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小室圭さんが金銭問題の28ページの説明文書を公表しても「モヤモヤ感」が残る理由

竹内豊行政書士
小室圭さんが金銭問題の説明文を公表しましたが、モヤモヤ感が残る内容でした。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

小室圭さんが金銭問題の28ページにわたる説明文を公表しました。詳細に経緯を述べられていますが、なんとなくモヤモヤ感が残るという方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、このモヤモヤ感を「婚約」というキーワードからアプローチしてみたいと思います。

婚約はどのように「成立」するのか

婚約は、男女間に「将来結婚しよう」という合意があれば、成立します。

結納婚約指輪の交換などの儀式は、当事者間の結婚の意思を世間一般的に示すものとして、婚約の成立を証明する一つの事実になります。

婚約の法的意義~「婚約不履行」の場合に意義がある

婚約は将来結婚しようという約束です。したがって、婚約により当事者は結婚の成立を期待し、それに向けた準備を進めたり、婚約をきっかけに性的な関係を持つこともあります。

それにもかかわらず、一方的に婚約を解消されると、他方は精神的に傷つくし、準備のためにかかった費用や、婚約を機会に退職する女性もいることなどから、財産的な損害も発生する場合もあります。だからといって、結婚の本質から見て、「婚約したのだから」といって結婚を望まない相手に婚姻届の届出を強制することはできません。

そこで、正当な理由のない不履行については、生じた損害について婚約不履行の責任として賠償を認めるところに婚約の法的な意義があります。

婚約の解消~「正当な理由」の判断基準

正当な理由もなく婚約を履行しない者に対しては、債務不履行を理由として、あるいは婚約者としての地位を侵害した不法行為としても損害賠償請求をすることができます。

婚約解消の法的責任は、婚約によって当事者間に形成された関係とその期間、解消に至った双方の行為様態、最初の合意成立の事情などを総合的に考慮して判断されます。そのため、どちらが婚約解消の申し出をしたかは重要ではありません

このように、総合的にみて解消に正当な理由がなければ、賠償責任は生じます。したがって、判例では、相手方の責任で婚約を解消せざるをえなかった場合は、解消した側から相手方に対する損害賠償を認めています。また、第三者が婚約の履行に不当に干渉、妨害して解消に至らせた場合は、その第三者も婚約解消の共同不法行為者として損害賠償責任を負うとしました。そのため、婚約をしたものの、結婚に迷った方から相談を受けてアドバイスをした結果、婚約解消になった場合、相手側から「あなたの助言のせいで結婚ができなくなった」として、相手側から損害賠償を請求されることもありえます。男女間の相談にのる場合は注意しましょう。

婚約解消の「正当な理由」とは

では、どのようなことが婚約解消の正当な理由と認められるのでしょうか。

判例は、次のような理由による婚約解消は、婚約解消の正当な理由が不十分として、解消された側からの損害賠償を認めています。

・性格の不一致

・容姿に対する不満

・年回り

・親の反対 など

小室圭さんの母親と元婚約者の婚約から婚約解消まで

小室圭さんは、説明文書の中で、「5.金銭トラブルと言われている事柄に対する私と母の認識について」として、次のように経過を述べています。

・母と元婚約者は平成22年(2010年)の春頃から交際を開始した。

・母は元婚約者と平成22年(2010年)9月初めに婚約した。

・平成24年(2012年)9月13日午後11時15分、母は元婚約者から、婚約を解消したいという一方的な申し入れを突然受けた。

また、説明文で、元婚約者から、母親が「交際は真剣なものなのか」と尋ねた際に「結婚を前提としています」という返答があったこと、また、婚約に当たり、元婚約者から「お互いの友人を呼んでクルージング婚約パーティーを開きましょうか」という提案や「婚約指輪を贈りたい」という提案があったことなどを述べていることから外形的にも婚約が成立していたと考えられます。

金銭面については、結婚に向けて話し合うなかで、元婚約者から「家族になるのだからこれからは金銭面も含めて全面的にバックアップします」という申し出があったことを明らかにしています。

しかし、このような、婚約期間中のやり取りがあったものの、理由も明らかにされないで、一方的に婚約が解消されてしまったと説明文で述べています。

もし、この婚約解消が元婚約者が「正当な理由」がなく一方的にしたものであれば、小室圭さんの母親が精神的な損害をこうむったとして元婚約者に対して損害賠償を請求する余地があると考えられます。

以上のとおり、元婚約者の方との金銭問題は、婚約という「当事者間の結婚に向けた約束」という法的にあいまいな期間中の金銭の提供であり、しかも正当な理由が明らかにされないまま一方的に婚約が解消されたことに原因の一端があるようです。

では、婚約解消の理由が明らかにされるのかと言えば、プライベートな問題であり、明らかになる可能性は今後も低いと考えられます。もし、明らかにされたとしても、当事者間での問題であり、公にする必要性もないと考えます。

したがって、国民からはモヤモヤとした感じが残る形での「解決」となるのではないでしょうか。

引用・参考:【全文】小室圭さん金銭問題の説明文書公表

参考:『新注釈民法(17)』有斐閣、二宮周平 編集

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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