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「三浦春馬」さん継父と「速攻」で離縁~「養子縁組」の恐さ 「継父」が「相続人」になった可能性も

竹内豊行政書士
三浦さんは実母が再婚相手と離婚した後、継父と「速攻」で離縁していました。(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

三浦春馬さんが昨年7月にお亡くなりになってから半年が過ぎようとしています。いまだ「お別れの会」が開かれず、追悼の機会は失われたままとなっていることから、三浦さんの実の両親が遺産を巡り対立しているのではという記事が掲載されました(「三浦春馬」さん、お別れの会延期の背景に「実母」 遺産を巡り両親が対立して)。

記事では、三浦さんの両親(実父と実母)は、三浦さんが小学生になってほどなく離婚し、実母が三浦さんを引取り、その後実母は三浦さんが中学生になる前に再婚するが8年前に離婚。その際に、キー局のディレクターによると三浦さんは、次のような行動に出ました。

「当時の春馬は、継父に対しても“もう顔も見たくない”と言い放ち、夫婦が離婚した直後、“速攻で役所に行き、継父の籍から抜いてもらった”と話していた。あえて自分から“天涯孤独”の道を選んでしまったんだと思いましたね」

このように、三浦さんは実母が再婚相手と離婚した直後に「速攻」で継父と離縁しました。今回は、三浦さんがそこまでして解消したかった「養子縁組」について考えてみたいと思います。

「養子制度」とは

養子は、血のつながりではなく意思によって親子関係を発生させる制度です。そして、養子制度の目的は次の3つが挙げられます。

1.後継ぎや扶養を目的とする「成年養子」

2.家族関係を安定させることを目的とする「連れ子養子」や相続をみこした「孫養子」を中心とする「未成年養子縁組」

3.児童保護を目的とする「特別養子縁組」

養子縁組を成立させるには

養子縁組は、養親となるべき者と養子となるべき者との合意に基づく「養子縁組届」が受理されることによって成立します(民法799条)。つまり、婚姻と同じく届出によって成立します。

「養親」となれる者~「成年者」であること

養親となる者は成年者でなければなりません(民法792条)。

民法792条(養親となる者の年齢)

成年に達した者は、養子をすることができる。

ただし、自分の尊属(注)または年長者を養子にすることはできません(民法793条)。

民法793条(尊属又は年長者を養子とすることの禁止)

尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。

たとえば、おい・めいは、おじ・おばが自分より年少者であっても尊属に当たるので養子にできません。親族に関してこれ以外の禁止要件はないので、祖父母が孫を、兄・姉が弟・妹を養子にすることは可能です。

(注)尊属とは、自分よりも前の世代に属する者で、父母・祖父母・おじ・おばなどが該当します。一方、自分よりも後の世代に属する者は卑属といい、子・孫・おい・めいなどが該当します。

ところで、平成30年の民法改正により成年年齢が、令和4年4月から、20歳から18歳になります。しかし、養子をとることができる年齢については、養親になることは他人の子を法律上自己の子として育てるという重い責任を伴うものであることが考慮され、引き続き20歳以上とされています(18歳成人については「18歳成人」法案が成立!何が変わり、変わらないのかをご覧ください)。

養子が未成年の場合~未成年養子縁組

養子となる者が15歳未満のときは、その法定代理人(親権者・後見人)がこれに代わって縁組の承諾をすることができます(民法797条1項)。これを代諾縁組といいます。15歳未満の場合は、養子本人に意思能力(意思決定をする能力)があっても、自分で縁組をすることはできません。

未成年の養子縁組は「家裁の許可」が必要

15歳以上の子が自分で縁組をする場合も、代諾縁組の場合も、未成年者の養子縁組は、家裁の許可を得なければなりません(民法798条)。

「連れ子養子」の場合は家裁の許可は不要

ただし、自己または配偶者の直系卑属(いわゆる「連れ子」)を養子とする場合には、家裁の許可は不要です(民法798条ただし書き)。

三浦さんの場合、三浦さんが中学生になる前に実母が再婚したので、代諾縁組に当たり、親権者の実母が継父(実母の再婚相手)との養子縁組を承諾したと考えられます。また、「連れ子養子」のケースに当たり、家裁の許可は不要であり、役所に届け出ることで継父との養子縁組は成立したと考えられます。

養子縁組の効力~養子縁組が成立するとどうなるか

養子は、縁組成立の日から、養親の嫡出子(婚姻関係のある夫婦から出生した子)としての身分を取得します(民法809条)。

民法809条(嫡出子の身分の取得)

養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。

この結果、養子は縁組の日から、養親および養親の血族との間に、血族間におけると同一の親族関係が生じます(民法727条)。この関係を法定血族関係といいます。

そして、実親との親子関係も残るため、二重の親子関係が成立し、相続権は養親子相互と実親子相互の2系統に発生します。

なお、「氏」(姓)については、養子は養親の氏を称します(民法810条)。三浦さんの場合、実母が再婚して再婚相手の氏を称したとすれば、三浦さんも継父の氏を称していたと考えられます。

協議離縁~どうすれば離縁できるのか

縁組は両当事者の合意によって解消することができます(民法811条1項)。

三浦さんは、実母と継父(養親)が離婚したときに、先にご紹介したように、“速攻で役所に行き、継父の籍から抜いてもらった”と話していたということなので、継父と話し合って離縁することに双方合意して、その旨を「養子離縁届」に記して役所に届け出たと考えられます。

離縁の効果~離縁するとどうなるか

離縁により、法定嫡出関係は終了し、養子と養親との血族としての法定血族関係も終了します(民法729条)。これにより、養子と養親の双方の相続権は消滅します。

離縁していなければ「継父」も「相続人」になっていた

つまり、継父と離縁していなければ、継父も三浦さんの相続人として実父、実母に加え“第三の相続人”として遺産を承継する権利があったわけです。記事によると、実母と実父の間で遺産分けの協議が難航しているようなので、そこに養父まで加わったら協議はさらに難航すること必至でしょう。

三浦さんが離縁を決めた原因は、金銭的や感情的な問題と推測されますが、今となっては離縁の判断は相続の観点からもよかったのではないでしょうか。

このように、養子縁組は「連れ子養子」のように家族関係の安定に有効であるなど便利な制度ですが、養子縁組後の関係性によっては、相続の紛争の原因にもなる場合があります。

養子縁組をする場合は、制度の趣旨を十分に理解し、将来も見据えた上で、する・しないを判断することをお勧めします。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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