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「お墓」で知っておくこと・すべきこと~お墓を引き継ぐ人は1人に限られる?

竹内豊行政書士
お墓を引き継ぐ人の数は1人に限られるでしょうか。複数でもかまわないのでしょうか。(写真:アフロ)

お墓を引き継ぐ人の数は1人に限られるでしょうか。

お墓を代表とする祭祀財産(過去帳などの家系図、位牌・仏壇仏具・神棚・十字架などの祭具)については、民法897条で次のように規定されています。

897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

このように、民法には、祭祀承継者(祭祀財産を引き継ぐ人)は1人でなければならないという規定を設けていません。そして、これまでの裁判例は、複数人を祭祀承継者とすることを認めています。

では、具体的に祭祀継承者の座をめぐって争った裁判事例を見てみましょう。

【事例その1】祭祀承継者は原則1人

祭祀承継者は本条(民法897条)の趣旨や文言からいっても、本来、1人であるべきものであるし、祭祀財産は祭祀を行うための用具であるから、それが著しく遠隔地にあるとか、歴史的価値が高く祭具本来の意味を失った場合等の特段の事情がある場合を除き、原則として先祖の祭祀を主宰するのにふさわしい者がその権利を単独で承継するべきものであるとする(大阪高決昭和59・10・15)。

【事例その2】祭祀財産を分けて引き継いでもかまわない

一般に系譜、祭具及び墳墓の承継者は1人に限られるべきであるが、従前より祭祀財産を管理してきた者が系譜、祭具を管理することに戦前戸主であった被相続人の唯一の相続人も異議がないなど特別の事情があるときは、祭祀財産を分けて別個にその所有権者の承継者を指定しても差し支えないとされた事例(東京家審昭和42・10・12)

【事例その3】複数の墓地を異なる者が引き継ぐことができる

2か所の墓地使用権の承継をめぐり、被相続人の前妻側の相続人と後妻側の相続人とが対立している事案において、一方について前妻側の相続人を、他方について後妻側の相続人を、それぞれ承継者と定められた事例(東京家審昭和49・2・26)。

【事例その4】祭祀財産を共同して引き継ぐことができる

一般に祭祀の承継者は1人に限られるべきであるが、墓地の所有形態が甲・乙の共有であって、両家の祖先が埋葬され、「甲・乙両家の墓」として代々祭祀が行われ、管理されてきた等の特別の事情がある場合には、祭祀財産を共同して承継するものとして承継者を共同指定することも差し支えないとされた事例(仙台家審昭和54・12・25)

【事例その5】祭祀承継者は、その者の意思や能力、関係者の意向等を総合的に判断して決める

墓地・位牌等の一部については先妻の子を、他の一部については後妻を祭祀承継者とした原審判に対し、後妻は祭祀承継者にふさわしくないとして先妻の子が申し立てた抗告審において、被相続人との関係、祭祀主宰者の意思や能力、関係者の意向等に照らすと、後妻は相続人の中でも最も親密に被相続人との共同生活を送った者として祭祀財産の承継者にふさわしいとして、抗告が棄却された事例(東京高決平成6・8・19)。

【事例その6】当事者の対立が激しい場合は、祭祀財産承継者を各別に指定することもやむを得ない

被相続人の長男が、自己を祭祀財産承継者に指定することを申し立てた事案において、当事者間の対立が激しい場合には、祭祀財産承継者を各別に指定することもやむを得ないとして、墳墓については相手方(三男)が、祭具(仏壇、位牌)については長男が承継者に指定された事例(奈良家審平成13・6・14)。

祭祀承継者は原則1人

以上の裁判例をまとめてみましょう。

1.祭祀承継者は、その者の意思や能力、関係者の意向等を総合的に判断して決める

2.祭祀承継者は原則1人とする。

3.「特段の事情」や当事者間の対立が激しい場合は次のようにして複数人が祭祀財産を引き継ぐことができるようにする。

・共同で引き継ぐ

・祭祀財産を分ける

祭祀承継者は指定できる

祭祀承継者の座をめぐる争いは、原因が感情的な問題が強いため「骨肉の争い」になってしまいます。

そのような事態を避けるためにも、親族が良好な関係なうちに祭祀承継者を親族の間で話し合って決めておいてはいかがでしょうか。

祭祀承継者は指定することができます(民法897条1項ただし書き)。

指定の方法は決められていません。ですから口頭でもかまいません。ただし、それでは、いざ相続が開始した時に「言った」「言わなかった」といった泥沼の争いになりかねません。

できれば、「祭祀承継者に長男・山田太郎を指定する」といったように遺言で記しておきましょう。そうすれば、祭祀承継者をめぐる争いを未然に防ぐことができるでしょう。

(引用・参考『判例民法10・相続』(第一法規))

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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