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中央競馬の厩務員ストライキ 前回のタイムリミットは開催前日午後5時 与える影響は?

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
競馬開催が危ぶまれる3月18日に出走予定のディープボンド(写真:REX/アフロ)

前回のストライキによる競馬中止の判断は開催前日の午後5時

 JRAの厩務員や調教助手が加入している労働組合は美浦、栗東にそれぞれ複数あるが、2022年の団体交渉(春闘)では美浦の関東労、美駒労、栗東の全馬労、関西労の4労組が交渉のテーブルについたが話し合いはまとまらず、続けられている。

 このままの状態が続けば、3月18日(土)、19日(日)の中央競馬開催が中止になる可能性がある。

 前回、日本で競馬のストライキが行われたのは1999年4月3日(土)。19年ぶりの事態で、中山、阪神、中京の競馬開催が中止となった。団体交渉は同年3月24日から続き、4月3日(土)と4日(日)の48時間、桜花賞を含む4月10日(土)と11日(日)の48時間のスト通告をしていたが、競馬前日、2日(金)午後5時の段階で妥結しなかったため、3日(土)の開催中止が決まった。

 その後、4日(日)は開催されたものの、話し合いは続けられ、最終的に団交が妥結したのは8日(木)。危ぶまれていた桜花賞を含めた開催は無事、行われたが、この時は「もしも桜花賞がなくなったら」とたくさんの競馬に関わる関係者が対応していたのを覚えている。

かつては皐月賞が延期に 制したのはキタノカチドキと武邦彦騎手

 かつて、ストライキの影響が大きく出たのは1974年で、開催中止になった中にクラシックレースである皐月賞もあった。結局、その年の皐月賞は遅れて5月3日に東京競馬場で行われた。さらに、本来4月29日に行われるはずだった天皇賞(春)は5月5日に延期された。

 余談だが、この1974年の皐月賞を制したのは武邦彦騎乗のキタノカチドキだった。2頭が後続を10馬身以上離して逃げたが、キタノカチドキは直線で前をとらえ、7連勝、無敗で優勝した。武邦彦騎手は”ターフの魔術師”と呼ばれた名騎手で、武豊騎手、武幸四郎調教師の父である。

 筆者が厩務員労組のストライキを目の当たりにしたのは競馬サークルに入って間もない1990年代だ。競走馬の調教をしない、というかたちでストライキを決行していた時代で、

調教を見に行ったらまったく馬が厩舎から出ておらず、従業員らは休憩室で暇をつぶしていたのでとても驚いた記憶がある。

 そのとき、厩務員らに取材したところ「馬の体調管理が気になる。1日くらいならストに付き合うが、長引いて欲しくない」と話しており、ストを行うことが馬の管理に影響を与えかねない印象があった。

 しかし、現在ではストライキの方法もかわり、馬の日常的な管理は通常どおり行われており、競馬開催における業務のみがストライキの対象となっている。

土日に中山で出走予定の関西馬は移動中 開催の準備は進む

 今週の開催に向けての準備は着々と行われており、すでに土日に出走する関西馬は中山競馬場への輸送も行われている。普段は日曜に出走する馬は土曜に運ぶが、土曜の競馬が中止になり日曜は開催された場合、スト権の行使は土曜のみとなったら日曜の競馬に影響がでるため、このような準備が行われている。そして、場内の飲食店では、土日の競馬場の来客を見越してじゅうぶんな仕込みもしているだろう。

 前回の開催有無の判断のタイムリミットは競馬開催前日の午後5時だった。時代は変わったため、この時間はひとつの目安に過ぎないが念のため書いておく。

 馬の日常的な管理はふだんどおり行われてはいるが、いざ競馬が中止になれば、賞金の積み上げができずにローテーションの計画が崩れる馬もいるだろう。出走予定で仕上げた状態で競馬がなくなれば、その体調にも影響が出る可能性もある。

 それぞれの立場にそれぞれの考えがあることは十二分に承知しているが、今のことだけでなく、業界全体の将来や持続性を踏まえた解決策が見つかることを切に願う。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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