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「三浦春馬さん」 “分骨”も叶わず~「遺骨」はだれのものなのか

竹内豊行政書士
今年7月にお亡くなりになった三浦春馬さんの分骨が叶わないという報道がありました。(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

今年7月に30歳の若さで亡くなった三浦春馬さんの遺産を巡り、父母が争っているという報道がありました。その中で、父親が母親の手元にある遺骨の分骨を希望してるが実現に至ってないという内容が記されていました(以上参考「三浦春馬さん」遺産をめぐり父母が対立 “分骨”も叶わず)。

遺骨をめぐる争いは、相続人や故人と深いつながりがあった方などの間で感情的な対立が激化すると起きることがあります。どの相続でも起きうる危険をはらんでいます。

そこで、今回は、民法と判例で「遺骨はだれに帰属するか」を見てみます。相続の争いは遺産だけではないのです。「争族」防止の参考にしてください。

民法は遺体・遺骨の帰属を定めていない

遺体や遺骨は、被相続人が生前所有していた財産ではありません。したがって、遺産ではなく、また、祭祀財産(系譜、祭具、墳墓等の祖先の祭祀のための財産)ということもできないはずです。

このような事情もあってか、民法では、遺体・遺骨をだれに引き継がせるかを規定していません。そのため、遺体・遺骨をめぐって争いが起きることがあります。 そこで、裁判では遺骨をめぐる紛争にどのような判断を下しているかを見ることにしましょう。

遺骨をめぐる裁判例

では、遺骨をめぐる裁判例をご紹介します。

裁判例1

宗教家であった被相続人(亡くなった人)の信者団体が遺骨を守っているのに対して、祭祀主宰者(祖先の祭祀を主宰すべき者)である相続人(養子)が菩提寺に埋葬するために、信者団体に遺骨の引き渡しを求めた事案で、最高裁は、「遺骨は祭祀主宰者に帰属する」とした原審を正当とした(最高裁平成元年7月18日)。

裁判例2

遺骨について、祭祀財産に準じて取り扱うのが相当として、民法897条2項を準用して、「遺骨の取得者を指定することができる」とした(名古屋高裁平成26年6月26日他)。

民法897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

裁判例3

祭祀承継者に被相続人の遺骨を引き取らせ供養させるのが相当であるとして現に遺骨を保管している同居者に対し、その引渡しが命じられた事例(福岡家裁昭和50年7月30日)

裁判例4

被相続人の遺骨の所有権は、祭祀財産に準じて、被相続人の祭祀を主宰すべき者が取得する(大阪家裁昭和52年8月29日)

裁判例5

被相続人夫婦の長女が長男及び次女を相手方として祭祀主宰者の指定を求めた事案において、被相続人の遺骨について祭祀財産に準じて扱うのが相当であるとし、民法897条2項を準用して、長男を祭祀財産に指定した(東京家裁平成21年3月30日)

以上の判例を見ると、いずれも「祭祀承継者」が遺骨を保有し、これを管理することを認めています「祭祀承継者」については、「お墓」について知っておくこと・すべきこと~お墓を引き継ぐ人を指定する方法をご参照ください)

遺骨の帰属をめぐる争いは、相続人の間のみならず、相続人と故人とゆかりがあった、たとえば内縁関係の人などとの間でも起きることがあります。

争っている人たちでも、「故人の供養をしてあげたい」という気持ちは同じはずです。早期に解決して安らかに眠る場を決めてあげるのが、故人のなによりの供養になるのではないでしょうか。

参考文献:『新注釈民法19』(有斐閣)、『判例民法10』(第一法規)、『家族法第5版』(二宮周平著、新世社)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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