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長男と次男が「お墓問題」でバトル~知っておきたいお墓の引き継ぎ「特別」ルート

竹内豊行政書士
お墓の引き継ぎでもめてしまうことがあります。(写真:イメージマート)

お墓をだれが引き継ぐかでもめてしまうことがあります。そこで、今回は鈴木家のお墓問題を基に、法律の観点からお墓の引き継ぎとその方法についてお伝えしたいと思います。

鈴木家のお墓事情~次男に「お墓を任せる」と伝えた

鈴木昭一さん(仮名・85歳)は、3代続くお墓を守っています。昭一さんには2人の息子がいます。そして、自分が亡くなった後は、次男の二郎さん(仮名・55歳)に引き継がせるつもりでいます。その理由は、二郎さんは高校を卒業してから地元の会社に就職して近所に住んでいるし、休日は夫婦で買い物を代わりにしてくれるなど、何かと昭一さん夫婦に気をかけてくれているからです。一方、長男の一郎さん(仮名・58歳)は、東京の大学を卒業後、銀行に就職して転勤族となり地元に戻るとは思えなかったからです。

先日、「お墓のことだけど、二郎に引き継いでもらいたいのだけど、引き受けてくれるか?」と尋ねたところ「俺でよければいいよ」と快諾してくれました。

長男が突然「俺が継ぐ!」と言い出した

しかし、今年のお盆休みに3年ぶりに一郎さんが帰省すると、突然「実は、早期退職することに決めたんだ。俺も年かな、故郷が妙に懐かしくなってさ。来年の春にはこっちに帰るから。それから、お墓のことだけど、長男の俺が引き継ぐのが当然だよね」と言い出したのです。昭一さんは「実は、二郎に引き継ぐことを決めたんだよ」と告げると「お墓は長男が引き継ぐのが筋だろう!」と言って聞く耳を持ちません。

お墓の引き継ぎが悩みの種に

昭一さんは「二郎には言ってしまったし、一郎の言い分もわからなくもないし・・・・」と悩んでしまいました。そして、結論を出さないまま1年後に急逝してしまいました。

昭一さんの死後、一郎さんは「長男が引き継ぐのが当然だ!」と言い、一方の二郎さんは「親父は俺に継がせると言ったんだ!」と真っ向対立。もともと兄弟仲が良くなかった二人は、お墓の引き継ぎが引き金となり一層険悪な関係に陥ってしまいました。

お墓は相続財産ではない

民法は、被相続人(亡くなった人)の財産について、次のように定めています。

民法896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

このように、原則として被相続人の財産は相続人が承継するものと定めています。

しかし、民法は、家系図、祭具(位牌、仏壇仏具、神棚、十字架など)、お墓などの祭祀をつかさどる財産(「祭祀財産」といいます)は、次のように相続財産とは「別ルート」で引き継がせるように定めています。

民法897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(筆者注:896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

このように、祭祀財産は、「祭祀を主宰すべき者」(「祭祀主宰者」といいます)が引き継ぐとしています。そして、祭祀主宰者は、第1に被相続人の指定により、第2に指定がないときはその地方の慣習により、第3に指定もなく慣習も明らかでないときは家庭裁判所の審判(判決)による指定により定まるとしています。

なお、指定方法は特段決められていません。生前に昭一さんがしたように口頭でもできます。したがって、民法によれば二郎さんが祭祀主宰者としてお墓を引き継ぐことになります。しかし、口頭では証拠が低いと言わざるを得ません。昭一さんは二郎さんにお墓を引き継がせる内容の文書を作成して二郎さんに手渡しておくべきでした。

「遺言」にお墓の引き継ぎを残しておく

前述のとおり、民法は祭祀主宰者の指定方法を規定していません。したがって、遺言でも祭祀主宰者の指定を当然することができます。遺言で祭祀主宰者を指定する場合は、次のように記載するとよいでしょう。

第〇条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、次の者を指定する。

住   所

職   業

氏   名

生年月日

遺言にこのように記載しておけば、お墓をはじめとする祭祀財産を指定した人に引き継がせることができます。お墓をお持ちの方は遺言を残すときに「お墓の引き継ぎ」もお忘れなく!

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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