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2017年 衆議院議員総選挙の結果を総括する 「排除」発言が与党勝利の理由なのか

竹中治堅政策研究大学院大学教授
自民党本部での安倍晋三首相(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 

はじめに

 10月22日に総選挙が行われ、自民党は284議席、公明党は29議席、合わせて313議席を獲得し、大勝した。この議席数は衆議院議席の三分の二を超える。

 野党について見ると、立憲民主党、希望の党、共産党、日本維新の会がそれぞれ55議席、50議席、12議席、11議席を確保するにとどまり、全体の獲得議席は無所属も含め152となった。

 この選挙の結果の特徴とその原因について分析したい。希望の党代表の小池百合子氏の「排除」発言が野党苦戦を招いたと注目されることが多い。しかし、それだけが要因なのか。こうした選挙結果となった原因について改めて分析してみたい。

 原因は二つある。一つは安倍政権のこれまで5年の実績が評価されたこと。二つは野党が自爆したも同然で、準備不足の上、分裂状態で選挙戦に臨んだことである。

 

安倍政権は評価された

 安倍政権が一定の評価を受けたことは比例区で自民党が獲得した票数に現れている。

 自民党は1855万5717票を獲得、これは今回を含め過去3回の総選挙で最高である。また率では総得票数の33.27%を占め、これも過去3回の選挙で最大である。

 安倍政権は外交・安全保障面ではオバマ・トランプ両政権の下で、日米関係を強化する一方、日EU経済連携協定大枠合意などの実績を残した。経済面では、財政規律の健全化では踏み込み不足であるものの、デフレ状態の解消に漕ぎ着けた。また、電力自由化、コーポレートガバナンス改革、法人税減税、外国人訪問客増大、来年からの民泊解禁などの実績を残している。細かいことで言えば、国立博物館、美術館の金曜日土曜日の開館時間の延長も実現された。

 こうした実績がフェアに評価されたということである。

本来は野党にとって好機だった

 次に野党について見てみよう。10月上旬の内閣支持率と内閣不支持率は一般に政権に好意的な数字が出ると考えられている読売新聞でもそれぞれ41%、46%であり、野党にとっては過去2回の総選挙に比べ好機だったはずである。

 内閣に対する不支持率が高かったのは広く指摘されてきたように森友学園・加計学園に現れたような安倍首相の政権運営手法に対して多くの人が不満を抱いていたからである。

 しかしながら、野党はこの環境を生かすことができなかった。

 今回、注目されたのは希望の党の動向である。9月25日に小池百合子都知事は希望の党の結成と自らの代表就任を発表する。28日には民進党は両院議員総会で、民進党の候補者は希望の党から公認を得て、選挙戦に臨む方針を決める。

 しかし、希望の党側は安全保障政策や憲法に対する考えで一致する候補者のみを公認する考えで、一部の民進党の候補者は公認を拒まれる。こうして立憲民主党が結成され、野党の分裂の度合いは高まる。

 

「排除」発言は決定的なのか?世論は「選別」には好意的であった。

 比例区の得票数に注目すると立憲民主党と希望の党の得票数は自民党のそれを上回る。しかし、これが議席数に繋がらなかったのは、多くの選挙区で希望の党、立憲民主党、共産党の間で票が割れたためである。

 希望の党の勢いが伸びなかったのは小池代表の「排除」発言のためであると評価されることが多い。果たしてそうであろうか。民進党に対しては安全保障政策や憲法改正について党としての意見がまとまらないことについて根強い批判があった。このため、小池代表が候補者を選別する方針を掲げたことについては好意的な意見も多かった。これは朝日新聞による世論調査に端的に現れている。

 10月3日、4日の調査では公認を絞る方針について53%が「妥当」、25%が「妥当」でないと回答しており、許容する意見が圧倒的である(『朝日新聞』17年10月5日)。

希望の党の政策や選挙戦術は不十分

 また、「排除」発言がなかったとしても、野党の戦績は振るわなかったと考えられる。希望の党は候補者を選別する方針を採っていた以上、立憲民主党のようなよりリベラル色の強い政党はいずれにせよ結党され、野党票は分散してしまったはずである。

 また、希望の党の政策が十分に準備されたものでなかったことはあまりにも明らかであった。国政に臨む上での真摯さを疑わせるものであった。

 例えば、希望の党は保育園・幼稚園の無料化を掲げた。一方で、消費税増税を凍結し、財源は示さなかった。ベーシックインカム導入も盛り込んだ。このためには抜本的に社会保障制度を改めることが必要なはずだが、どのように実現していく考えなのか、具体的な手順は全く示されていない。「12のゼロ」という公約も唐突であり、選定基準は不明であり、国政政党としての信頼性に疑いを招くものであった。例えば、「ペット殺処分ゼロ」といった政策はなぜ盛り込まれたのか。

 また、選挙戦術にも無理であった。かなりの元職や前回の選挙の候補者を強引に国替えさせ、縁もゆかりもない選挙区から出馬させた。

 さらに、立憲民主党との候補者調整も全く行わなかった。

 一体、議席をどれほど真剣に獲得しようと考えていたのか甚だ疑問である。

 一方、立憲民主党は善戦した。比例区で獲得した票数は1108万票で2014年の民進党が獲得した978万票を上回るほどの勢いを示した。「排除」されたことへの同情票に加えて立憲民主党はこれまでの民進党よりも左派・リベラル路線を鮮明にしたため、中道左派系の有権者の票が集中したと考えられる。しかし、小選挙区で擁立した候補者の数は63に留まった。明らかに準備不足であった。

民進党は好機を逸した

 結局、民進党の希望の党への合流を決断したことは拙速であった。

 これに対しては、東京都議会選挙における都民ファーストの圧勝、希望の党の結党発表時の注目を考えれば、合流決断当時の判断としてはやむを得ないものではないのかという反論が予想される。

 確かに、東京、さらには首都圏の一部では希望の党は一定の勢いを持ったと考えられる。しかし、そもそも希望の党は全国規模で候補者を擁立する態勢は整っていなかった。またすでに述べたようにその政策も生煮えであった。

 民進党がそのまま戦っていれば、東京と首都圏の一部、さらに大阪をのぞき、政権批判票の受け皿となっていた可能性が高い。特に今回注記すべきは立憲民主党が小選挙区で当選者を出した全ての選挙区で共産党との選挙協力が実現、共産党が候補者を擁立していないことである。民進党が共産党との選挙協力を行っていれば、小選挙区での当選者を上乗せ出来ていた可能性が高い。

 また、政策の内容でも好機であった。自民党が打ち出して来た教育無償化とその財源としての消費増税活用は民進党が唱え始めていた政策そのものであり、「丸呑み」と攻めることができたはずである。また、これまで自民党は民主党政権の掲げた高校無償化や子ども手当をバラマキと散々批判してきた。そうした主張との整合性も攻めることができたはずである。

 こうした野党の敵失に助けられ、自民党と公明党は圧勝することになった。

 なお、今回の選挙の過程は中長期的な野党の再編についての問題も示しているが、それについては稿を改めて議論したい。

 

政策研究大学院大学教授

日本政治の研究、教育をしています。関心は首相の指導力、参議院の役割、一票の格差問題など。【略歴】東京大学法学部卒。スタンフォード大学政治学部博士課程修了(Ph.D.)。大蔵省、政策研究大学院大学助教授、准教授を経て現職。【著作】『コロナ危機の政治:安倍政権vs.知事』(中公新書 2020年)、『参議院とは何か』(中央公論新社 2010年)、『首相支配』(中公新書 2006年)、『戦前日本における民主化の挫折』(木鐸社 2002年)など。

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