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横綱白鵬関が日本国籍を取得~帰化とは?オリンピック日本代表になれる?

竹内豊行政書士
横綱白鵬関が日本国籍を取得した「帰化」とはどういう制度でしょうか。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

大相撲で史上最多42度の優勝を果たしたモンゴル出身の横綱白鵬関(34)の日本国籍の取得が、9月3日付の官報で告示されました。これにより、白鵬関は日本国籍を取得することとなりました。日本国籍を取得した主な目的は、日本相撲協会が、引退後に親方として協会に残るには日本国籍が条件と定めているためと報道されています。

帰化とは

帰化とは、その国の国籍を有しない者(外国人)からの国籍の取得を希望する旨の意思表示に対して、国家が許可を与えることによって、その国の国籍を与える制度です。日本では、帰化の許可は法務大臣の権限とされています(国籍法4条)。

国籍法4条(帰化)

1日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。

2帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。

帰化の条件

帰化の一般的な条件は、国籍法5条に次のとおり規定されています。

 

1住所条件

 引き続き5年以上日本に住所を有すること。

2能力条件

 20歳以上で本国法によって能力を有すること。

3素行条件

 素行が善良であること。

4生活条件

 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができること。

5重国籍防止条件

 帰化しようとする者は、国籍を有しないか、または日本の国籍の取得によってそれまでの国籍を喪失すること。

6憲法遵守条件

 日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、もしくは主張し、またはこれを企て、もしくは主張する政党その 他の団体を結成し、もしくはこれに加入したことがないこと。

なお、日本と特別な関係を有する次の外国人については上記の帰化の条件を一部緩和しています(国籍法6条から8条まで)。

・日本で生まれた者

・日本人の配偶者

・日本人の子

・かつて日本人であった者 等

帰化許可の申請方法

本人(15歳未満のときは,父母などの法定代理人)が自ら申請先(住所地を管轄する法務局・地方法務局)に出向き、書面によって申請することが必要です。

その際には、帰化に必要な条件を備えていることを証する書類を添付するとともに、帰化が許可された場合にはその方について戸籍を創設することになるので申請者の身分関係を証する書類も併せて提出する必要があります。

通常は、申請をする前に、法務局・地方法務局に出向いて事前相談をして、許可の見込みがある場合は申請書の準備にとりかかります。なお、事前相談は予約が必要です。

許可されると

法務大臣が帰化を許可した場合は官報にその旨が告示されます。帰化は、その告示の日から効力を生ずることとなります(国籍法10条)。

国籍法10条(帰化)

1法務大臣は、帰化を許可したときは、官報にその旨を告示しなければならない。

2帰化は、前項の告示の日から効力を生ずる。

帰化許可者はどのくらいいるのか

法務省民事局が発表している「帰化許可申請者数、帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移」によると、平成28(2016)年から平成30(2018)年の許可者数は次のとおりです。

平成28(2016)年 9554人(許可率83.24%)

平成29(2017)年 10315人(同93.23%)

平成30(2018)年 9074人(同91.26%)

このように許可率は高いですが、一般に申請前に法務局に事前相談をした上で、許可の見込みがある者が申請していることが原因と考えられます。

なお、上記3年間の韓国・朝鮮国籍からの帰化許可者数の累計は15422人で53.28%を、同じく中国籍からは8739人で30.19%を占めています。

帰化が許可されると

帰化が許可されると次のようなことができます。

戸籍を取得する

帰化の告示の日から1か月以内(ただし、法務局から帰化者に発行される帰化者の身分証明書の交付の日が期間の起算日となる)に新しく定める本籍地または所在地の市区町村役所へ届出(帰化届)をして戸籍を取得します。

戸籍法102条の2(国籍の得喪)

帰化の届出は、帰化した者が、告示の日から一箇月以内に、これをしなければならない。この場合における届書の記載事項については、前条第二項の規定を準用する

日本国のパスポートを取得できる

戸籍ができたことで日本国のパスポートを取得できます。

旅券法3条1項(一般旅券の発給の申請)

一般旅券の発給を受けようとする者は、外務省令で定めるところにより、次に掲げる書類及び写真を、国内においては都道府県に出頭の上都道府県知事を経由して外務大臣に、国外においては最寄りの領事館(領事館が設置されていない場合には、大使館又は公使館。以下同じ。)に出頭の上領事官(領事館の長をいう。以下同じ。)に提出して、一般旅券の発給を申請しなければならない。ただし、国内において申請する場合において、急を要し、かつ、都道府県知事又は外務大臣がその必要を認めるときは、直接外務省に出頭の上外務大臣に提出することができる。

一 一般旅券発給申請書

二 戸籍謄本又は戸籍抄本

三 申請者の写真

選挙権が与えられる

日本国憲法第15条は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めています。このことから、日本国籍の成人には憲法上選挙権が保障されています。したがいまして、日本に帰化した方は日本国籍を取得することで選挙権があたえられます。

オリンピックの日本代表になれる

オリンピック憲章には「競技者の国籍」として、「オリンピック競技大会に出場する競技者は、その競技者の参加登録をおこなうNOC(国内オリンピック委員会)の国の国民でなければならない。」と定めています。

したがいまして、外国人がオリンピックの日本代表になるためには、帰化をすることが求められます。

なお、リオデジャネイロオリンピックのカンボジア男子マラソン代表になった猫ひろしさんは、日本国籍を離脱してカンボジア国籍を取得しました。

もちろん、帰化してもオリンピック代表になれなければオリンピックには出場できません。

帰化をするとは、従来の国籍を失うことを意味します。そのため、帰化申請をする方の多くは、今までの人生を振り返り、そしてこれからの人生設計を慎重に考えたうえで帰化の申請に踏み切るようです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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