Yahoo!ニュース

コレクションを「厄介な遺産」にしないためにはどうしたらよいか

竹内豊行政書士
コレクションが思わぬ「厄介な遺産」になってしまうことがあります。(写真:アフロ)

趣味で生涯をかけて集めたコレクションが、家族も認める価値のあるものであれば、自分の死後も相続人によって引き継がれる可能性は高いでしょうが、必ずしもそうとは限りません。中には、苦労して集めたコレクションが、価値を知らない相続人の手で捨てられたり売り払われたりしてしまうケースも珍しくないようです。

そうした中、古本や中古玩具をマニア向けに取り扱うまんだらけでは、コレクター向けに「生前見積」というサービスを2016年より続けています。

生前見積はコレクションの行く末を考えているコレクターへ漫画やアニメ関連のグッズ、玩具や鉄道模型など、まんだらけが取り扱っているアイテムを対象に、1度につき100点まで無料で査定するサービスです。

このサービスを利用することで、まずコレクター自身がコレクションの価値を理解し、家族・周囲の方にも知ってもらうことで、コレクターの死後にコレクションが二束三文で処分されてしまったり、散逸してしまうことを防ぐことが期待できるというのです(以上参考:【オタクの老後】コレクターの死後、残されたグッズはどうなる? 「コレクション」が「遺品」になる前に終わらせたい“最後の仕事”とは)。

そこで、今回は、コレクターの死後、コレクションはどうなってしまうのか、また生前に打つべき対策について、相続の観点から考えてみたいと思います。

手を打たないと「相続人」が引き継ぐ

相続は人の死亡を原因として開始します(民法882条)。

民法882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

相続が開始すると、被相続人(死亡した人)の財産に属した一切の権利義務は、例外を除き、すべて相続人が承継します(民法896条)。

民法896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

これにより、相続財産は相続人全員の協議により、だれが何をどれだけ引き継ぐか決められることになります。つまり、そこには被相続人の意思は存在しません。死亡しているのである意味当然です。

相続人がコレクションの価値を理解して、コレクションが散逸されずに保管されるように引き継いでくれればよいのですが、被相続人の趣味で集めたコレクションがそのように引き継がれることを期待するのは難しいでしょう。

一方、「お宝」と呼ばれるような周囲が認める価値のあるものの場合は、相続人同士が「自分が引き継ぎたい!」となって争いの種になるかもしれません。

ずれにしても、コレクションは「厄介な遺産」になる可能性を秘めています。

遺言でコレクションの引継ぎを決めておく

もし、自分の死後に、コレクションを自分の思うように残したいのなら遺言を残す必要があります。

その場合、信頼置ける人を遺言執行者に指定することがポイントになります。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有してるからです(民法1012条1項)。

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1.遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2.遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

コレクションを遺言に書くポイント

しかし、コレクションの数が膨大で一つひとつのコレクションを遺言書に書き出すことは難しいかもしれません。そのような場合は、たとえば「私が収集した切手のコレクションの全てを〇〇に相続させる。」といったように個々のコレクションを個別具体的に書くのではなく包括的に書いてもかまいません。この書き方であれば、コレクションの増減にも対応できます。

古文書を図書館へ

私は以前、万葉集に関する本や古文書のコレクターの方から遺言作成の依頼を受けたことがあります。その内容は、母校の図書館に寄付するというものでした。遺言者は母校の文学部を卒業しており、既に大学へ死後にコレクションを引き取ってくれることに了解を得ているということでした。そして、遺言執行者には同じ収集家の方を指定していました。ここまで周到に準備していれば死後もコレクションは有効に活用されるでしょう。

コレクションはコレクターの思い入れが強いという特性があります。そのため、遺産になると、相続人からしてみれば厄介な遺産になりかねません。コレクターの方は死後に愛着あるコレクションが「厄介な物」にならないように生前に対策を打っておいてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事