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お彼岸に知っておきたい「お墓」の相続~お墓は相続とは「別ルール」で引き継がれる

竹内豊行政書士
お墓は相続とは「別ルール」で引き継がれます。(写真:アフロ)

2020年の秋のお彼岸の日程は、彼岸入りが9月19日、お中日が9月22日(秋分の日)そして彼岸明けが今週末の9月25日(金)となっています。

お彼岸ですでにお墓参りをされた方もいらっしゃると思います。そこで今回は、民法が定めている「お墓の引継ぎのルール」についてご紹介します。

相続財産の承継の原則~「相続人」が承継する

お墓の引き継ぎのルールを見る前に、まずは相続財産の承継の原則を知っておきましょう。

民法は、亡くなった人(被相続人)の財産について、原則として「相続人」が承継するものと定めています(民法896条)

民法896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

つまり、相続人は、「被相続人の一身に属したもの」以外は、被相続人の財産を引き継ぐことになります。

「被相続人の一身に属したもの」とは

「被相続人の一身に属したもの」とは、個人の人格・才能や地位と密接不可分の関係にあるために、他人による権利行使・義務の履行を認めるのが不適当な権利義務をいいます。たとえば次のようなものがあります。

・雇用契約による労働債務

・芸術作品を作る債務

・社会保障上の権利(生活保護受給権、恩給受給権、公営住宅の使用権など)

お墓は相続とは「別ルール」で承継される

明治民法下では、祭祀のための財産、たとえば、系譜、祭具、墳墓【注】を戸主となる家督相続人が単独で承継すると定められていました(明治民法987条)

明治民法987条

系譜、祭具及ヒ墳墓ノ所有権ハ家督相続ノ特権ニ属ス

【注】「系譜」とは、歴代の家長を中心として祖先以来の家系を示すものであり、「祭具」とは(位牌等の仏具、仏壇、十字架等)、祖先の祭祀、礼拝の用に供されるものであり、「墳墓」とは、遺体や遺骨を葬っている設備(墓石、埋棺等)をいいます。

この「戸主となる家督相続人が単独で承継する」という規定は、家制度に基づくものです。しかし、現行民法は家制度を廃止しました。そこで、現行民法は、これら祭祀のための財産の承継を次のように規定しました(民法897条)

民法897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条(筆者注:前掲896条)の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

本条の規定により、祭祀のための財産の承継者は、次の順位で決められることになります。

第1順位~被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者

第2順位~慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者

第3順位~家庭裁判所によって定められる者

このように、現行民法は、祭祀財産を相続とは「別のルール」で引き継がせるように規定しているのです。

お墓を引き継ぐ者は「指定」できる

前述のように民法は、「被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」を、祭祀財産を承継する第一順位と規定しています。

指定方法に決まりはない

では、祭祀財産を引き継ぐ者はどのようにして指定するのでしょうか。実は、民法は指定の方法については何らの規定も設けていません。したがって、生前に「墓をまもってくれ」といったように口頭でしてもかまいません。

「遺言」で指定するのがベスト

しかし、口頭では証拠が残りません。しかも、被相続人の死後に効力を生ずるものなので、曖昧な指定方法ではかえってもめ事になることもあります。

そこで、祭司主宰者を指定する場合は、次のように遺言で残すのがよいでしょう。

第○条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として遺言者の長男 山田太郎を指定する。

お墓の承継をめぐって争いになってしまうこともあります。紛争を未然に防ぐためにも、お彼岸など機会をとらえて、祭祀財産の引継ぎを家族や親族の間で話題にしてみてはいかがでしょう。ご先祖様も安心されるのではないででしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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