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コスパ抜群の「永遠の愛」の証し~「結婚指輪」といっしょに渡したいあるものとは

竹内豊行政書士
結婚指輪といっしょに渡せば永遠の愛を証明できるものがあります。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

結婚をしたら永遠の愛の証しとして結婚指輪を交わすことはよくあります。そこで、さらに永遠の愛をゆるぎないものにする証しがあります。それは、遺言書です。

結婚をするとパートナーが「相続人」になる

役所に婚姻届を届け出ると、法的に婚姻が成立します。婚姻が成立すると、次のような権利義務が夫婦間に発生します。

夫婦同氏(民法750条)

夫婦は、結婚の際に夫または妻の氏(法律では「姓」や「苗字」を「氏」と呼びます。)のどちらかを夫婦の氏として選択しなければなりません。

同居協力扶助義務(民法752条)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助し合わなくてはいけません。婚姻共同生活を維持する基本的な義務とされています。

貞操義務

民法の条文に規定はありませんが、重婚が禁止されて、同居協力扶助義務が規定されて、不貞行為(配偶者以外の人と性的関係を持つこと)が離婚原因になる(民法770条1項1号)ことから、また、一夫一婦制という結婚の本質から、夫婦は貞操義務を負うとされています。

夫婦間の契約取消権(民法754条)

夫婦は結婚期間中に締結した夫婦間の契約を、結婚期間中はいつでも、何の理由もなしに一方的に取消すことができます(ただし、第三者の権利を害することはできません)。

その他、姻族関係の発生(民法725・728条) 子が嫡出子(婚姻関係にある夫婦から生まれた子、つまり夫の子)となること(民法772・789条)、そして、配偶者(夫または妻)が相続人となり、配偶者の相続権が認められることとなります(民法890条)。

民法890条(配偶者の相続権)

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

新婚相続のリスク~意外な人が相続人になる

結婚をして、子どもが生まれると、配偶者と子どもが相続人になります。しかし、子どもが生まれる前に配偶者が亡くなってしまうと、意外な人が相続人に加わってきてしまいます。「夫が亡くなったら妻である自分だけが夫の全ての遺産がもらえる」とお考えの方がいるかもしれませんが、それは違います。

義理の父母が相続人になる

子どもがいない夫婦の場合、亡配偶者の親、すなわち、義理の父母が相続人になります。その場合の法定相続分(法律で決められた遺産の取得割合)は、配偶者が3分の2、義理の父母が3分の1になります。

義理の兄弟姉妹が相続人になる

子どもがいない夫婦の場合、亡配偶者の両親が既に死亡しているときは、亡配偶者の兄弟姉妹、すなわち義理の兄弟姉妹が相続人になります。その場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、義理の兄弟姉妹が4分の1となります。

甥・姪が相続人に!?~「笑う相続人」が現れるケースも

もし、亡配偶者の両親が既に死亡していて、さらに義理の兄弟姉妹の中にも、既に死亡している者がいる場合は、その死亡した兄弟姉妹の子ども、すなわち、甥(おい)・姪(めい)が、亡くなった自分の親の代わりに相続人に入ってきてしまいます。このような甥・姪のことを法律では代襲相続人といいます。また、思いもよらない遺産が入ってきて笑いが止まらないといったことを表して笑う相続人といったりします。代襲相続人は、亡き親(=亡兄弟姉妹)の相続分を承継します。

新婚相続はモメやすい

このように、新婚早々に子どもがいない状態で万一パートナーが死亡してしまうと、義理の父母や義理の兄弟姉妹、場合によっては亡パートナーの甥・姪までもが相続人になってしまうことがあります。

そして、遺言がない場合は、このような意外な相続人と亡パートナーの遺産を分け合う話合い(この話し合いのことを遺産分割協議といいます)をしなければならなくなります。

意外な相続人との話し合いは、子どもがいる場合の相続と比べるともめやすい傾向があります。例えば、亡夫の遺産を義理の父母と遺産分割協議をしなければならない場合、嫁と姑の関係がよくない場合は当然もめるでしょう。また、兄弟姉妹や甥姪が相続人になる場合は、相続人が多くなってしまったりコミュニケーションが取りにくいことが原因で遺産分割が思うように進まないことがめずらしくありません。中には、会ったこともない人と亡配偶者の遺産を分け合う羽目になることもあります。

遺産分割協議は多数決で決められない

遺産分割協議は相続人全員の合意が絶対条件です。一人でも反対する人が出たら、協議は成立しません。遺産分割協議は多数決で決めることはできないのです。

永遠の愛の証しとしての遺言書

このように、一般的に新婚相続の場合は、意外な相続人の出現でもめやすくなってしまったり、手続きが思うように進まないリスクが高くなります。

そこで、遺言書が役立ちます。遺言書があれば、遺言書の内容のとおり、亡配偶者の遺産を承継できるのです。なお、義理の父母には遺留分(最低限承継できる遺産の割合)がありますが兄弟姉妹とその代襲相続人には遺留分がありません。したがって、兄弟姉妹が法定相続人の場合は、法的に万全な遺言書を残せば、遺言書のとおり遺言の内容が実現できます。

事情が変わってしまったら・・・

結婚のときに「妻にすべての財産を相続させる」という内容の遺言書を残した場合、その後子どもが生まれて、子どもにも残してあげたいなど事情が変わったら、新たに遺言書を残せば、その遺言書が有効になります。その場合は、前の遺言書は破棄しておきましょう(相続開始後に複数の遺言書が出てくると法的に複雑な関係が発生する場合があるため)。

また、残念ながら、パートナーと離婚しなければならないことになった場合も同様にその遺言を破棄するか、その遺言書を撤回する内容の遺言書を残すことで、その遺言を無効にすることができます。

結婚指輪と遺言書の2点セットで永遠の愛の証し

結婚指輪はこの世に生きている間の愛の証し、そして、遺言書は亡くなった後の愛の証しと考えてみてはいかがでしょうか。

しかも、紙とペン、そして知識があれば遺言書は残せます。加えて、法的効果まで備えています。遺言書はコスパ抜群なのです!

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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