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「不倫」をしても離婚請求は認められるか(その4)~「財産分与」はどれだけ必要か

竹内豊行政書士
有責配偶者が離婚請求をするには「財産分与」はどの程度求められるのでしょうか。(写真:アフロ)

有責配偶者(不倫をしたなどで夫婦関係の破綻の責任がある配偶者)からの離婚請求が容認されるには、「相当期間の別居」「未成熟子(未成年の子)の不存在」、そして「過酷状態の不存在」の以上「3つの要件」を満たすことが求められる(最高裁判決昭和62年9月2日)ことをお伝えしました。

そこで今回は、「3つの要件」の3番目の「過酷状態の不存在」について深掘りしてみたいと思います。

「経済的な配慮」が重要

「過酷状態の不存在」とは、離婚後に、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的にきわめて過酷な状態に置かれることがないことを意味します。この場合、特に経済的な配慮が重要視されます。

そこで、どの程度の経済的配慮が求められているのかを判例でみてみましょう。まずは、有責配偶者からの離婚請求を容認した判例をご紹介します。

離婚請求を「容認」した事例

・原告(=離婚を請求している有責配偶者の夫)が被告(妻)に対して、家賃の補助や住居購入の補助をしていた(最高裁判決昭和62[1987]年11月24日)

・高額の財産分与がなされた(4千万円の財産分与と月20万円の生活費)(東京高等裁判所平成1[1989]年2月27日)

・1千万円の財産分与と1千500万円の慰謝料を支払った(東京高等裁判所平成1年[1989]年11月22日)

離婚請求を「棄却」した事例

次に、有責配偶者からの離婚請求を棄却した事例をみてみましょう。

妻に住居、資産、収入がなく、疾病により就労も困難であるうえに、身体障がいをもつ子に対して妻の後見的配慮が必要である事案。

この場合、「離婚請求を容認することは、妻を精神的・社会的・経済的にきわめて過酷な状態に置くことになり、著しく社会正義に反する」として有責配偶者である夫からの離婚請求を棄却しました(東京高等裁判所平成20[2008]年5月14日)。

「離婚給付」がどれだけなされるか

「過酷状態の不存在」は、離婚後の財産分与などの離婚給付【注】において配慮すべき事項としてとらえられるのが一般的です。

また、離婚給付は、たとえば「総額1千万以上必要」といったような明確な基準は存在しません。結局のところ、前掲の「3つの要件」に照らして、個別に判断されることになります。

【注】離婚の際に夫から妻へ、または妻から夫へ支払われる金銭その他財産のことを離婚給付という。離婚給付には養育費のほかに財産分与と慰謝料がある。

離婚請求を容認する「前提要件」

有責配偶者からの離婚請求が認められには、「相当期間の別居」、「未成熟子(未成年の子)の不存在」、そして「過酷状態の不存在」の以上3つの要件が満たされる場合に離婚請求が容認されうることを4回にわたってご紹介してきました。

ここで、留意いただきたいのは、この3つの要件に基づいて離婚が認められるには、婚姻が破綻していることが前提要件となることです。したがいまして、「婚姻が破綻していない」と認定されれば、3つの要件の審理には入りません。

婚姻関係が破綻した夫婦が婚姻関係を継続している状態は、民法が夫婦に課している同居協力扶助義務(民法770条)等を実践することは到底期待できず、不自然といわざるをえません。だからといって、有責配偶者からの離婚請求を安易に容認してしまっては、正義・公平の観念、社会的倫理に反してしまいます。

そこで、有責配偶者からの離婚請求に関しては「3つの要件」を慎重に考慮して離婚を容認すべきか否かが判断されることになります。そして、容認される場合は、「過酷状態を不存在」にするために、それ相当の離婚給付がなされることが求められるということです。

なお、そもそも婚姻したからには、夫婦はお互いに貞操義務(配偶者以外の人と性的関係をもつこと)を負います。その点をくれぐれもお忘れなく。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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