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「遺言書保管法」本日7月1日「申請予約」スタート~遺言書が150年間保管される!

竹内豊行政書士
本日7月1日、遺言書保管法による「申請予約」がスタートしました。(写真:アフロ)

2018年(平成30年)7月6日、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「遺言書保管法」)が成立しました。

遺言書保管法は、今月7月10日に施行されますが、それに先立ち、本日7月1日から保管申請の予約が開始します。

そこで今回は、遺言書保管法のアウトラインを案内したいと思います。

遺言書保管法とは

この法律は、高齢化の進展等の社会情勢の変化を鑑みて、相続をめぐる紛争を防止するという観点から、法務局において自筆証書遺言を保管できる制度を設けるものです。

制定の背景

遺言の効力は、遺言を残した人(=遺言者)が亡くなったその時から発生します(民法985条1項)。

民法985条(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

通常、遺言書の内容が実現されるまでには、遺言書作成時から遺言者(=遺言書を作成した者)が死亡するまでの間、長期間を要します。そのため、その期間内に次のようなリスクが発生します。

・遺言書を紛失してしまう。

・相続人等によって遺言書が隠匿・変造されてしまう。

・相続人等が遺言書を発見しないまま遺産分割が終了してしまう。

また、自筆証書遺言は、公正証書遺言のように証人は不要で、一人で作成できます。そのため、「本当に本人が残した遺言なのか」といった遺言書の真贋をめぐる紛争が生じるリスクもあります。

そこで、以上のようなリスクを回避して、遺言者の死亡後に、より確実に自筆証書遺言の内容を実現できるようにするために、遺言書保管法が制定されました。

保管の仕組み

遺言書保管法によって、次のように、自筆証書遺言を確実に保管し、相続人等がその存在を把握することができる仕組みが設けられています。

保管できる遺言書

民法968条によってした遺言(=自筆証書遺言)のみが対象となります(遺言書保管法1条)。

遺言書保管法1条(趣旨)

この法律は、法務局における遺言書(民法第968条の自筆証書によってした遺言に係る遺言書をいう。)の保管及び情報の管理に関し必要な事項を定めるとともに、その遺言書の取扱いに関し特別の定めをするものとする。

民法968条1項(自筆証書遺言)

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

保管を申請できる人

遺言の保管を申請するには、自筆証書遺言を作成した遺言者本人が遺言書保管所(法務大臣が指定する法務局)に自ら出頭して行わなければなりません(遺言書保管法4条1項・6項)。

申請できる法務局(遺言書保管所)

自筆証書遺言の保管の申請ができるのは、次のいずれかを管轄する遺言書保管所です(遺言書保管法4条3項)。

・遺言者の住所地

・遺言者の本籍地 

・遺言者が所有する不動産の所在地 

申請の予約

次のいずれかで保管の申請の予約を入れてください。

 (1) 法務局手続案内予約サービスの専用HPにおける予約

 (2) 法務局(遺言書保管所)への電話又は窓口における予約

必要書類

次の1~4までのものを持参して、予約をした日時に遺言者本人が、遺言書保管所に出向きます。

1.遺言書

ホッチキス止めはしないこと。また、封筒は不要。

2.申請書

法務省ホームページからダウンロードできます。

3.貼付書類

本籍の記載がある住民票の写し等(作成後3か月以内のもの)

4.本人確認書類

遺言書保管所では、遺言書保管官(遺言書保管所に勤務する法務事務官のうちから、法務局または地方法務局の長が指定する者)によって、氏名その他の本人確認が行われます(遺言書保管法5条)。 そして、本人確認の書類としてつぎのいずれか1点を提示する必要があります。

・マイナンバーカード

・運転免許証

・運転経歴証明書

・旅券(パスポート)

・乗員手帳

・在留カード

・特別永住者証明書

保管方法

「遺言書」の保管は、遺言書保管官がその原本を遺言書保管所の施設内において保管します(遺言書保管法6条1項)。

また、その「遺言書に係る情報」は、磁気ディスク等に画像処理化して管理されます(遺言書保管法7条2項)。

保管期間

「遺言書」は、遺言者死亡の日から50年、遺言者の生死が明らかでない場合は、遺言者の出生の日から起算して120年保管されます。

また、「遺言書に係る情報」は、遺言者死亡の日から150年、遺言者の生死が明らかでない場合は、「遺言書」と同じく遺言者の出生の日から起算して120年保管されます。

手数料

遺言書の保管の申請には1通につき3,900円の手数料がかかります。

遺言者が死亡したら

遺言者が死亡した後、相続人、受遺者、遺言執行者等の関係相続人等(遺言書保管法9条1項各号に掲げる者)は、遺言書保管に対し、遺言書保管所に保管されている遺言書について、「遺言書情報証明書」の交付を請求することができます(遺言書保管法9条1項)。

遺言書情報証明書は、遺言書保管所に保管されている遺言書について、その画像情報等の遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明する書面です。そして、遺言書情報証明書を確認することによってその遺言書に係る遺言の内容や自筆証書遺言の民法968条に定める方式への適合性を確かめることができます。

そこで、これまで検認済みの遺言書を確認することによって行なっていた登記、各種名義変更等の手続は、遺言書が遺言書保管所に保管されている場合には、この遺言書情報証明書を確認することによって行うことになります。

ここに注意!遺言者の死後に保管の事実は自動的に通知されない

遺言書保管所に遺言書を保管した遺言者が死亡しても、その相続人、受遺者、遺言執行者等の関係者に、遺言書保管官から、遺言書を保管している事実の通知が来ることはありません。したがって、遺言書保管所に遺言書を保管した際は、保管した事実を、相続人等に生前に伝えておく必要があります。

ご覧いただいたとおり、遺言書保管法によって、自筆証書遺言の弱点がカバーされることになります。遺言書を残そうと思っても先延ばしにしてしまっている方は、遺言書保管法の施行をきっかけに、予約を取ることで期限を決めてしまうのも手かもしれません。

「残してみよう!」と思った方は、まずは法務省ホームページをご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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