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「えっ!私に5億の遺産だって!?」~急増が予測される「笑う相続人」とは vol.2

竹内豊行政書士
超高齢化社会では思わぬ遺産が転がり込むことが起きやすくなります。(写真:イメージマート)

突然届いた「内容証明」

「ピンポーン!」と玄関のインターホンが鳴ったので田中浩一さん(仮名・48歳)はモニターを覗きました。するとそこには郵便配達員がいました。

「佐藤浩二様宛てに配達証明郵便が届いています」と言うではありませんか。「なんだろう・・・。」と胸騒ぎを覚えながら玄関口で受け取って差出人を見ると「竹之内行政書士事務所」と書かれています。「行政書士だって?法律系の国家資格者だと思うけど・・・」と思いながら早速封を開けてみました。すると、次のように書かれていました。

「あなたの祖父である田中角蔵様が先月お亡くなりになりました。私は角蔵様の妻(貴殿の祖母)の田中幸代様から依頼を受けて角蔵様の相続手続を行っている行政書士の竹之内豊と申します。

当職が相続人の調査を行った結果、幸代様と貴殿のお二人が角蔵様の相続人であることが判明いたしました。つきましては、一度ご説明に伺いたいと思います。お手すきの際に、事務所にお電話いただければ幸甚です。

令和5年2月26日

東京都千代田区麹町1丁目2番〇号 弥風ビル3階

竹之内行政書士事務所 代表 竹ノ内豊

電話 03(1234)56××

絶縁状態だった親子

「えっ!俺がおじいさんの相続人だって!?」と浩一さんは状況が呑み込めませんでした。実は、浩一さんの父・角一さんは母・美恵子さんと結婚するときに角蔵さんから大反対されて、それ以来、お互いに絶縁状態になってしまったのでした。

角蔵さんは事業家で、一人息子の角一さんに取引先の娘と結婚させたかったのです。だから、浩一さんは一度も角蔵さんと会ったことがないのです。そして、角一さんが5年前に交通事故で不慮の死を遂げたとき、角蔵さんは香典を送ってくれましたが弔問には来てくれませんでした。

「とにかくこの行政書士から事情を聞いてみよう」と浩一さんは思い、電話をかけて3日後に行政書士の事務所で会う約束をしました。

孫が相続人になる!?転がり込んだ5億円

3日後、事務所に伺い行政書士から次のように説明を受けました。

「(浩一さんの)祖父の角蔵様は、先月ゴルフ場で倒れてそのまま亡くなってしまいました。享年89歳でした。実は、角蔵さんは「遺言を残そう」と私(行政書士)に相談をしてた矢先でした。そして、戸籍を調査した結果、妻・幸代さん(浩一さんの祖母)と孫の浩一さんの二人が相続人に確定しました」

浩一さんは、「でも、私の父(角蔵さんの一人息子・角一)は、既に亡くなっているのですよ。だったら祖母だけが相続人になるのではないですか?」と尋ねると行政書士は次のように説明しました。

「本来であればおっしゃるとおり、貴殿の父・角一さんが相続人になるはずでした。しかし、角蔵さんが亡くなる前にすでに死亡されています。そこで、角一さんが本来相続する権利をその方の子ども、つまり孫である貴殿が引き継ぐことになるのです。このような方を代襲相続人といいます」。

これを聞いた浩一さんは、「つまり、本来は父・角一が相続する権利を、私が引き継ぐということですね。ところで、祖父はどのくらいの遺産を残したのですか?」と聞いてみると、「現在調査中ですが、金融資産で約5億円あります。その他、不動産も残されていますから、10億円程度になるかもしれません。遺産の評価は税理士が調査していますので、結果が判明次第、お知らせします」というではありませんか。

「ということは、私はどの程度権利があるのですか?」と恐る恐る聞いてみると「相続権は配偶者である妻・美恵子様が2分の1,残り2分の1が浩一さん、あなたに権利があります。どのように分け合うかはお二人で協議して決めていただくことになります」と行政書士は答えました。

「ということは、もし、10億円だとすると、5億円が転がり込むことになるのか!」浩一さんは戸惑うとともに思わず頬がゆるんでしまうのでした。

逆縁による「笑う相続人」は今後増える!?

超高齢化社会では、子どもが親より先に亡くなってしまう、いわゆる「逆縁」が増えることが予測されます。そうなると、今回の話のように、孫が祖父母の遺産を引き継ぐ「代襲相続」が必然的に増えてきます。

代襲相続人は「予期せぬ遺産が転がり込む」ことが多いので、想定外の財産が入って思わず微笑んでしまうことを例えて法言葉で「笑う相続人」と言われることがあります。

どうでしょう、あなたには、ご自身を「笑う相続人」にするようなおじいさま・おばあさまはいらっしゃいますか?

※この記事は、民法を基に作成したフィクションです。なお、登場人物は全員架空の者です。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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