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町田市の悲しい事件。試されているのは私たち大人です。

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

町田の小学生の自死

あまりに悲しいできごとです。

まだわかっていないことが多いですが,あまりに悲しいです。私もまだ新聞等の記事の範囲でしか知らないので断定的なことは書けませんが,あまりに悲しいです。

いろいろな記載がありますが,何が本当かわかりません。

私自身,まだ整理できていませんが,書ける範囲で書きます。

私は現在は大学で教職を担当し,全国各地の先生方や子どもたちと一緒に「子どもとネット」についていろいろな取組をしています。研究室に出入りする学生たちと一緒に,スマホサミットを年間30回以上,出前授業を200回以上開催していて,教員研修等にも数多く取り組んでいます。

元中学校教員の私がこのような活動をしているのには理由があります。私が勤務していた校区で悲しい事件が起き,命が失われました。私の生徒が罪に問われましたが,きっかけの1つがネットでした。私が自分の職能をしっかり果たせば守れた命だったと今でも思っています。

当時,私の自分の残りの命を,悲しい事件が起きないようにするために使いたいと誓ったのを覚えています。今回の事件,とても悲しいです。以下,自戒を込めて書きます。

学校配布の端末で

今回の悲しいできごとは,学校配布の端末で起きたと報道されています。学校が配布しなければ守れた命かもしれません。

私はたびたび,警鐘を鳴らしてきました。よく「これからの時代を生きる子供にはネットを自由に使わせるべきだ」「失敗から学んだらよい」と話す人がいますが,私は断固として反対してきました。ネットでの失敗は取り返しがつかないからです。グランドで遊んでいて転んで怪我をするのとは訳が違います。今回の場合も,一般的なフィルタリングソフトが入っていたようですが,十分でなかったのかもしれません。

一方,子どもにネットを一切使わせないと主張する人もいます。私はこの考えにも反対です。これからの情報化社会を生き抜いていく子どもたちですから,使いこなせるように支援する必要は大人の側に当然あります。

自由に使わせる(100)も全く使わせない(0)も,どちらも無責任です。私たち大人は,責任を持って子どもたちを導かなければなりません。安全に十分に配慮したうえで,活動を保障しなければなりません。

30なのか,50なのか,70なのか,社会全体で慎重に議論して進めていくことが必須です。そういう意味で,今回の問題は責任者を糾弾するだけでは不十分です。対策の方向性の議論を十分にして,二度と同じような悲しいできごとが起きないようにしなければなりません。

子ども用SNS

社会がどんどん進んでいます。小学生の多くがSNSや動画閲覧サイトに投稿するようになっています。しかし,Twitterもインスタグラムもユーチューブ,TikTokも,小学生の利用を規約で禁じています。

先日,有識者と言われる方が「小学生からTwitterで発言させて学ばせる必要がある」と発言しておられました。「失敗して学ぶ必要性」を強調しておられましたが,私は規約違反を子どもたちに推奨する気持ちにはなれません。

私は2014年頃,いろいろな場面で「子ども用SNS」の必要性を強調しました。「死ね」「殺す」等のNGワードを送信できない,裸の画像など好ましくない画像を送れない,異性との出会いを禁止する,迷惑行為ができない,そういう機能があるSNSです。当時,モバゲーグリー等のゲームサイトのミニメールで実際に行われていたシステムです。24時間400人体制で,画像は目視して確認していました。

これからの社会には,子どもたちが安心して使うことができるSNSが必要だと痛感していたからです。ちょうど子どもたちがガラケーからスマホに持ち替えだしていて,子どもたちにLINEが急速に普及し始め,高校生諸君が使うSNSもミクシィからTwitterに変化している時期でした。

そういう時代だったので,子ども用SNS,子ども用LINEの開発が急務だと考えていました。私は,前述のような機能に加えて,保護者が子どもの使用状況を管理,監視できる機能を付けたして,複数のSNS運営会社に持ちかけましたが,残念ながら見向きもされませんでした。

解決策をこの場で明言できないのが歯がゆいですが,こういう方向性も考えられます。

Messengerキッズ

昨年,Facebook社が,Messengerキッズを始めています。同社のヘルプセンターによると,「保護者のFacebookアカウントからお子様のMessengerキッズアカウントを設定し管理する」「保護者による友達追加の監督」等,書かれています。

自分のiPhoneのApp Storeで見てみると,評価182件で説明が英語でした。

まだまだこれからだと思いますが,方向性は正しいと思います。アメリカの会社にできて,日本にできないはずはありません。

約10年前の日本の会社が実際にしていたことです。英知を結集すれば可能なはずです。命より大切なものはありません。

任天堂みまもりスイッチ

任天堂の「みまもりスイッチ」は素晴らしいと思っています。設定しておけば,保護者はスマホ等で子どものスイッチの利用状況を把握できます。時間が来たら自動的に電源を切る設定もできます。

私の研究室の学生が卒業論文で,「みまもりスイッチ」の啓発授業に取り組んだこともあり,同社の担当者とよく話をするのですが,「できれば強制的に使えなくする仕組みは使ってほしくない」と話します。子どもが自分で判断して自律した使い方ができるよう,「お知らせ」のかたちを推奨しています。同感です。

ユニセフの会議で,同社の機能を紹介してもらったのですが,海外からも極めて高い評価でした。

話が反れますが,その会議でドイツの方は「私たちはペアレンタル・コントロールという言葉はよくないと思っている」と発言されました。「親のコントロール」では子どもの意思が反映されないとのことです。「私たちは,ペアレンタル・コンセント(親の同意)が重要だと思う」と話しておられました。

ネット社会を生きる大人として

当時(2014年頃),あるSNS会社の偉い人は,子ども用SNSの重要性にある程度理解を示しながらも,「莫大なコストがかかる」とおっしゃっていました。食い下がりましたが,ミニメールに参加していた人数と,例えばLINEの人数は全く違うということでした。しかしです。コストよりも大切なことがあります。

ネット社会を生きる大人として,私たちは今回の悲しいできごとから目をそらしてはいけないはずです。試されているのは私たち大人です。自戒を込めて書いています。

私は2019年,全国5ヵ所(久留米,熊本,津,茨城,神戸)で,学生たちと一緒に,ユニセフスマホサミットをコーディネートしました。子どもたち自身でスマホの使い方を考えるお手伝いです。どの会場でも子どもたちは,「私たちだけでは難しいので大人も一緒に考えてほしい」と言いました。ある会場でユニセフの方は以下のようにおっしゃいました。

ネットは道路と同じだ。使わなければ事故は起きないが,使わないわけにはいかない。道路には交通ルールがあるが,交通ルールを守っていても事故には巻き込まれる。だから今も道路交通法は改正されるし,学校でも交通マナーを教えている。スマホやネットも同じだ。

ユニセフの方の個人的な意見か,ユニセフの公式見解か私は知りませんが,非常に重要な指摘だとおもいます。

ご意見をお持ちの方,ぜひ議論したいです。こういう書き込みをするとたいてい,0派か100派の極端なご意見をお持ちの方から,頻繁に長文の意見が届きます。その多くが「誹謗中傷」にも読めるような内容です。少し前,「老害」と呼ばれ,さすがにショックを受けました。そういう意見はしばらくは,ご遠慮ください。私も56歳になりました。私には時間がありません。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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