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衝撃の相続!「超高齢化社会」に潜む「再転相続」の恐怖

竹内豊行政書士
今後、相続で「再転相続」の急増が予想されます。(写真:イメージマート)

大往生した父

佐藤昭雄さん(仮名・68歳)は半年前に父・慎太郎さん(仮名・享年98歳)を亡くしました。死因は老衰の大往生でした。

相続人は、次男の昭雄さんと妻(昭雄さんの母)純子さん(仮名・93歳)それから長男(昭雄さんの兄)昭一さん(仮名・72歳)の3名です。

相続財産は、自宅マンションと現預金約1千万円でした。四十九日の法要が終わった頃、相続人3人で遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)をした結果、妻は亡父と同居していた自宅マンションを取得し、現預金は昭雄さんと昭一さんで2分の1ずつ分け合うことで円満に話し合いが付きました。

手間取った相続手続

相続手続は、昭雄さんが取り仕切ることになりました。「すぐに終わるだろう」と高を括っていた昭雄さんでしたが、意外とそう簡単にはいきませんでした。

まず手間取ったのが相続人を戸籍謄本で証明することです(「相続人の確定」といいます)。被相続人(=死亡した慎太郎さん)の生まれてから死亡するまでの一連の戸籍と相続人全員の戸籍を役所に請求しなければなりませんでした。慣れない作業のため、戸籍の収集だけでも約2か月もかかってしまいました。

それから、相続財産を調査するために、マンションの全部事項証明書(登記簿謄本)を法務局に請求し、被相続人が口座を開設していた銀行3行と証券会社2社に残高証明書を請求しました。

そして、遺産の分け方を記した書類(「遺産分割協議書」といいます)を作成して「やれやれ、後は相続人全員が遺産分割協議書に実印と署名をすれば完了だ!」という段階まできました。気が付くと、父が亡くなってから半年が過ぎていました。昭雄さんは「こんなに大変だと分かっていたら、知り合いの行政書士に頼めばよかったな、確か相続手続を専門にしていると言ってたし・・・」と少し後悔しました。

まさかの長男の孤独死

昭雄さんは、出来上がった遺産分割協議書に実印と署名をもらうために、まずは兄・昭一さんに電話をしました。しかし、何度コールしても留守番電話になってしまいます。「折り返し電話をください」とメッセージを残してもコールバックもありません。嫌な予感がした昭雄さんは、車で1時間ほどかかる昭一さんのアパートに直行しました。しかし、何度チャイムを鳴らしても反応はありません。そこで、同じ敷地に住む大家さんに部屋を開けてもらいました。そこには、ベッドで冷たくなっている変わり果てた昭一さんの姿があったのでした。

相続人はだれになる~被相続人が死亡した後、さらに相続人が死亡した場合(再転相続)

以上ご紹介したように、遺産分割がまだ終わらない内に、相続人の一人が死亡してしまう場合があり得ます。この場合、遺産は、死亡した相続人に、法定相続分に応じて承継されることになります。この結果、「死亡した相続人の相続人」を含む相続人全員によって遺産分割協議をした上で、相続財産を承継することになります。

このように、遺産分割協議が成立する前に、相続人の一人が死亡した場合、遺産は、「死亡した相続人の相続人」(=「再転相続人」といいます)に、法定相続分に応じて承継されることになります。このことを再転相続といいます。

再転相続は被相続人と関係の薄い者が相続人となることが多いため、遺産分割協議(相続人全員で遺産の分け方を決める協議)が難航する可能性がどうしても高くなってしまいます。

難航が予想される遺産分割協議

実は、孤独死してしまった昭一さんには離婚歴があり、元妻との間に昭太郎(仮名)という男の子を1人もうけていました。しかし、その子が3歳のとき離婚して親権は元妻が取得したので、約40年間全くの音信不明です。しかし、遺産分割協議には相続人全員で協議をして全員が合意しなければ成立しません。つまり、再転相続人である昭太郎さんにも遺産分割協議に参加してもらわなければ亡・父の遺産分けができない状況に陥ってしまいました。昭雄さんは「昭太郎は住所も生死もわからないし、これからどうなってしまうのか・・・」と不安にかられてしまうのでした。

超高齢化社会では「再転相続」発生のリスクが高くなる

超高齢化社会の現在、今回ご紹介したケースのように、相続人が高齢者であるケースは増えてきます。そうなれば必然的に再転相続のリスクは高くなります(実際に筆者が受任したケースでも最近ありました)。

一般的に遺産分けに時間がかかればかかる程、遺産分割協議が難航する傾向にあります。また、再転相続が発生する可能性も当然高くなります。

超高齢化社会では、円満な相続のためにも「速やかな相続手続」を実行することを強くお勧めします。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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