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「婚姻届」や「離婚届」の「脱ハンコ」は大丈夫?~「脱ハンコ」によるオンライン化で懸念されること

竹内豊行政書士
「婚姻届」や「離婚届」のオンライン化では「成りすまし」等の対策が不可欠です。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

政府が「脱ハンコ」方針を進める中、上川陽子法相は今月9日の閣議後記者会見で、「行政手続きでの押印などの見直しを強力に推進するという政府の方針に沿って検討している」と述べ、婚姻届と離婚届の押印を廃止する方針を表明しました。

「脱ハンコ」の先にあるもの~行政のデジタル化

法務省によると、押印の廃止が検討されているのは、婚姻や離婚のほか出生や死亡、養子縁組など戸籍に関する届け出手続きです。

また、上川氏は同日「菅内閣の大きな柱としてデジタル化の推進を国民の利便性向上という形で進めている。法務省としても取り組みたい」(10月10日読売新聞)と語っているように、脱ハンコの先には政府が進める行政のデジタル化があります。

「知らぬ間」に結婚や離婚の懸念

これが実現すると、役所に出向かなくてもオンラインで婚姻届などの身分関係の届け出も可能となります。しかし、100パーセント完璧なシステムはあり得ません。オンライン化による婚姻届や離婚届等の身分関係の届け出では、システムの隙を突いて自分の意思とは無関係に、成りすましや自分が知らぬ間に自分に好意を寄せる者や相手配偶者等に届け出がなされてしまい、結婚や離婚をしていたという事態が起こることも否定できません。

不受理申出制度

そこで、覚えておきたいのが「不受理申出制度」です(戸籍法27条の2第3項~5項)。この制度は、本人の意思に基づかず、一方的に不当な離婚等を防止する制度です。

この制度を利用すれば、申出をした本人が窓口に来たことが確認できなかったときは離婚届等の届出は受理されません。

不受理申出制度の概要は次のとおりです。

対象となる届出

対象となる届出は、次の5つです。

・協議離婚届

・婚姻届

・認知届

・養子縁組届

・協議離縁届

届け出できる人

届け出できる人は次のとおりです。

・婚姻届・協議離婚届の場合:夫および妻

・認知届の場合:認知者(父)

・養子縁組届・協議離縁届の場合:養親および養子(養子が15歳未満のときは法定代理人)

届出窓口

申出人の本籍地または所在地(住所地)

届け出に必要なもの

・届出人の印鑑

・本人確認書類

 ~運転免許証等の公的機関の発行した顔写真が貼付された有効期限の定めがある書類でない場合は、2点以上の書類の提示が必要になる場合があります。

申し出の対象となる期間

期間の定めはなく、不受理申出は取下げられるまで継続されます。

不受理申出(申出)件数

2016年度から過去5年間の不受理申出件数は、次のとおりです。5年間の平均申出件数は、36,169件となっています。

2016年度 37,803件

2015年度 36,196件

2014年度 38,834件

2013年度 34,760件

2012年度 33,253件

引用:政府統計の総合窓口(e-Stat)

「脱ハンコ」の議論に期待すること

利便性を追い求めるあまり、不正な届出が横行してしまうようでは本末転倒です。今後の身分関係の「脱ハンコ」の議論において、不正な届出がなされないための本人確認等の方法はもちろんですが、万一不正な届出がなされた場合のバックアップも含めた法制度についても活発になされるように期待したいところです。

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行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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