弁護士が遺言書を偽造したという遺言制度の根幹を揺るがす以下の衝撃的なニュースが報道されました。

兵庫県弁護士会は31日、同会に所属する寺岡良祐弁護士(43)が遺言書を偽造し、神戸地検から有印私文書偽造・同行使容疑で捜査を受けていると明らかにした。寺岡弁護士は調べに対し容疑を認めているといい、同会は懲戒処分を検討している。

 同会によると、寺岡弁護士は昨年12月~今年4月ごろ、それぞれ別の故人の親族から依頼を受け、故人が生前に残していたとされるワープロ書きの文書を基にするなどして遺言書を偽造した。依頼人はいずれも法定相続人ではなかったが、遺産を相続できるような内容にしていたという。

 寺岡弁護士は平成22年から県弁護士会に所属し、同県洲本市内の事務所に勤めていた。

 同会の友広隆宣会長は「遺言制度に対する信頼を大きく損なう事態。原因究明や効果的な対策を講じるべく取り組んでいく」とコメントした。

出典:弁護士が遺言書を偽造 地検が捜査 兵庫県弁護士会

 兵庫県弁護士会は31日、依頼者と共謀して偽の遺言を作成したとして、同会所属の男性弁護士(43)を、弁護士法に基づいて同会の独立組織に懲戒請求した。今後、調査して処分を決める。

 男性弁護士は2010年に弁護士登録。同県淡路島内で法律事務所を経営している。

 同会によると、男性弁護士は昨年12月と今年4月の2件で、いずれも法定相続人ではない親族から依頼を受け、本来は故人自身が書かないと効力がない自筆証書遺言を作成した。

 同会の聞き取りに「依頼を受けた方が、より故人の遺志を反映できると思った」などと認めているという。同会によると、男性弁護士は有印私文書偽造、同行使の疑いで、神戸地検から任意で取り調べを受けているという。

出典:弁護士が遺言書偽造か 兵庫県弁護士会が懲戒請求

以上の報道によると、弁護士は相続人ではない複数の親族から依頼を受けて、故人が生前に残したとされる「ワープロ」で作成された文書を基にして、依頼者が故人の遺産を取得できる内容の自筆証書遺言を偽造したとのことです。弁護士は兵庫県弁護士会の聞き取りに対して、「依頼を受けた方が、より故人の遺志を反映できると思った」などと認めているようです。

今回は、「遺言書偽造」が起きた背景と、その防止策を考えてみたいと思います。

「自筆証書遺言」の成立要件

まず、自分で書いて残す遺言である、「自筆証書遺言」についてみてみましょう。

自筆証書遺言を法的に成立させるには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押すことが必要です(民法968条1項)

このとおり、「遺言者」(=遺言書を残す人)自らが書かなくてはなりません。したがって、代理人が作成することは不可です。もちろん、弁護士等の法律専門職も同様です。

民法968条(自筆証書遺言)

1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2.前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

自筆証書遺言の盲点~「死人に口なし」

この事件では、弁護士が、「故人」が残したワープロ書きの文書を基に、「依頼を受けた方が、より故人の遺志を反映できる」と判断して、「遺言書」を作成したようです。

前述したとおり、当然ですが、第三者が他人の遺言書を代筆する(しかも、この事件では、その者は既に死亡している)ことはできません。

しかし、「本人が書いた」ということは、実際に証明することは至難の業です。ましてや、体調が優れないときに書かれた遺言は、筆跡が乱れることもよくあるので、一層本人が自書したことを証明するのは困難になります。

しかも、遺言の効力が発生するのは、遺言者が死亡したそのときからです(民法985条1項)

民法985条1項(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

したがって、遺言書が「本当に本人が書いたものなのか?」といったように遺言の真贋が問われたときには、本人に確認しようにも肝心の本人は死亡しているので、確認のしようがないのです。まさに「死人に口なし」なのです。

「本人作成」を証明するのは至難の業

自筆証書遺言は、前掲のように、遺言者本人が自分で書けば成立可能なので、公正証書遺言で求められる証人も必要なく、密室で書き残すことができます。

そのため、「本当に本人が書いたものなのか」を100%証明する手立てはないのです。この事件は、まさに自筆証書遺言の盲点を突いたといえます。

自筆証書遺言の「盲点」をカバーするには~「遺言書保管法」を活用する

では、自筆証書遺言の盲点をカバーするにはどうしたらよいのでしょうか。実は、先月7月10日に「遺言書保管法」がスタートして、法務局(遺言書保管所)が自筆証書遺言を保管する制度がスタートしました。

法務局が「本人確認」を行う

この制度では、自筆証書遺言を作成した本人のみしか、遺言書の保管を申請することができません(代理申請は不可)。そして、法務局の職員(遺言書保管官)は、申請人(自筆証書遺言を自ら書いた者)の本人確認を、マイナンバーカードや運転免許証などの「写真付き」の公的証明書の提示を求めたり、本人に氏名等を確認するなどして行います。

遺言書保管法

4条1項(遺言書の保管の申請)

遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。

5条遺言書保管官による本人確認)

遺言書保管官は、前条第1項(=4条1項)の申請があった場合において、申請人に対し、法務省令で定めるところにより、当該申請人が本人であるかどうかの確認をするため、当該申請人を特定するために必要な氏名その他の法務省令で定める事項を示す書類の提示若しくは提出又はこれらの事項についての説明を求めるものとする。

このとおり、遺言書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言における「本人作成の疑義」を防止することができます。

★遺言書保管法について詳しくは、遺言書普及の起爆剤?新制度を利用してさっそく遺言書を預けてみた…!をご覧ください。

終活の締めは「遺言書」で締めること

この事件では、故人が生前にワープロ書きで残した文書を基に自筆証書遺言を偽造した可能性があると報道されています。それが事実であれば、もう一歩進んで、自筆証書遺言として残しておくべきでした。

昨今、「終活」が流行っています。「終活ノート」にこまめに死後について書き残している方も大勢いいらっしゃると思いますが、死後の財産を自分の思うとおりに残すには民法が規定する法的要件を備えた遺言書を残す必要があります。

「終活ノート」だけ残して亡くなられると、相続人間で遺産を分ける際に、「この内容は故人が真に望んでいたことなのか」それとも「単なる草案」であるのかなどをめぐり揉める可能性が高くなります。死後のトラブルを回避するためにも、終活は「遺言書」で締めくくることをぜひともお勧めします。