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「えっ!お墓は長男が継ぐんじゃないの!?」~お盆帰省で父が「お墓は次男」の衝撃発言!

竹内豊行政書士
実は、お墓は長男が引き継ぐのが当然ではありません。(提供:イメージマート)

田中一郎さん(仮名・55歳・長男)は、コロナ規制がない今年、3年振りにお盆に帰省をしました。

久しぶりに親子水入らずで食卓を囲みました。お酒が心地よく回ってきたころ、父昭一さん(仮名・85歳)が「お墓のことだけど、二郎(仮名・52歳・二男)に引継がせることにしたからお前もそのつもりでいてくれ」と突然お墓の引き継ぎの話を始めました。

「お墓は長男」は当たり前ではない

お墓は長男の自分が引き継ぐのが当然だと思っていた一郎さんは驚き、「お父さん、定年退職したらこの家をリフォームしていっしょに住もうと思っているんだよ。だからお墓も俺が引き継ぐよ」と反論しました。

崩れ去った第2の人生

しかし、昭一さんの意思は固く、「ありがたい話だけど、実は、来月から二郎の家族と同居することに決めたんだ。お前は東京の大学に入学して、東京に本社がある会社に就職しただろう。二郎は高校を卒業してから地元の会社に就職して、会社帰りに家に寄ってくれたり、何かと母さんと私を気にかけてくれているんだ。だから、少し早いかなと思ったけど、この家を二郎に残す遺言書を先月公証役場で作ったんだ。その時に、公証人から『お墓はどうします?』と聞かれたから、『では、お墓も二郎に残すようにしてください』と頼んだんだよ。悪く思わないでくれよ」。こう言われてしまっては、一郎さんは何も言えませんでした。

こうして、一郎さんが思い描いていた第2の人生は、あっけなく崩れ去ってしまったのでした。

相続財産の引継ぎのルール

民法は、被相続人(亡くなった人)の財産について、次のように定めています。

民法896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

このように、原則として被相続人の財産は相続人が承継するものと定めています。

お墓は相続財産ではない

しかし、民法は、祭祀のための財産、たとえば、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇仏具、神棚、十字架など)、墳墓(敷地としての墓地を含む)は、次のように相続財産とは「別ルート」で引き継がせるように定めています(民法897条)。

民法897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(筆者注:896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

このように、祭祀財産は、まず、慣習に従って「祖先の祭祀を主宰すべき者」(祭祀主宰者)が承継します。ただし、被相続人の指定がある場合には指定された者が承継します。なお、指定方法は特段決められていません。生前に口頭または文書でもできます。もちろん、昭一さんのように遺言でもできます。

そして、被相続人の指定がなく、慣習が明らかでない場合は、権利を承継すべき者を家庭裁判所が定めることになります。

お墓を相続財産としなかった理由

民法が、お墓を一般の相続財産とは別ルートで承継させるとした理由の一つとして、お墓などの祭祀財産が、「家」や「姓」と密接に結びついた特殊な性格を帯びていることが挙げられます。

このように、お墓は相続財産ではありません。そのため、相続人が承継するのではなく、まず、被相続人の遺言などによる指定、次に慣習、最後に、家庭裁判所の決定の順で承継者が決まります。

このお盆休の間に、いつかは起こるお墓の引継ぎについて考えてみてはいかがでしょうか。

※この記事は、民法を基にしたフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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