Yahoo!ニュース

市川猿之助さんの部屋で発見された文書が「遺言」から「遺書」に変わった理由

竹内豊行政書士
猿之助さんの部屋で発見された文書が「遺言」から「遺書」へ変わって報道されました(提供:イメージマート)

昨日18日、歌舞伎俳優・市川猿之助(47)さんが、ご両親と東京・目黒区の自宅で倒れているのが見つかり、母親の死亡が確認され、その後、意識不明の重体だった父親の死亡も確認されたというショッキングなニュースが飛び込んできました。

そのニュースの中で、猿之助さんの部屋から見つかった文書を、「遺言」または「遺書」と報道していました。

たとえば、18日午後1時の発信では、「遺言」と称して報道しています。

歌舞伎俳優・市川猿之助(47)が18日、両親と東京・目黒区の自宅で倒れているのが見つかり、母親の死亡が確認されたが、その後、意識不明の重体だった父親の死亡も確認された。また、自宅の地下から遺言のような内容が書かれた手紙が見つかったという。

引用:テレ朝news『《続報》猿之助、自宅の地下から遺言のような手紙が…』[2023/05/18 13:54]

そして、この記事の発信から約9時間後では「遺言」から「遺書」に変わって報道されています。

猿之助さんの部屋からは、スケッチ用のキャンバスに書かれた2〜3行の遺書のようなものが見つかっています。警視庁は、現場の状況などから、猿之助さんが自殺を図ったとみて、回復を待って詳しい事情を聴く方針です。

引用:テレ朝news『遺書のようなもの見つかる…市川猿之助“意識もうろう”搬送 両親は死亡も外傷なし』[2023/05/18 23:30]

そこで、猿之助さんの報道から「遺言」と「遺書」の違いについて考えてみたいと思います。

「遺言」とは

遺言は、人の最終の意思表示について、その者の死後に効力を生じさせる制度です。

遺言を残すには、遺言を残す人(遺言者)が、残した遺言の内容を理解できる判断能力(遺言能力)を有していることが前提条件になります。そして、遺言できる事項(遺言事項)は法律で定められています。また、死後の紛争を予防するために遺言の成立要件は厳格に決められています。すなわち、遺言には一定の方式が課せられ(遺言の方式)、それによって遺言者の最終意思を確認することが可能になるのです。なお、一度残した遺言を破棄したり、作成し直したりすることも自由に撤回できます(遺言の撤回)。

このように遺言は「自分の意思を未来(自分の死後)に託すための法定文書」といえます。

「遺書」とは

いろいろな定義ができると思いますが、報道で「遺書」が使用された数々の記事を見てみると、一般に、「自らの命を絶つことを前提に、自死を選択した理由または死後に特定または不特定の者に伝えておきたいことを書き記した文書」と定義できると思います。当然、法律で遺書についての規定は存在しませんし、民法のどこにも「遺書」という言葉は記されていません。

なぜ「遺言」から「遺書」に変えたのか

ご紹介したように、猿之助さんの衝撃的なニュースの初期では、状況がハッキリしなかったため、猿之助さんの部屋から見つかった文書を「遺言」としたが、徐々に状況が明らかになるにつれて「遺書」に変えたということではないでしょうか。

今回の件については、現時点で事実関係が明らかになっておらず、憶測で報道することは厳に慎まなければなりませんが、まずは猿之助さんのご回復を心よりお祈りいたします。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事