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「養育費算定表」が16年ぶりに改定~「子どもの利益」実現に期待

竹内豊行政書士
16年振りの養育費の算定表改定で、「子の利益」に見合う養育費の決定が期待されます(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

最高裁判所の司法研修所は、離婚後に支払う子どもの養育費を決める際に、使われていた「算定表」を16年振りに改定しました。改訂版では、従来と比べて、全体的に増額傾向にあります。

今回は、「養育費」とはそもそも何なのか、そして、養育費の算定方法、改訂による今後の影響について考えてみたいと思います。

養育費とは

離婚しても親であることには変わりはありません。したがって、別居親も子を扶養する義務があります。これは、扶養に関する一般的な規定(民法877条1項)に基づきます。なお、離婚後の親権の有無とも関係はありません。

民法877条(扶養義務者)

1.直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

2.家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

3.前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

平成23年(2011年)民法改正で、養育費の分担が規定

平成23年(2011年)民法766条の改正で、条文に親子の面会交流権および養育費の分担が規定されました。

民法766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)

1.父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2.前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

3.家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

4.前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

さらに、親子の面会交流権および養育費の分担の周知を図る趣旨から、協議離婚届出書の様式が改定され(2012年4月施行)、面会交流権および養育費の取決めのチェック欄が設けられました。

養育費の算定方法

養育費の算定は次のとおり行います。

父母の協議で決める

養育費の算定については、協議離婚の場合は、父母が協議(話合い)で決めることになります。その場合、子どもの利益を最も優先して考慮しなければなりません(前掲、民法766条1項)

協議がまとまらない場合

父母の協議がまとまらない結果、家庭裁判所の調停などの場で養育費を決める場合は、養育費算定基準として、現役裁判官有志の研究会である東京・大阪養育費等研究会が、平成15年(2003年)に法律雑誌に発表した「簡易迅速な養育費等の算定を目指して~養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(以下、「算定表」といいます)が用いられてきました。

算定表では、総収入から税金や住居費といった必要経費を差し引いた「基礎収入」を夫婦それぞれで算出し、それを基に子どもの生活費をどう分担するか、」という考えで養育費を決めています。

16年ぶりの見直し

しかし、16年前とでは、社会情勢や税制が大きく変化しています。そこで、最高裁判所司法研修所は、家庭裁判所で実務を担う裁判官4人に算定表見直しの研究を委嘱していました。そして、算定表の改訂版が本日23日付の研究報告書で公表されました。

★令和元年12月23日に公表された改訂標準算定表(令和元年版)は、東京家庭裁判所ホームページでご覧いただけます。

養育費が増加傾向に

改訂版も旧算定表の考え方を踏襲した上で、現在の社会情勢や所得税などの税率を反映しています。その結果、年収によっては、月1~2万円程度増えるなど、全体的に増加傾向となりました。

18歳成人への対応

養育費は、子どもが成人に達するまで支払うのが一般的です。しかし、民法改正で令和4年(2022年)4月には、成人年齢が現行の20歳から18歳へ引き下げられます。そこで、報告書では、「大半の子どもは18歳の段階では経済的に自立していない」として、「現行通り20歳まで養育費を支払うべき」と結論付けています。

従来の算定表には、「低額過ぎる」との批判がありました。改訂版によって、民法が掲げる「子の利益を最も優先」する養育費の支払いの実現を期待できます。

もし、離婚を検討されている場合は、ぜひ改訂版の算定表を参考にしてみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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