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「婚姻届」でガラッと変わる~何が変わる?その意外な届出方法とは

竹内豊行政書士
「婚姻届」を出すことで変わること、その意外な届出方法について見てみます。(写真:アフロ)

人生の中で役所への届出はいくつもあります。その中でも、婚姻届はパートナーとこれからの人生をいっしょに歩むスタートの証しとして重要な届出の一つです。そこで、婚姻届について見てみたいと思います。これから結婚する方も既婚の方も、結婚について改めて考えるきっかけになるかもしれません。

届出なければ結婚なし

結婚するには、戸籍法で定める婚姻届を役所に提出しなければなりません(民法739条1項)。このように、民法は「届出なければ結婚なし」という届出婚主義を採用しています。

したがって、婚姻(法律では、「結婚」のことを「婚姻」といいます)の届出がなければ、いくら事実上の夫婦生活が続いていても、法的な婚姻にはなりません。

また、届出は、当事者双方および成年の証人2人以上から、口頭または署名した書面でしなければなりません(民法739条2項)。

民法739条(婚姻の届出)

1.婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

2.前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

婚姻の効果~婚姻届を出すと発生する権利・義務

そして、婚姻届を届け出ると、法律上、次のような権利と義務が生じます。

夫婦同氏(民法750条)

夫婦は、結婚の際に夫または妻の氏(法律では「姓」や「苗字」を「氏」と呼びます。)のどちらかを夫婦の氏として選択しなければなりません。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

同居協力扶助義務(民法752条)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助し合わなくてはいけません。

民法752(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

貞操義務

夫婦は貞操義務を負います(つまり、不倫はいけません)。

実は、民法には、「婚姻をして、配偶者がいる者は不倫をしてはならない。」といった、不倫を直接禁止する条文はありません。

しかし、次の3つの条文から、「夫婦は互いに貞操義務(配偶者がいる者が、配偶者以外の者と性的結合をしてはいけないこと)を負う」という不倫禁止が導き出されます。

1.重婚が禁止されている(民法732条)

民法732条(重婚の禁止)

配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

ここでいう「婚姻」とは、戸籍に表れる関係のことです。法律上の配偶者がいる者が、別の異性と事実上の夫婦生活を営んでも、重婚にはなりません。

2.「同居」「協力」「扶助」の3つの義務が規定されている(前掲・民法752条)

3.不貞行為が離婚原因になる(民法770条1項1号)

民法770条1項(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一、配偶者に不貞な行為があったとき。

不貞行為とは、貞操義務に反する行為です。つまり、夫または妻以外の人と性的関係を持つ行為です。不貞行為が離婚の原因になるのは、道徳上当然の効果といえます。

以上3つの条文に加えて、一夫一婦制という結婚の本質からしても、夫婦はお互いに貞操義務を負うとされています。

夫婦間の契約取消権(民法754条)

夫婦は結婚期間中に締結した夫婦間の契約を、結婚期間中はいつでも、何の理由もなしに一方的に取消すことができます(ただし、第三者の権利を害することはできません)。

民法754条(夫婦間の契約の取消権)

夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

その他にも、

・姻族関係の発生(民法725・728条)

・子が嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子、つまり夫の子)となる(民法772・789条)

・配偶者の相続権が認められる(民法890条)

などがあります。

以上ご覧いただいたように、婚姻届を届け出ることにより、法的に夫婦として認められ、お付き合いしてきたときとは違い、互いに権利と義務が発生します。

「婚姻届」の届出方法

次に、婚姻届の届出方法について見てみましょう。

本人でなくても届出ができる

婚姻届は、その届出を行ったときから、法的な効力が発生します(このような届出を「創設的届出」といいます)。そのため、当事者の婚姻の意思を確認するためにも、本来、本人が出頭すべきものと考えられます。しかし、婚姻届の提出は、代理人が窓口に出頭することが認められています。その他、次のような方法も可能です。

「郵送」による届出

婚姻届は郵送または信書便によっても可能です。そして、発送された場合には、特例として、本人の死亡後であっても受理しなければならないと定められています(戸籍法47条1項)。その場合、死亡時に受理があったものとみなされます(戸籍法47条2項)。これは、戦時中の出征軍人のための特別法に由来するものです。

戸籍法47条

1 市町村長は、届出人がその生存中に郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者による同条第二項に規定する信書便によつて発送した届書については、当該届出人の死亡後であつても、これを受理しなければならない。

2 前項の規定によつて届書が受理されたときは、届出人の死亡の時に届出があつたものとみなす。

このように、当事者が役所に出向くことなく、郵送でも婚姻届を届け出ることが可能です。

なお、郵送による場合は、事前に届出先の役所の戸籍係に必要書類等確認しておくことをお勧めします。

その他、次のような「意外」な届出方法もあります。

「口頭」による届出

口頭による届出も可能です。この場合、届出人本人が市役所・町村役場の窓口に出頭し、届出書に記載すべき事項を陳述しなければなりません(戸籍法37条1項)。

ただし、口頭による届出の場合、代理人による口頭での届出はできません(戸籍法37条3項)。また、当事者および証人の1人が書面で、他の者は口頭で届け出ることは認められません。

「代署」による届出

戸籍法施行規則62条によると、届出の場合、署名を代署に代えることができるとされています。さらに、代署が明らかであるが、代署事由が付記されていない届出についても受理を拒否できない扱いにしています。

戸籍法施行規則62条

1 届出人、申請人その他の者が、署名し、印をおすべき場合に、印を有しないときは、署名するだけで足りる。署名することができないときは、氏名を代書させ、印をおすだけで足りる。署名することができず、且つ、印を有しないときは、氏名を代書させ、ぼ印するだけで足りる。

2 前項の場合には、書面にその事由を記載しなければならない。

このように、婚姻届は当事者が役所に出向かずに届け出ることができます。何らかの理由で役所に出向くのが困難な方は、検討してみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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