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

廃除は相続権の剥奪という重大な効果が発生するため、被相続人の思いつきで行われることを防ぐ必要があります。そこで、民法は廃除を行うことができる条件として、被相続人に対する虐待もしくは重大な侮辱または、その他著しい非行がある場合に、被相続人から家庭裁判所に廃除の請求をすることができるとしました。また、遺言によっても廃除の意思を表示することができます(民法893条)。

そして、家庭裁判所に廃除請求が認められれば、その相続人は廃除されることにより相続権が剥奪されることになります。

民法893条(遺言による推定相続人の廃除)

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

このように、実の親子の縁を切るという「勘当」は、法的には存在しませんが、間接的に廃除によって相続の場面で「勘当」に相当する意思を実現する道があります。

子どもから虐待を受けている、侮辱をされている、または子どもの著しい非行に悩まされているといったことで、相続権を剥奪したい場合は、廃除という手段があることを覚えておくとよいかもしれません。

※この記事は、民法と判例を基に作成したフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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